表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fairy song  作者: 時雨青葉
第4歩目 それぞれの思い
30/257

シュルクの違和感

 自分はそれでいいのか。

 そう訊ねたフィオリアは、怯えた子犬のように瞳を潤ませていた。



「あんなに怒ってたじゃない。突然殺されそうになって、こんな風に隠れなきゃいけなくなって…。それで、どうして私に責任がないって思うの?」



「はあ?」



 シュルクは眉をひそめる。



「だって、俺を殺そうとしたのはお前の母さんだろ? なんでお前を責めなきゃいけないんだよ。」



「だって……」



 泣きそうな顔で両手を震わせるフィオリア。



「お母様は、私を恨んでる。だから、あなたを殺そうとしたのよ。そもそも、私があんな過ちを犯さなければ―――」



「だから、俺が意味分かんないって言ってんのはそこ!!」



 どうやら、自分が言いたかったことの意味は彼女に全然通じていないらしい。

 シュルクは苛立たしげに髪の毛を掻き回す。



 思い込んでいる奴と話すのが、こんなにも疲れるなんて。

 再び溜め息を吐き出し、シュルクは呆れた目でフィオリアを見下ろした。



「なんなの、お前。言ってることがめちゃくちゃなの、分からないわけ? お前の言う過ちって、ルルーシェがやらかしたやつだろ?」



「………?」



 ここで、フィオリアの表情に変化が表れた。



 何が言いたいのか理解できない。

 不思議そうな彼女の瞳が、そう語っていた。



「俺には前世の記憶とやらがないから、いまいち理解できないんだけど……何? 記憶ってやつは、持ってるやつが全部ごっちゃになるわけ? どれが誰の記憶か、分からなくなったりすんの?」



「別に、そんなことはないけど……」



「だよな。お前の口から、ルルーシェ以外の記憶の話なんて聞いたことないし。」



 とりあえず、自分の認識は間違っていないらしいことを確認。

 ならば(ひと)安心だ。



 ここは遠慮なく、自分の違和感をぶつけられる。



「もう一回訊くけど、お前はフィオリアだよな?」



「う、うん……」



「じゃあ、なんでそんなにルルーシェの記憶にこだわるわけ? ルルーシェの間違いはルルーシェの責任であって、フィオリアにはなんの責任もないだろ?」



「―――っ!!」



 それを聞いたフィオリアが、大きく目を見開いた。

 ようやく、こちらが言いたいことの意味を掴んでくれたらしい。



 フィオリアとここで過ごすようになってから、時々まるで別人と話しているような気分になることがあった。



 初めてその違和感を持ったのは、ここに来た翌日の朝。

 彼女の悪戯(いたずら)っぽい笑みを見た時のことだ。



 なんとなく察してはいたが、やはり自分の違和感は彼女の中には存在しないものだったらしい。



 彼女は気付いていないのだ。



 自分の中に、フィオリアとしての顔とルルーシェとしての顔の二つが混在していることに。



「お前はフィオリアとして生まれてきたのに、ルルーシェとして生きてる。そんなんだからずっと、同じ運命しか辿れないんじゃないのか?」



 まばたきを繰り返すフィオリアに向けて、ずっと言いたくてたまらなかったことを告げる。



 自分には、フィオリアたちが内に秘める前世の苦悩は分からない。

 でも、フィオリアと話しながら違和感を持つようになって思った。



 ―――なんだか、可哀想だと。



 ずっと孤独でいなきゃいけない呪い。



 仮にそんな呪いがフィオリアを(むしば)んでいるのだとしても、本当につらいことはそれじゃない。



 互いにつらい過去を忘れられずに、何度も同じ過ちを犯すことしかできない。

 きっと、それこそが本当の呪いで、真につらいこと。



 何も知らないからこそ、素直にそう感じた。



「本気で呪いに打ち勝ちたいなら―――運命を変えたいなら、今までの自分なんて捨てちまえよ。そうじゃなきゃ、俺もお前もこれまでと同じように無様に死ぬしかないぞ。」



 確証はないが、なんとなくそう思った。



 なんだか他力本願みたいで嫌なのだが、前に進むにはまず、彼女に自分の矛盾に気付いてもらわなければならない。



 自分は、彼女に巻き込まれて死ぬなんてごめんなのだから。



「………」



 フィオリアが、唇を噛んで視線を下に向ける。

 その表情は紛れもなく、ルルーシェとしてのもので―――



 ビシッ



 ムカついたので、シュルクは遠慮なくフィオリアの額を指で弾いた。



「いたっ」



 突然のことに驚いたのか、フィオリアが目を閉じて額を押さえた。



 よほど痛かったのだろう。

 目の端に涙が浮かんでいる。



 まあ、力加減などしなかったので当然だろうけど。



「あのさ、俺が言いたいことは伝わった!?」

「は、はい!」



 威圧感全開で怒鳴ると、フィオリアは条件反射のように何度も頷いた。



 どうやら、自分はこういうタイプととことん相性が悪いらしい。

 なんだか、無性にイライラする。



 仮にも一国の姫様だということは重々承知しているが、どうしても怒鳴らずにいられないのだ。



「だったら、もう俺の前でそんな顔すんな。今後一切、謝るのも禁止だからな! お前はなんにも悪いことしてないんだ。堂々としてろ、この馬鹿!!」



「はい!」



「勢いに任せて頷いてるんじゃねぇぞ!? 本当に分かってんのか!?」



「はい!!」



「だーかーらー!!」



 何なんだ、この漫才みたいなやり取りは。



 頭の(すみ)っこでそう突っ込む自分がいた気がしたが、止まることを知らない苛立ちに全ては掻き消されてしまった。



 しばらくの間、小屋の中には説教をするシュルクの声と、必死に頷くフィオリアの声が賑やかに響いたという。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ