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Fairy song  作者: 時雨青葉
第8歩目 山中にて待つ者
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忘れていた彼の価値


「え? 山に入りたいの? だったら、オレと行く?」



 それからまた数日。



 相も変わらず集会所に通ってくるルーウェルの相手にもいい加減慣れてきた頃、ランディアから山の情報を聞いていたところで、ルーウェルがそう提案してきた。



「え?」



 何気なく問いかけられたせいで聞き流しそうになりながらも、シュルクは間一髪でそれを聞き止めてルーウェルを見やった。



「そう簡単に入れんの?」



「だってオレ、入山資格持ってるし。さすがに頂上は規制が緩和されないと無理だけど、七合目くらいまでならいつでも行けるよ。ガスが薄いポイントは、全部頭に入ってるからな。」



 自慢げに胸を反らすルーウェル。



「あー……そういえばお前、そんな資格を持ってたんだったな。」



 ここ最近の行いのせいでルーウェルへの認識が〝手のかかる鬱陶(うっとう)しい奴〟になっていたので、すっかりそのことを忘れていた。



「なっ……忘れてたのかよ!?」



「はっきり言うとそう。」



「もー、なんだよー。ここ最近、ずっと一緒にいたくせにー。さっさと事情を話してくれりゃ、もっと早く連れてってやったのにさー!!」



 ルーウェルは、まるで()ねた子供のように唇を尖らせている。



 そんなんだから、頭のできがポンコツだと誤認識してしまうのだ。



 聞いた話によるとルーウェルは自分より二つ年上らしいのだが、とてもそんな風には見えなくて困る。



「ふふ、まあよかったじゃないか。今は店も落ち着いてるから、せっかくだし行っておいでよ。」



 ランディアが穏やかに微笑んで、ルーウェルの提案を後押しする。



「で、でも……」

「シュルク君。」



 とっさに異を唱えかけたシュルクの肩に、ぽんと。

 ランディアが手を置いた。



「ちょっと大人になろう。ここである程度持ち上げとけば、もしかしたら少しは大人しくなるかもしれないよ?」



「うっ…」



 ルーウェルには聞こえないようにそう言われ、シュルクは露骨に言葉につまる。



「それに、こういう子は邪険に扱っても、構ってもらえてると思って余計に懐いてくるよ。どうせだから、いいように使ってあげなさい。頼るんじゃなくて使うと思えば、まだ気が楽だろう?」



「………っ」



 ランディアは、いつの間に自分のことをそこまで見抜いていたのだろう。



 返す言葉もないシュルクは、奥歯を噛み締める。

 そんなシュルクの肩を掴んだまま、ランディアは視線をルーウェルへと移す。



「ねえ? ルーウェル君は、別に今すぐでもいいもんね?」

「ああ、もちろん!!」



 途端に、ルーウェルがキラキラとした目でこちらを見てくる。



 オレ、必要だよね?

 役に立つよね?



 口には出さない期待が、全身からダダ漏れだ。



 前には幻の尻尾(しっぽ)を振りまくっているルーウェル。

 後ろには肩を掴んだままのランディア。



 完全に詰んだ。

 逃げ場などないじゃないか。



「………………じゃ、じゃあ……頼むわ。」



 全力で拒絶したがる気道をこじ開け、シュルクはなんとかルーウェルに聞こえる声を絞り出す。



 その瞬間―――



「任せろ!!」



 ルーウェルが心底嬉しそうに胸を叩いた。



「あ、ありがとな……」



 肩を震わせて複雑な心境に耐えるシュルクに、後ろのランディアは満足そうに頷いていた。



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