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Fairy song  作者: 時雨青葉
第2歩目 運命
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崖っぷち

 共鳴(りん)が鳴ったことにより、城内は期待と興奮を滲ませた空気に包まれていた。



 城の中の誰が誰と(つい)なのか分からないので、急きょ城の大広間を解放して集団面会を行うことになったらしい。



「私たちも後から出席しなければならないので、手短に話を済ませましょう。」



 当然のようにヨルに告げられ、全力で逃げ出したい気分に陥った。



 崖っぷちに立たされている気分だ。



 自分が大広間に連行されるよりも前に、別の誰かが運命の相手に出会ってくれないだろうか。



 とにかく、少しでも多くの時間を稼ぎたい。



 そんな悪足掻きの結果―――



「いやはや……参りました。」



 書類にサインをしながら、ヨルは深々と感嘆の息を吐いた。



「さすが、ご店主自慢の会計担当ですね。まさか、ここまで持っていかれるとは。」

「働いた分は、きっちり回収する主義なので。」



 ハラハラしている心とは裏腹に、シュルクは冷静な態度でヨルにそう返した。



 元々限界まで搾り取るつもりでいたのだが、とにかく大広間に行きたくないという気持ちがいつも以上に頭の回転を速くした。



 気付けば依頼料は自分の予定していた金額以上まで跳ね上がり、さすがにこれ以上は渋りようがない状況である。



 もちろん、いつまでも時間を繋げられるとは思っていない。



 だが、あと少しだけでも時間が欲しいと思ってしまうのは、さすがにわがままだろうか。



「さて…。では金銭の話も済みましたし、私たちも大広間へ向かいましょうか。」

「………っ」



 やっぱりそうなるか。



 途中から覚悟は決めつつあったが、直接こう言われると、どうしても顔がひきつってしまう。



「……もしかして、大広間に行きたくないのですか?」

「えっ……いやいや!」



 ヨルに問われ、シュルクは慌てて両手を振った。



「嫌っていうか、なんていうか……ほら、今日って、お金持ちの人しか来てないじゃないですか。俺みたいな庶民が行くと、浮くんじゃないかなって。」



 とっさにとはいえ、我ながら案外自然な言い訳が出てきたと思う。

 自分でそう思うだけあって、ヨルはこちらの言葉を疑わなかった。



「ああ、そうですよね。私も一般家庭の出自なので、お気持ちはよく分かりますよ。もし気になるなら、適当に服を見繕いましょうか? 身なりを整えて私の傍にいれば、誰も白い目で見てきたりはしませんよ。」



「そ、そんなもんですか…?」



「はい。」



 ヨルは人当たりのいい笑顔を向けてくる。



「すみません。ちょっと、立ってもらってもいいですか?」



 ヨルが傍まで寄ってきてそう言うので、シュルクは素直に従うことにする。



「うーん…。体格は、私とそう変わらないですね。これなら、すぐに服の用意はできそうです。」



 気遣われているのだろうが、全然ありがたくない。



 悩ましげに眉を寄せながら体を触ってくるヨルに対し、シュルクはこれ以上の本音に勘付かれないように無表情を貫くので精一杯だった。



「おや…」



 ふとヨルの手が止まる。



「あなたの運命石……」

「―――っ!!」



 心臓がどきりと跳ねた。



「な、何か…?」



 上ずりそうになる声を、必死に平常に保って訊ねる。



「いえ…。ものすごく綺麗な形と色をした運命石だなと思いまして。」

「やっぱりそう思います? 周りにもよく言われるんですよ。」

「ええ。本当に綺麗ですね。」



 ヨルの目はじっと、運命石を見つめている。



 まさか、ヨルにもウィールと同じように運命石の波動を感じる力があったりするのだろうか。



 ただ珍しい運命石を見ただけにしては、石を見る目が真剣すぎるように思えるのだけど。



 沈黙が長くなるほど嫌な想像ばかりが膨らんで、背筋を冷や汗が伝っていく。



 コンコン



 ドアをノックする音が室内に響き、ヨルの視線が運命石から外れた。



「ふむ、なんでしょうね。」



 ヨルがドアへと向かっていく。



 それでヨルがこちらに背を向けたので、シュルクは彼にばれないように息を吐いて肩から力を抜いた。



 さっきから、心臓に悪いことばかりだ。



 こんな綱渡りをしているような心地に、あとどれだけ耐えなくてはいけないのだろう。

 一刻も早く帰りたい。



 (むな)しい願いを抱きながら、シュルクは部屋を訪ねてきた女性の対応をするヨルの姿を眺めていた。



「……フィオリア様が?」



 漏れ聞こえてきた言葉に、また胸が跳ねる。

 ヨルは参った様子の女性と共に、難しげな顔で(うな)っている。



「分かりました。私も行きましょう。」



 数分のやり取りの末に、ヨルは頷きながらそう述べた。

 その言葉にほっと安堵した様子の女性に断りを入れ、ヨルはシュルクに顔を向けた。



「申し訳ありません。少し、席を外しますね。」

「何かあったんですか?」



 訊いてみる。

 すると、ヨルは困ったように眉を下げて微笑んだ。



「どうやら、フィオリア様がお部屋にこもってしまったようです。お相手が見つかり次第、早急に婚儀の準備を進めることになっていますからね。一種のマリッジブルーというやつでしょうか。メイドたちでは手に負えないようですので、私が説得してきます。ついでに着替えを持ってきますので、それまでここで待っていてもらえますか?」



「分かりました……」



 頷くと、ヨルは少しだけ笑みを深めて女性と一緒に部屋を出ていった。



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