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Fairy song  作者: 時雨青葉
第2歩目 運命
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ウィールからの指摘

 ウィールに連れていかれた先は、彼女の仕事場である占い部屋だ。



「そこに座りな。」



 シュルクを客が座る席に座らせ、ウィールは小さな机を挟んだ向かいの席に座った。



「さて…。あたしが前にここに来たのは、十日ばかり前だったかね。その間に、何があったんだい?」



 口を開くや否や、ウィールはシュルクにそう訊ねた。



「何って…?」



 シュルクは顔をしかめる。



「なんでもいいよ。何か、いつもと違うことがなかったかい?」

「はあ…?」



 ウィールが何を聞きたいのか、その意図が分からないシュルクは曖昧(あいまい)な言葉を返すしかない。



 そんなシュルクを真剣な目で見つめていたウィールは、ふとシュルクの首元に手を伸ばした。



「石の波動が変わってるよ。」



 若草色の石に触れたウィールの目に、鋭い光が宿る。





「お前さん、(つい)の相手に会ったね?」

「―――っ!!」





 指摘され、息がつまった。



「その顔、心当たりがあるみたいだね。」



 シュルクの顔から答えは十分に得られたらしく、ウィールはシュルクの運命石から手を離して、椅子の背もたれに背を預けた。



「なるほど。それで今日はここだったのか……」

「それで…?」

「ああ、そうだよ。」



 ウィールは息をつき、机に置いてあった煙管(キセル)を取り上げた。

 それに火をつけ、ゆったりとした仕草でそれを吸って煙を吐く。



「占いなんて、精度はピンキリだけどね。本物の占い師ってやつは、導くべき相手がいる場所にしか現れないんだよ。今日はここにあたしが導くべき相手がいると思ったから、ここに来たのさ。まさか、お前さんだったとは思わなかったけどね。」



「………」



 シュルクは、気まずげに顔を逸らした。



 本当に、運命の悪戯(いたずら)とは厄介なものだ。

 こっちは忘れたかったのに、どうしてこうも現実と向き合わせようとしてくるんだか。



「どこで会ったのかは知らないけど、早く手を打たないと手遅れになるよ。石の波動がかなり強い。きっと、(つい)の相手はまだこの町にいる。お前さんのことだから、相手の顔は覚えてるんだろう?」



「………」

「シュルク?」



「……かもしれない。」

「ん?」



「会った……かもしれない、けど………夢かもしれない。」

「……どういうことだい?」



 低く問いかけられ、もはや逃げ場がないことを知る。



 仕方なく、シュルクはウィールに昨夜の出来事を話した。

 ウィールは、真剣な表情で話に耳を傾けている。



「それで、その相手が姫様かもしれないってことなんだね?」

「確証はない。けど、あんまりにもそっくりだったから……」



 話の最後にウィールにそう念を押され、シュルクは歯切れ悪く返した。



「なるほどね…。ちょっと借りるよ。」



 一言断りを入れ、ウィールはチョーカーの留め金を外してシュルクの運命石を手に取った。



 思案げに眉を寄せて石を見つめるウィールは、口を開く素振りが一切ない。

 それは、まるで死の宣告でも待つような沈黙に感じられた。



「……そんなに、大事なことなの?」



 口を真一文字に引き結んでいるウィールに、シュルクは思わず訊ねていた。

 ウィールは答えない。



 再び訪れる沈黙の時間。

 それが嫌で、シュルクは次々と言葉を重ねていた。



「確証はないって言ってるじゃん。ただの人違いかもしれないし、そもそもただの夢だったら、そこまで気にする必要も―――」



「シュルク。」



 諭すような口調で名を呼ばれた。



 無意識に下ろしていた視線を上げると、石を見つめていたはずのウィールが、じっとこちらに視線を注いでいた。



「お前さん、何をそんなに怖がっているんだい?」

「………っ」



 一瞬で心の中を看破され、シュルクは息を飲んで肩を震わせた。



(つい)の相手に会うのが嫌かい?」

「………」



 どんどん自分の心を言い当てられて、何も言えなくなってしまう。



 黙り込んだシュルクをしばし見つめた後、ウィールは深く息を吐いた。

 そしてシュルクの頭に優しく手を置き、そっとその髪をなでた。



「ほんとなら、そんな風に悩む必要なんてなかったんだろうけどね。……すまないね。お前さんには、昔からあたしたちの都合を押しつけちゃってるから……」



「………」



「シュルク。グレーに話を通しておくから、明日はお前さんが城にリストを提出しに行きな。」



「……は?」



 唐突なウィールの発言に、シュルクは口をあんぐりと開けた。



「なん…で…?」



「なんでって、どうせお前さんは、面会予約を入れるつもりもないんだろう? だったら、仕事として城に顔を出しておいで。」



「だから、なんでそんなことしなきゃ―――」



「文句言うんじゃないの。」



 シュルクが抗議しようとした瞬間、ウィールは髪をなでていた手をひらめかせて、その額を思い切り弾いた。



「って……」

「あのね、シュルク。」



 ウィールは額を押さえるシュルクの眼前に、運命石を突きつける。



「仮にお前さんの言うとおり、姫様らしき子と会ったのが夢だったとするよ。夢なのにもかかわらずここまで石の波動が変わるなんて、よほど強い運命で引き寄せられてるってことなんじゃないのかい? 長いことこの商売をやってるけど、こんなことは初めてだよ。」



「んなこと言われたって……」



「いいから、行っておいで。仕方がないとはいえ、あたしたちはお前さんを町の外へ出してやることができないんだ。そんな中で、こんなにも早く(つい)の相手に出逢えたのは奇跡なんだよ。ちゃんと確かめておいで。人違いだったら、それはそれでいいんだから。」



「う…」



「そりゃ、あたしだってお前さんを城に向かわせるリスクは分かってるつもりさ。だけど、もし本当に姫様の相手がお前さんなら、城の人たちはお前さんを見つけるまで、姫様の相手の捜索をやめないと思うよ。もしもの時の対策は、あたしたちで考えておくから。」



「………」



 最終的に何も言い返せなくなり、シュルクは唇を噛んだ。



 ウィールの言うことも、もっともだ。

 そう思う理性と、それを納得したくない心が真正面からぶつかる。



 そして、それと共に、目の前に突きつけられた石に対する不信感も一気に膨れ上がっていく。



 こんな石、なければよかったのに……



 そんな思いは、当然ながら口にすることはできなかった。



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