シュルク、大慌て
「ど、どうしよう……」
湖の縁にへたり込んだフィオリアは、おろおろとしてシュルクが消えていった水面を見つめていた。
なんの前触れもなく、水の中へと飛び込んでいったシュルク。
止める間もない出来事だった。
もしシュルクが気を失って倒れて、その結果湖に落ちてしまったのだとしたらどうしよう。
ただでさえ不安なのに、その不安に追い打ちをかけるように、湖の光が突然消えてしまった。
もう、自分には何が起こっているのかさっぱり分からない。
怖い。
怖くてたまらなくて、震えそうになる肩を両手で抱く。
その時―――
「うわっ!? くらっ!!」
大きな水音の後、聞きたくてたまらなかった声が耳朶を打った。
「シュルク!?」
すがるような気持ちで、シュルクの名を呼ぶフィオリア。
「え、そっち?」
一方のシュルクは困惑した声をあげ、感覚だけで声の方向を探って泳いだ。
水を含んだ服が重くて飛べないのが苦しいところだ。
いつの間にかフィオリアはファラの召喚をやめているし、この暗闇では頼れるのが自分の聴覚しかない。
「……ったく。ただでさえ、これを持ってるから泳ぎにくいのに。」
右手に握ったものを一瞥し、シュルクは湖を泳ぐ。
しばらく進むと、暗闇の中に薄ぼんやりとフィオリアの姿が見えてきた。
「大丈夫!?」
「大丈夫だよ。」
自分の服が濡れることも気にせずに手を伸ばしてきたフィオリアの助けを借り、重たい体を湖の外に引き上げるシュルク。
「よかっ…た……」
不自然に揺らぐフィオリアの声。
それに違和感を持って顔を上げると、ぽろぽろと涙を流すフィオリアの姿があった。
「えっ!? なんで泣く!?」
「だ、だって……」
フィオリアの涙は止まらない。
「だって、シュルク……急に飛び込んじゃうんだもん。全然上がってこないし……もし溺れてたら……ど、どうしようって……」
「ごっ、ごめんごめん! それは俺が悪かった。大丈夫だから泣くなって!」
「ううー…。ばかぁー……」
「だから、ごめんってば!!」
シュルクは慌ててフィオリアをなだめにかかった。
これは全面的に自分が悪い。
とはいえ、仕方ないではないか。
自分の意識とは関係なく、気付いたら湖の中に飛び込んでしまっていたのだから。
―――――こっち……こっちだよ。
何かが自分を呼んでいた。
結局、自分の身に何が起こったのかも、あの呼びかけの正体も分からずじまいだ。
ただ、得られたものは……
シュルクは静かに、ずっと握っていた右手を開いた。
「それ、何?」
ようやく涙を引っ込めたフィオリアが問いかける。
シュルクは首を左右に振った。
「分からない。湖の底で光ってたのは、これだったみたいだけど……」
眉根を寄せたシュルクは、手に乗るそれを凝視する。
それは指でつまめるくらいの、小さな宝石のようなものの欠片だった。
淡い薔薇色をしたそれは、シュルクの手のひらで柔らかな光を発している。
「綺麗…」
フィオリアが、そろそろと欠片に手を伸ばす。
すると―――
バチッ
「きゃ!」
「えっ!?」
一瞬何が起こったのか分からず、シュルクは手のひらの欠片とフィオリアを交互に見やった。
「……怪我は?」
手を押さえるフィオリアに訊ねる。
「ない、けど……なんか、すごく痛かった。」
フィオリアの答えを聞きながら、もう一度手のひらに視線を落とす。
フィオリアがこの欠片に触れようとした瞬間に、火花が散ったのを見た。
自分はなんともないのだが、どうやらフィオリアはこれに触れることができないようだ。
「なんだ、これ……」
薄ら寒い心地で欠片を見つめる。
そんなことをしている間に、敵の侵入を許していたとは気付かずに。




