忘れていた彼の価値
「え? 山に入りたいの? だったら、オレと行く?」
それからまた数日。
相も変わらず集会所に通ってくるルーウェルの相手にもいい加減慣れてきた頃、ランディアから山の情報を聞いていたところで、ルーウェルがそう提案してきた。
「え?」
何気なく問いかけられたせいで聞き流しそうになりながらも、シュルクは間一髪でそれを聞き止めてルーウェルを見やった。
「そう簡単に入れんの?」
「だってオレ、入山資格持ってるし。さすがに頂上は規制が緩和されないと無理だけど、七合目くらいまでならいつでも行けるよ。ガスが薄いポイントは、全部頭に入ってるからな。」
自慢げに胸を反らすルーウェル。
「あー……そういえばお前、そんな資格を持ってたんだったな。」
ここ最近の行いのせいでルーウェルへの認識が〝手のかかる鬱陶しい奴〟になっていたので、すっかりそのことを忘れていた。
「なっ……忘れてたのかよ!?」
「はっきり言うとそう。」
「もー、なんだよー。ここ最近、ずっと一緒にいたくせにー。さっさと事情を話してくれりゃ、もっと早く連れてってやったのにさー!!」
ルーウェルは、まるで拗ねた子供のように唇を尖らせている。
そんなんだから、頭のできがポンコツだと誤認識してしまうのだ。
聞いた話によるとルーウェルは自分より二つ年上らしいのだが、とてもそんな風には見えなくて困る。
「ふふ、まあよかったじゃないか。今は店も落ち着いてるから、せっかくだし行っておいでよ。」
ランディアが穏やかに微笑んで、ルーウェルの提案を後押しする。
「で、でも……」
「シュルク君。」
とっさに異を唱えかけたシュルクの肩に、ぽんと。
ランディアが手を置いた。
「ちょっと大人になろう。ここである程度持ち上げとけば、もしかしたら少しは大人しくなるかもしれないよ?」
「うっ…」
ルーウェルには聞こえないようにそう言われ、シュルクは露骨に言葉につまる。
「それに、こういう子は邪険に扱っても、構ってもらえてると思って余計に懐いてくるよ。どうせだから、いいように使ってあげなさい。頼るんじゃなくて使うと思えば、まだ気が楽だろう?」
「………っ」
ランディアは、いつの間に自分のことをそこまで見抜いていたのだろう。
返す言葉もないシュルクは、奥歯を噛み締める。
そんなシュルクの肩を掴んだまま、ランディアは視線をルーウェルへと移す。
「ねえ? ルーウェル君は、別に今すぐでもいいもんね?」
「ああ、もちろん!!」
途端に、ルーウェルがキラキラとした目でこちらを見てくる。
オレ、必要だよね?
役に立つよね?
口には出さない期待が、全身からダダ漏れだ。
前には幻の尻尾を振りまくっているルーウェル。
後ろには肩を掴んだままのランディア。
完全に詰んだ。
逃げ場などないじゃないか。
「………………じゃ、じゃあ……頼むわ。」
全力で拒絶したがる気道をこじ開け、シュルクはなんとかルーウェルに聞こえる声を絞り出す。
その瞬間―――
「任せろ!!」
ルーウェルが心底嬉しそうに胸を叩いた。
「あ、ありがとな……」
肩を震わせて複雑な心境に耐えるシュルクに、後ろのランディアは満足そうに頷いていた。




