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Fairy song  作者: 時雨青葉
【第1幕】幕間
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運命なんてもの―――


「え…?」



 まさか聞こえてくるとは思っていなかった声に、シュルクは信じられない気持ちで後ろを振り向いた。



 その結果―――



「ええっ!?」



 本当に信じられないものを見てしまい、口から勝手に裏返った声が零れていた。



 まず目に入ったのは、その服装。



 フリルが幾重(いくえ)にもあしらわれて、ふんわりと広がった黒いミニのワンピース。

 白から桜色へ淡いグラデーションがかかる、丈の短い上着。



 首にはクリーム色のマフラー。

 タイツに包まれた細い足には、膝丈のロングブーツ。



 いかにも上品なお嬢様といった感じのドレスはどこへ消えた。

 それに……



 シュルクは、目の前で息を切らせているフィオリアを見つめる。



 今まで彼女の気弱さを際立てていた、柔らかな長い髪。

 それが、肩辺りで綺麗に切り揃えられていた。

 元々そういう髪質だったのか、短くなった髪は毛先で内側に軽くカールしている。



「お前……何、その格好…?」



 これにはさすがに度肝を抜かれ、シュルクは困惑しながら訊ねた。



「あ、これ? 取っておいた服が結構高く売れたから、買い換えたの。髪もこれだけ長くて綺麗ならいい感じに高く買ってくれるって言われて、思いきって切っちゃった。他にもピアスとか手持ちの物を売ったりして資金繰りしてたら、いつの間にかこんな時間で…。間に合ってよかったぁー。」



「いや、そうじゃなくて。」



 シュルクは首を横に振った。

 聞きたいのは、そういうことじゃない。



「なんで、そんなことしたんだよ。」



 意味が分からない。

 何を思い立ったから、唐突にこんなことをしたのだ。

 少なくとも、自分が知っているフィオリアの行動ではなかった。



 問うた瞬間、フィオリアが真面目な表情をする。

 そして―――



「今までの自分を捨てろって言ったのは、あなただわ。」



 痛いくらいにまっすぐな瞳で、そう告げた。



「私も、あなたが示してくれた可能性に賭けてみたいの。もし呪いを解くことができるなら、私はそのために頑張りたい。私のためにも……お母様のためにも。」



 瞬く間に、フィオリアの両目に涙が滲む。



「一番つらいのは、きっとお母様だと思うの。傷ついた記憶を忘れられないまま、ずっと苦しんできたと思う。もし呪いを解くことで、お母様がそんな思いから解放されるなら、私はそうしたあげたい。だって……」



 大きく揺れる、フィオリアの声。



「どんなに歪んだ関係でも……私には、たった一人の家族なんだもん。嫌いになんてなれないよ。だから―――」



「もういい!」



 言い募ろうとするフィオリアの口を、シュルクは思わず塞いでいた。

 間近から涙をたたえた灰色の瞳と目が合い、自分には拒否権がないことを悟る。



「言いたいことは分かったから、もう泣くのを我慢しながらしゃべんな。お前、俺の前で何回泣くんだよ……」



「うっ…」



 一気に顔を歪めたフィオリアが、すがりつくように胸元に顔をうずめてくる。



 それを無理に引き()がすこともできず、シュルクは参ったと言わんばかりに顔をしかめて息を吐いた。



(あの人、絶対にこいつの行き先を知ってたな。)



 苦い思いと共に、今さら理解する。



 してやられた。

 どうりで渡された食料が多いわけだ。



 初めからローザの中では、自分とフィオリアはセットとして(とら)えられていたらしい。



 こうなることを見透かされていたと思うと面白くないが、ここまで思いきった行動に訴えられると、こちらとしても無下にできないわけで……



「―――ああ、もう!!」



 ふいにシュルクは叫び、次に両手を腰に当てた。



「あのさ、いつまでそうしてるつもりだ? いい見せ物になってるぞ。」

「へ?」



 涙を拭いながら顔を上げたフィオリアは、辺りを見回して目を()く。



 道を行く人々が立ち止まり、こちらに視線を向けていたのだ。



 こんな人の往来が激しい場所で騒げば、嫌でも注目をされるに決まっている。



 白い目で見られるならまだしも、そんな風に微笑ましいものを見るかのような生ぬるい目を向けられると、逆に居心地が悪い。



 頬を紅潮させながら慌てて離れるフィオリアを後目(しりめ)に、シュルクは地面に落としていた荷物を再び取り上げた。



「さっさと行くぞ。馬車が出るまで時間がない。」

「え…」



 シュルクの言葉に、目をまたたくフィオリア。



「い、いいの!?」

「じゃあ来るな!!」



 改めて確認されると、気恥ずかしくなるだろうが。

 そんな内心に気付かれたくなくて、急ぎ足で先を進む。



「い、行くもん!」



 早足に歩き出した自分の後ろに、必死についてこようとする気配。

 それを感じていると、複雑な気持ちが胸腔に広がっていくようだった。



 ―――運命なんてもの、本当にあるのだろうか。



 全ての出来事に意味があって、自分が運命を疑うことすらも運命に仕組まれたものなのだとしたら。



 自分が運命を疑う意味とはなんなのだろう。

 自分がこんな面倒な体質を持って生まれた意味は何なのだろう。



 そして―――彼女と出会ったことに、一体どんな意味が込められているのだろう。



 両親からの手紙に記されていた言葉が、脳裏で揺れる。



 いつかきっと

 あなたがあなたとして生まれた意味が分かる

 特別を与えられた意味が分かる

 そんな日が来ると思うの



 その時に後悔しないように

 まっすぐな心で進んでね

 そして願わくは―――





 ―――彼女のことを、守ってあげてね





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