訓練の賜物
「くっそ、やっぱ追ってきやがったな!」
木々の隙間を駆け抜けながら、シュルクはそう毒づいて後ろを振り返る。
フィオリアと共に小屋に戻ってみるも、すでに城の人々によって差し押さえられた後。
しかも運が悪いことに、敵が集まっている場所で見つかってしまったのだから大変だ。
自分一人が逃げ切るなら容易いけども……
シュルクはちらりと、背後を見やる。
今のところはなんとかこちらが先を走っているが、フィオリアの体力次第で追いつかれるまでの時間は変わってくるだろう。
それ以前に、彼女の動きづらそうな服装が気になって仕方ない。
「おい!」
早々に考えを切り替え、シュルクはフィオリアに手を伸ばした。
「きゃああっ!?」
フィオリアが甲高い悲鳴をあげる。
シュルクはフィオリアの体を思い切り引っ張ると、その華奢な体を抱き上げたのだ。
「なっ……なんで…っ」
「うるせえ! このままじゃ、霊神の効力圏内まで追いつかれちまうだろうが!! 我慢しろ。あと、しっかり掴まって奥歯を噛んどけよ!!」
早口に言ったシュルクは、自分が出せる最速速度で森の中を飛んだ。
「―――っ!!」
猛スピードで迫り来る木々にフィオリアが息を飲み、恐怖から目を閉じてシュルクの首にしがみついた。
一方のシュルクはフィオリアの存在をあえて意識から消し、追っ手との距離を開くことだけに集中する。
まさか、ザキの厳しすぎる訓練がここで活きるとは思ってもいなかった。
左右に大きく動いて相手の方向感覚を狂わせ、時に木々の緑葉の中に身を隠して進行方向を攪乱。
向こうが混乱してきたところで一度木々の上まで上がり、一気に加速して距離を稼ぐ。
そしてまた、木々の中へ。
霊神召喚の力から逃れるには、凝集しようとする霊子を奪い取る以外だと、その効力圏内に入らないようにするしかない。
自分がザキに徹底して叩き込まれたのは、霊神の効力圏内から逃げるための技術と、相手から霊神召喚をする余裕を奪うだけの体術だった。
おそらく、あのくらいの人数なら撒けるはずだ。
だが、相手を撒いたとして、この後どうする?
全力で飛びながら、思考は次の行動に及ぶ。
小屋はもう見つかった後だ。
戻ったところで、待ち伏せされているだろう。
ともかく今は、今後のことを考えられるだけの余裕が欲しい。
「ねえ、あそこ!」
ふいに、フィオリアが叫んだ。
反射的に彼女が指差した方向に目をやると、木々の向こうに洞窟らしき穴が見えた。
今飛び込むなら、しばらくは追っ手の目をごまかすことができそうだ。
「行くぞ!」
一際スピードを上げ、シュルクは洞窟の中に飛び込んだ。




