スーパーポジティブわんこ
「いい加減、我慢の限界だ! お前、何なんだよ!! 色んな奴らと仲直りしたんだろ!? 構ってほしいなら、よそを当たれ! なんで俺につきまとうんだ!? おかげでこっちは、駄犬の飼い主だの猛獣使いだのって、変な風に呼ばれてんだぞ!?」
旅に出てまで猛獣使いの名をいただくとは思っていなかったが、さすがにルーウェルの飼い主扱いはごめん被りたい。
こんなに手間のかかる奴のおもりなんてまっぴらだ。
「あっはっは! それはオレも知ってるぞ。『いいご主人ができてよかったな』って言われたから、『そうだろ?』って言っといた。」
「それは決して、褒められてるわけでも羨ましがられてるわけでもないからな!? ってか、お前まで一緒になって認めんな。否定しろよ!!」
「だってオレ、お前のことが気に入ったんだもん。」
「あの状況のどこをどう解釈したら、そうなるんだ!?」
本気で頭が痛くなってきた。
初対面から今日まで、自分はルーウェルの傷口を抉ることはしても、彼のフォローなんて一度もしていない。
こいつに気に入られる理由が、さっぱり分からないのだ。
「オレさ、誰かに怒られたのって初めてだったし、あんなに誰かのことを怖いって思ったのも初めてだったんだよね。」
「おう……で?」
ぶっきらぼうに先を促すシュルク。
とても友好的な態度ではなかったが、それでもようやく話を聞いてもらえたことが嬉しいのか、ルーウェルの口調がパッと明るくなる。
「ひどい目に遭ったって思ったけど、不思議と嫌じゃなかったんだ。今まで何をやってもなんか面白くなくて、胸の中がすかすかしてたんだけど、あの時はやけに胸がいっぱいになった感じがしてさ。あれ? もしかしたらオレ、こんな風に誰かに怒ってほしかったのかなって思ったんだよ。」
「……ほほう?」
嫌な予感がする。
口元をひきつらせるシュルクの前で、ルーウェルはどこか興奮したように頬を紅潮させた。
「そしたらさ、謝りに行った時に言われたんだよね。『お前にもまだ、怒ってくれる人がいたんだな。』って。詳しく話を聞いたらさ、嫌われすぎると、誰にも相手にされなくなるもんなんだって。『嫌いな奴に優しくしても怒っても意味ないし、ただ時間と気力が無駄になるだけで疲れるだろ?』って言われて、確かにそのとおりだと思ったわけよ。オレって今まで怒られることもなかったし、最近はなかなか口も利いてもらえなくなってて…。なんでだよって、すごく腹を立ててたけど……今考えると、それだけ嫌われてたってことだったんだな。それが理解できた瞬間、ひらめいたんだ!」
自分は、世紀の大発見をしたんだ。
そう訴えるようにきらめいたルーウェルの熱い眼差しが向かうのは、当然シュルクの元。
「怒ることにも情があるんだから、自分のことを怒ってくれた奴こそ、本当に自分のことを見てくれる奴なんじゃないかって!!」
「ちっがああぁぁーう!!」
シュルクは大絶叫。
「なんでそうなるかな!? 普通、怒ってくる奴より、優しくしてくれる奴の方がいいだろ!?」
「だって、母さんや父さんはずっと優しかったけど、オレはそれで満足したことなかったんだ。多分、オレは優しくされるだけじゃ嫌なんだと思う。」
「だからってな、お前に怒りをぶつける奴がみんな、お前に情を持ってるわけじゃねぇんだよ!」
「シュルクは、情がなかったのか?」
「あったっちゃあ、あったよ。お前の被害に遭ってたセルカさんたちに対する情がな! あの時も言っただろ。お前には興味ないって!」
本当は、肝心なところで親に放っておかれてしまった彼に同情する気持ちはあった。
しかし、そんなことを言えばどうなるかは火を見るより明らかだ。
さすがにここまで言えば、他に目を向けてくれるだろう。
そう願ったが……
「でも、オレはシュルクに興味がある。」
ルーウェルのしつこさは、天下一品だった。
「それに、シュルクはオレのことを怒った時に、本当の意味で構ってほしいなら、何がいけないのかを考えろって言っただろ? ああ言ってくれたってことは、それだけオレのことを見て考えてくれたってことじゃん。」
「曲解もほどほどにしとけ! お前が分かりやすすぎるだけだよ!!」
「でもみんなは、オレがなんでこんなことするのか分からないって言ってたぞ?」
「それは、お前がめんどくさいからそう言ってただけだろ……」
「じゃあなおさら、それを言ってくれる奴に価値があるってことだ。」
「待って。お前のその無駄にポジティブな思考回路はなんなの…?」
怒鳴ることにも疲れてきて、シュルクはずるずると椅子に座り込むと片手で額を覆った。
「それに、シュルクはなんだかんだでオレを無視しない。だから安心だ。こんなことを言ったことないから恥ずかしいけど、オレはシュルクと友達になりたい。」
「……………」
本当に、何なんだこいつは。
こんなつもりじゃなかった。
嫌いなあの言葉を、今なら声を大にして言える気がする。
深く溜め息をついていると、ふいに後ろから肩をつつかれた。
動かすのも億劫な頭を巡らせると、そこではフィオリアが困ったような笑顔で立っていた。
「シュルク、諦めた方がいいと思う。」
ずばり、結論を告げられてしまった。
「うるせ……」
シュルクは肩を落とす。
やめてくれ。
自分でもそれを悟り始めたところに、とどめなんていらないから。
本気でそう思ったが―――
「シュルク君、フィオリアちゃんの言うとおりだよ。」
「そうそう。一度懐いた子犬は、何があっても離れないって。」
フィオリアに加勢するように、周囲の客たちまでが口々に言ってきた。
あー、本当にそうですね。
皆さん、今はルーウェルの味方ですよね。
さっきから周りの空気が生ぬるいというか、微笑ましげというか。
少なくとも、俺からこいつを引き剥がす気は皆無ですよね。
「お客さん方まで、やめてくださいよ……」
大きく息を吐き出して机に突っ伏したシュルクに向けられるのは、やはり微笑ましげな視線だけだった。




