呪いが存在するのなら―――
外に立った人の気配に気付いたのは、ザキの方が先だった。
「ほら、お客だ。」
「……ああ。」
言われて気付く。
ザキは腰かけていたベッドから立ち上がると、ドアがノックされるよりも先にドアを開けた。
「あっ……えっと……」
廊下に立っていたフィオリアは、ドアをノックしようとした体勢のまま狼狽えている。
そんなフィオリアにザキは苦笑して、彼女を部屋の中へと促した。
「どうぞ。シュルクに話があるんでしょう?」
「えっと……」
「さあさあ。そんなところにいては、風邪を引いてしまいますから。」
フィオリアの背をそっと押して部屋の中に押し入れ、ザキはシュルクの方を見やった。
「シュルク、おれはそろそろ寝るぞ。お前も早く安め。」
「うん。本当にありがとね。」
シュルクがそう言って笑うと、途端にザキが苦虫を噛み潰したような顔をする。
だが、ザキは特に文句を言うこともなく部屋を去っていった。
ドアが静かに閉まり、ザキの足音が徐々に遠ざかっていく。
それと比例するように部屋の空気は重くなり、息もつまりそうなほどの沈黙が場を支配していく。
「どうしたんだよ。そんなに真っ赤な顔して。」
いつまで経っても口を開かないフィオリアに待ちくたびれ、シュルクはとりあえず目についたことをそのまま話題にすることにした。
「ふぇっ!?」
裏返った声をあげ、フィオリアは慌てて自分の顔に手を添えた。
「これはそのっ……な、なんでもなくて…。だから……」
どんどん尻すぼみに消えていくフィオリアの声。
最終的に、フィオリアは困ったように情けない顔をして、ただ無言でこちらの様子を窺うだけになってしまう。
「別に、泣くことがいけないことだなんて、一言も言ってないだろうが。」
シュルクは大きく溜め息を吐いた。
とっさに謝ろうと思ったけど、下手に謝ると怒られるから、何を言えばいいのか分からない。
考えていることが丸分かりだ。
こっちは泣いたことを怒っているわけではないのだから、そんなに怯えることもないじゃないか。
(俺、そんなに怖がられるようなことしたかな…?)
ちょっとばかり、虫の居所が悪くなるシュルクであった。
「で、何?」
手っ取り早く、本題に入る。
「あの、ね……」
さっきのやり取りで幾分か緊張が和らいだのか、今度はすぐに口を開いてくれた。
「これから……どうするのかなって……」
「お前に言う必要あんの?」
あえて冷たい言葉を叩きつける。
すると、フィオリアがぐっと唇を噛んだ。
(さあ、どう答える?)
シュルクは無言でフィオリアの答えを待った。
「ない、けど……」
フィオリアは、今にも泣きそうだ。
「でも、私が知りたいからじゃ……だめなの?」
向けられた彼女の視線は、予想より強いものだった。
「……ふうん。少しは、自分のことを言えるようになったんだ。」
ひとまずは、及第点としてやろう。
「え…?」
きょとんとするフィオリア。
そんな彼女に、シュルクは顔をしかめて頭を掻いた。
「お前なぁ…。俺がきっついことを言う度に、泣きそうになるのやめろよな。なんか、俺がお前のことをいじめてるみたいじゃん。」
「だって、シュルクが冷たいこと言うから……」
「当たり前だ。責任を感じてつきまとわれるなんて、迷惑なんだよ。そうじゃないなら、少しは話を聞いてやるさ。」
フィオリアが少しでもルルーシェとしての責任を引っ張り出してくるなら、その時は遠慮なく切り捨てるつもりだった。
だから試したのだ。
こちらの冷たい態度に怯んで引くくらいなら、どうせこの後の話なんて、無意味なものにしかならないのだから。
「その辺に、適当に座れよ。」
部屋に据えられていた椅子を示すと、フィオリアは心底驚いたように目を見開いた。
「い、いいの?」
「それが本当に、お前の意志ならな。」
念を押して答えると、フィオリアはパッと表情を輝かせて椅子へと座った。
時々、幼子のような反応を見せる奴だな。
そんなことを思いながら、シュルクは胸元をまさぐった。
「なあ。お前はこれのこと、どう思う?」
フィオリアに見せたのは、運命石の欠片だ。
「本当に、呪いなんて存在してると思うか?」
小瓶に入れたそれを揺らし、重ねて訊ねる。
フィオリアは数秒言い澱んだ後、おずおずと自分の考えを述べ始めた。
「そんなものないって思いたいけど……それがあったり、私たちが前世の記憶を忘れられないことを考えると、やっぱり呪いは本物なんじゃないかって思う。」
「そうか。」
シュルクは静かに頷き、小瓶を服の中へと戻した。
そして―――
「ならきっと―――俺はこの先、長くは生きられないだろうな。」
あくまでも淡々と、事実を述べた。




