消えない憎悪
「そう…。ご苦労様。」
霊神経由で報告を受け、リリアは優雅に椅子から立ち上がった。
「ヨル、もういいわ。」
隣に座るヨルに告げる。
「報告が来たわ。アリシアとの境にある山の中に、人がいた形跡のある小屋があったそうよ。多分、あの子たちはその近くにいるんじゃないかしら。……ねえ?」
リリアは妖艶に口の端を吊り上げ、机を挟んだ向かいに座る二人を見つめた。
「それにしても、あなたたちの情報網には感服したわ。ここまで城の捜索をかいくぐるなんて、とても誇れることよ?」
微笑むリリアに対して、向かいの男女―――ザキとウィールは無表情を徹底していた。
シュルクたちを隠れ森の小屋に避難させてから三週間。
様々な情報作戦とカモフラージュの捜索隊によって、城の捜索を攪乱し続けた。
最近になって町の人々を束ねていたのが自分たちだと知られてしまったが、ここまでの時間を稼げたなら十分な成果だろう。
あとは、シュルクたちのしぶとさに賭けるのみだ。
「ヨル、行きましょう。もうここに用はないわ。」
「はい。」
リリアがヨルを引き連れて離れていく。
その背に向けて、この場でザキが初めて口を開いた。
「おそれながら、一つお聞かせください。」
呼びかけに対し、リリアたちは何も答えない。
ザキは構わず、先を続けた。
「あなた方が抱える癒えない傷について、我々は語る言葉を持ちません。ですが、これだけは言えます。―――過去の過ちについて、今を生きるあの子たちには、なんの罪もないのではないですか?」
ザキがそう訊ねた瞬間、リリアの肩が大きく震えた。
今まで核心に迫る発言をしなかった分、きっとリリアはひどく驚いただろう。
〝あなた方の事情は知っている。〟
ザキは暗に、そう告げたのだから。
「そう…。そういうことなのね……」
リリアの口から、今までと打って変わった声が発せられる。
微かに震えた地を這うような声は、聞く者の恐怖を誘うには十分な威力を伴っていた。
「そんな綺麗事、裏切った側はいくらでも言えるのよ。裏切られた方の傷は、どれだけかかっても傷のまま……一時だって、忘れることもできないんだから。」
静かに振り返って、ザキを睨むリリア。
その両目には、未だ強く根付く憎しみがありありと見て取れた。
「私は、あの子を許さない。……許せないの。ただそれだけ。」
憎悪の炎は揺れる。
暗く。
大きく。




