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Fairy song  作者: 時雨青葉
第2歩目 運命
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町一番の占い師

 それからしばらくして。



「おーい、調子はどうだ?」



 控えめなノックと共に、ひどく疲れた様子のグレーが部屋に入ってきた。



「あともう少しって感じ。」



 シュルクは吐息混じりにそう答える。



「さすがのシュルクも、今日はお疲れって感じだな。」

「そっちこそ。」

「いんやー、参った参った。」



 グレーは大袈裟な仕草で肩を落とす。



「予約のついでかなんだか、大盛況よ。(もう)けられるのはいいが、とにかく人が足りないのなんのって。特に、今日は主戦力二人をこっちにやっちまったからな。」



「こっちを二人でさばいたことの方がすごいと思うんだけど。」



「ははっ、違いねえや。ほら、差し入れだ。」



 目の前に、グレーがサンドイッチの乗った皿を出してくる。



 シュルクはそれを受け取ると、自分は手を出さずに流れるような動作でルルンの前へと置いた。



「先に食ってろ。俺はまだ作業があるし、余ったやつを食えればいいから。」

「あ、ありがと……」



 ルルンはぱちくりと目をしばたたかせ、ぎこちない動きでサンドイッチを取った。

 それを口に運びながら、ルルンはまじまじとシュルクを見つめる。



「……なんだよ。」



 じっと注がれる視線に、眉を寄せるシュルク。



「いや……シュルクって、なんだかんだでレディーファーフトよね。昔から。」

「はあ?」



 やけに真面目な顔をしておいて、急に何を言い出すのだ。



「だってあたし、昔からシュルクに色々と優先してもらってばっかだと思うのよね。店の仕事も、みんなが嫌がる仕事とか、いつの間にかシュルクが終わらせてるじゃない。」



「おお。よくよく考えてみりゃ、お前さりげなく女性の扱いがスマートだもんな。無愛想なくせして客からの評判がいいのは、そういうことか。」



 そういうことって、一体どういうことだ。

 一人話についていけないシュルクを置いたまま、ルルンとグレーは勝手に盛り上がる。



「いいなー。シュルクのお嫁さんになれる人、絶対に幸せ者よねー。」

「そらそうよ。全言語マスターって時点で、食いぶちに困ることはねえからな。ははは!」



「………」



 また止まりかけた手を、シュルクは意地で動かし続けていた。



 忘れたいと願っている時ほどこうだ。

 よりによって、今そんな話をしなくてもいいじゃないか。



 考えたくなどない。

 今は、運命の相手のことなんて。



 それなのに……



「あー、もう!!」



 癇癪(かんしゃく)を起こしたような叫び声と共に部屋のドアが乱暴に開かれたのは、その時のことだった。



「まったくもう! なんなんだい、今日は!?」



 ずかずかと部屋に入ってきたのは、壮年の女性だ。



「来る奴来る奴、姫様との相性はどうなんだって……あたしゃ、相性占いをしてるんじゃないんだよ! 休憩だって言ってるのに、奥に引っ込んだってすぐに引きずり出されて休めやしない。」



「それでこっちに来た、と。」



「そうだよ。珍しくシュルクがおかんむりだって、怖がって誰も近寄らないからね。」



「はは、(ちまた)で噂の占い師は大変だ。」



 笑うグレーに、女性は恨みがましそうな視線を向ける。



 彼女の名はウィール。

 この町じゃ、知らぬ者がいないほどの有名人だ。



 彼女は運命石の微かな波動を感じ取ることができるらしく、それを活かして占いを稼業にしている。



 本人(いわ)く、運命の相手がどの方角にいる可能性が高いかくらいしか分からないらしいが、それでも彼女の占いはよく当たると評判が高い。



 そのせいで、ウィールも自分の両親と同様、いつも町中を飛び回っている。



 いつどの集会所にいるのかは彼女の気分次第なので、旅人の中では出会えたら奇跡とまで言われているそうだ。



「来るタイミングが悪かったね。なんでわざわざ、今日はこっちに来たのさ?」



 シュルクが訊ねる。



「あたしだって、来てみてびっくりさ。だけど、一度行くって決めたのに引き返すのはポリシーに反するんだよ。」



「相変わらず、融通が()かないんだから……」



 にべもなく言うと、途端にウィールの鋭い睨みを受けてしまった。



「何か言ったかい?」

「いーえ。」



 シュルクは、さっと目を逸らす。



「まったく、お前さんもすっかり可愛げがなくなっ…て……」



 途中で不自然に途切れるウィールの言葉。



 それにふと違和感を持って顔を上げると、ウィールは何故かひどく驚いた様子でこちらを凝視していた。



「シュルク……お前さん……」

「?」



 シュルクは首を(ひね)る。



 ウィールはそんなシュルクをしばらく真剣に見つめ、にわかに手を伸ばすとシュルクの二の腕を掴んだ。



「へっ…?」



 予期せぬ展開に、シュルクは目を丸くする。



「話がある。ちょっとおいで。」

「えっ……まだ、仕事が終わってな―――」



「そんなの、そこでだらけてるルルンにやらせればいいんだよ!」

「ええーっ!?」



 とばっちりを受けたルルンが慌てて叫ぶ。



 しかし、ウィールはそんなことを歯牙(しが)にもかけず、シュルクの腕を自分の方へと引き寄せた。



「とにかく、お前さんはこっちに来るんだよ! ほら早く!!」

「わっ……ちょっと、待ってって!」



「待たないよ。馬鹿らしく待ってたら、お前さんはすーぐ逃げてくんだから。」

「わわわっ…」



 問答無用で腕を引かれ、シュルクは強制的に部屋を連れ出されることになってしまった。



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