理解できるが故の罪悪感
あんな風にぶつかり合った後だ。
さすがに、彼女も追ってはこないだろう。
そう思いながらもやはり心配で、シュルクはこまめに自分を追ってくる気配がないかを確かめながら森を進んだ。
小屋からだいぶ離れ、フィオリアが追ってきていないことを確認。
そして―――
「はあー…」
思い切り溜め息を吐きながら、すぐ側の木に寄りかかってずるずると地面に座った。
「ほんと、最悪。」
ぐるぐると、自己嫌悪の念が渦巻く。
色んな感情が出口を求めて暴れているのは分かっていた。
だから、フィオリアといるのは嫌だったのだ。
彼女の言動は、間違いなく自分の感情の起爆剤となってしまう。
そうならないために、彼女とは距離を置いておきたかった。
こんな風に、八つ当たりみたいなことをしたくなかった。
それなのに……
「ってか、なんで俺の方が罪悪感持ってんだよ。逆だろ、普通さぁー…」
周囲に人がいないことに甘えて、堂々と情けない声を漏らすシュルク。
自分は、全面的に被害者ではないか。
フィオリアたちを責める権利は当然のようにあると思うし、さっきのことだって、フィオリアがあんなことを言わなければ自分は怒鳴らずに済んだ。
自分は悪くない。
悪くないと思う。
でも―――
『あなたになんて……運命の相手になんて、本当は出会いたくなかった!!』
あんなことを―――自分と同じ思いをぶつけられては、彼女を責められないではないか。
だって、理解できてしまうから。
相手を不幸にしてしまうくらいなら、いっそのこと出会わない方がいい。
それは、相手を思いやっての気持ちじゃない。
相手が傷つくのを見て、自分が傷つきたくないのだ。
きっと、自分もフィオリアも思っていることは同じ。
ならば、どこに彼女を責める理由があるだろう。
互いに罵り合ったとしても、そんなのはただの同族嫌悪だ。
「あーもー、やだやだ!」
フィオリアの気弱な表情ばかりが脳裏にちらついて、シュルクは勢いよく頭を振った。
そもそも、あんな風に謝られるのは大嫌いなのだ。
昔から、自分の事情を知る多くの人に謝られてきた。
それはもう、飽き飽きするくらいに。
謝って、謝って、謝り続ければ何かが変わる。
そうだとしたら、まだ我慢できる。
だが実際には、謝ったところで何が変わるわけでもないじゃないか。
本当に向こうに非があるなら納得もできよう。
しかし、自分としては謝られる意味が分からないというのが本音だ。
自分をこんな風に産んでしまったから?
自分がこんな体質を持って生まれることなんて、両親だって想像もできなかったはずだ。
そこに罪悪感を持たれるのは、なんだか自分の存在を否定されているようで気に食わない。
じゃあ、自分の自由を奪い続けてきたから?
昔こそ納得できない時はあったが、今はそれが自分を守るための行為だったと理解している。
それで謝るなら、一回だけで十分だ。
まるで口癖のように謝られたって、謝られる方からすればとんでもない迷惑だ。
謝って罪の意識から解放された気になるのは勝手だが、適当にあしらうこともできずに気まずくなるこちらのことも少しは考えてくれ。
……こんな本音、口が裂けても言えないけど。
色々と昔のことやらフィオリアのことやらを思い返しているうちに、また苛立ちが募っていく。
大体、なんでフィオリアはあんなに大人しくしていられるのだ。
別に、彼女だって自分と同じように理不尽な運命に怒ったっていいではないか。
そこでどうして、わざわざフィオリアが謝るのだ。
だって、彼女はあくまでも……
「あー……―――うざってぇ。」
低い声で呟き、シュルクは次の瞬間勢いをつけて立ち上がった。
すでに一回爆発した後だ。
今さら、何を遠慮する必要がある。
同じように後悔するなら、全部言い切った後に後悔すればいい。
そう結論づけ、シュルクはくるりと踵を返した。




