心得てきた、わんこの扱い。
「シュルクー!! こっちだぞ!」
足場の悪い斜面をぴょんぴょんと身軽に越えていったルーウェルは、後ろに続くシュルクをご機嫌で呼んだ。
「……分かってるよ。」
ルーウェルと同じように難なく斜面を登りながら、シュルクはげんなりと肩を落とす。
こちらに大きく手を振るルーウェル。
なんだか最近、常時彼に耳と尻尾が生えているように見える気がするのは何故だろう。
(俺は、お前と遊びに来たわけじゃないんだけどな……)
もう下手な突っ込みはすまい。
嫌というほどつきまとわれた末に、ようやくルーウェルの扱い方を心得てきたシュルクだった。
「今日は、この辺までなら大丈夫かな。」
山の中腹辺りにある開けた場所に出たところで、ルーウェルがそう言って歩みを止めた。
「ここから、どの辺りまでなら動いて平気?」
「この風の感じだと、ここから半径五十メートルくらいまでが限界。それもあと二時間で風向きが変わってガスが流れてくるから気をつけて。調べるなら、北側からの方がいいよ。」
ルーウェルは端的に必要な情報を告げると、自らはすぐそこに建っていた山小屋の中へと入っていった。
この山小屋は、山への入山資格を得た者の寄付で建てられたのだそうだ。
誰でも使用することができ、急激な環境変化で下山ができなくなった際には、一時的な避難所としても機能するとのこと。
ルーウェルは小屋の中に設置された棚からいくつかの機材を取り出し、真面目な表情でそれらの調子を確認している。
「……なんか、そういうのを見てると、頭いいんだなって思えるな。」
複雑な心境になりながら、正直な感想を述べる。
「えへへ…。他の奴にも、研究中だけは別人だってよく言われんだよね。」
少し照れくさいのか、ルーウェルは軽く頬を染めて頭を掻いた。
「お前、研究者だったのか。」
「うん。地質学を専攻しててさ。今は論文を出した後で少し休みになったから、個人的な研究でこっちに来てたんだよね。」
「休みの日にまで研究って、馬鹿なのか?」
「だって、休みの日に遊びに行く友達もいないし。地質調査は楽しいぞー。季節や気候で全然違う顔を見せてくれるし、取れるデータは嘘をつかないし、オレを無視したりしないからな。」
「こじらせてんなぁ……」
シュルクは渋い顔をする。
確かに、自然や研究データは嘘をつかないかもしれない。
しかし、それらは決してこちらの喜怒哀楽にまで応えてくれるわけではないのだ。
自分には、そんな無機質なものに喜びを見出だせるその感性が理解できない。
「う、うるせーよ! 別にいいじゃんか! 個人的にやってる研究だって、ただの趣味でやってるってわけじゃない。ちゃんとした目的があるんだからな!!」
「はいはい。その目的ってのは、なんなわけ?」
先を促してやる。
ルーウェルと話すようになって分かったことは、彼が相当しつこい性格であること。
しかし、ある程度話を聞いてやれば、少しの間は大人しくなることだ。
ランディアの助言があってのことではあるが、それを把握してからは下手に彼を無視したり、彼の話を遮ったりすることはしていない。
二時間延々と声をかけ続けられるのが、三十分のおしゃべりで済むのだ。
時間も労力も四分の一でいいと考えれば、大人しくルーウェルに付き合ってやる方が利口だろう。
まあ、おかげでルーウェルにますます懐かれるという弊害も出ているのだけど。
いいのか悪いのか分からない状況に複雑さを噛み締めながら、シュルクはルーウェルの話を聞いてやることにするのだった。




