一夜明けて
(待った! 俺、昨日何言った!?)
翌朝、シュルクは両手で顔を覆うことになっていた。
おぼろげにしか記憶がないのだが、昨夜の自分はとんでもないことを口走っていなかっただろうか。
しかも、何も知らない赤の他人に。
「最悪だ……」
いくら怪我と熱で参っていたとはいえ、さすがにあれはないだろう。
とんだ大失態だ。
そして、こういうタイミングが悪い時に限って、余計に追い込まれる事態が起こるわけで。
ノックの音がしてドアが開かれ、シュルクは思わず飛び上がってしまった。
「ど、どうしたの?」
「なんでもない……」
きょとんとするフィオリアに、シュルクは気まずげに背を向けて毛布を被った。
「そう?」
フィオリアは首を傾げる。
「なんでもないって。何しに来たんだよ!」
「えっと…。昨日かなりつらそうだったから、今日は大丈夫かなって……」
「うっ…」
今の精神的に最も聞きたくなかった言葉が飛び出て、シュルクの気まずさは一気に増す。
フィオリアが昨日の自分の様子を知っているということは、夢か現実か分からなかった昨日の出来事は紛れもなく現実だということ。
つまり、昨日の独り言は全部彼女に聞かれてしまっていたということで……
とりあえず、昨日の自分をぶん殴りたい。
頬に集まる熱を感じ、それを見られなくない一心で毛布の中に顔をうずめるシュルクだった。
「その……ごめん。」
「え?」
「昨日のこと。……ほんと、忘れていいから。ってか、マジで忘れて。」
本気で頼み込みたい。
しかし―――
「い・や。」
聞こえてきたのは、予想外の回答だった。
「はあ!?」
とっさに背後を振り返る。
その勢いで翻った毛布を掴み、フィオリアはそれを思い切り取り上げた。
「よかった。昨日よりは顔色がよさそうで。」
間近から灰色の瞳に見つめられ、シュルクは戸惑って息を飲む。
少し意地悪そうに笑うフィオリア。
それではたと、あることに思い至った。
「おまっ……わざと―――」
「だって、全然こっち向いてくれないんだもん。心配したんだから。」
可愛らしく頬を膨らませるフィオリアに、シュルクはぱちくりと目をしばたたかせた。
いかにも清楚なお嬢様といった風貌で気弱な表情しか見せない印象だったのだが、意外とお茶目なタイプだったのだろうか。
そう思うくらい、今のフィオリアの表情は昨日までのものとは異なっていた。
「とりあえず、怪我の手当てをさせて? 昨日、ちゃんとウィールさんに教わったんだから。」
そういえば、夜になって訪ねてきたウィールに駆け寄って、フィオリアが彼女と何かを熱心に話していた気がする。
「い、いいよ。わざわざ……」
「だめ。」
フィオリアは問答無用でシュルクの腕を取り、器用な手つきで包帯を外していく。
ここまでされては頑固に拒絶することもできず、シュルクはそれ以上の抵抗はしなかった。
(一国の姫様に何やらせてんだろうな、俺……)
そんな言葉の代わりに、ひっそりと息をつくシュルクであった。




