シュルクの決断
「―――っ!?」
シュルクが言い放った、物騒な言葉。
それを聞いた瞬間、フィオリアが息を飲んで固まった。
「お前が言ったんだろ。何を誤解してるのか知らないけど。」
対するシュルクは呆れ顔。
「セイラがルルーシェにかけた呪いの内容を、よく思い出せ。〝お前はこれから、永遠に一人きり。お前の運命の相手も、お前が少しでも愛した相手も、みんなみんな死んでしまえ。お前に寄り添おうとする奴らはみんな、お前を残して死んでいく。〟それが呪いの効果なら、呪いの犠牲になるのはお前じゃない。お前に近い存在になった奴らだ。特に、俺はお前の対の相手である以上、この呪いから逃げるのはほぼ不可能だと思う。俺がお前のことを、どう思おうとな。」
フィオリアたちがこれまで歩いてきた過去だけを聞くなら、呪いは彼女たちだけを取り巻いていると思えるだろう。
だが、セイラがルルーシェの運命石に込めた怨念が呪いとなって、その思いに忠実に呪いが存在しているのだとしたら。
呪いが本来屠るべき対象は違うはずなのだ。
呪いをかけたセイラの根底にあった感情は、運命の相手を奪われた悲しみと恨み。
お前も同じ苦しみを味わえと呪うなら、彼女が標的にしたのは、ルルーシェの運命の相手だったと推測できる。
フィオリアたちが前世の記憶に囚われているのは、おそらくは強すぎる呪いの余波だ。
―――いいや、これは推測なんかじゃない。
自分の中には、そんな確信があった。
『あの子も馬鹿ね。あなたを私から逃がしたとしても、どうせあなたは呪いから逃げられないのに。』
呪いが自分に関係ないのなら、リリアはあんなことを言わなかっただろう。
「そんな……」
「そんなも何も、ちょっと情報を整理して考えりゃ、すぐに分かることだろ。先生たちはそれに気付いてないみたいだから言わなかったけど、チャパルシアに行ったところでどうせ……ってのが本音。」
チャパルシアに行くことで、目先の危険からは逃れられるだろう。
だが、逃げた先で生き延びられる確率は絶望的に低い。
フィオリアと出会ったあの瞬間から―――呪いはきっと、自分を捕らえているはずだ。
「俺が助かるには、どうにか呪いを解くしかないだろうな。」
「そんな方法……」
「ない、と思うか?」
「え?」
青白い顔でうつむいていたフィオリアは、思わず顔を上げた。
薄暗い部屋の中。
淡い照明に照らされているシュルクは、不敵な笑みを浮かべていた。
「本当に、どうしようもないと思うのか? こんなにいい手がかりを、手に入れることができたのに?」
胸元の小瓶を叩くシュルクの瞳に、絶望はない。
「こうして呪いの核になってる運命石があるなら、これをどうにかすることで呪いが解ける可能性は十分にありえるだろ?」
「どうにかって……もしかして―――」
フィオリアの表情が、みるみるうちに変わっていく。
「この運命石の欠片を、集めるつもりなの!?」
「そう。」
シュルクは、なんでもないことのように頷いた。
「で、でも…っ。そんなの、いくつ集めればいいのかも分からないのに……」
フィオリアが呻く。
無謀だ。
その目が明らかに、そう語っていた。
「それなんだけどさ。」
シュルクはフィオリアの動揺を空気のように無視して、話を次に進めた。
「お前、これがあった湖のことを、自分が好きな詩の一節みたいだって言ってなかったか?」
「え…? ああ、うん、言ったけど……」
「それ、全部聞かせてくれないか?」
「な、なんで……」
「いいから。別に、朗読の上手さは期待してない。」
顔を赤らめて狼狽えるフィオリアに、ぴしゃりと一言。
フィオリアは一瞬虚を突かれたかのように固まったが、シュルクが真顔で詩の続きを待っていると知ると一度息を飲み、おずおずと口を開いた。
「……分かった。」
すう、とフィオリアが息を吸う―――




