誓い
『あとは、あなたに託しますからね。』
ヨルの言葉が、耳を離れない。
草木も眠る深夜。
翌朝の市場で売る商品を積んだ馬車は、大急ぎで夜道を走っていく。
この馬車は、イストリアへ向かうための中継地点となる大きな町へと向かう予定だ。
本当は夜くらいはちゃんと宿で休みたいところだが、ムーシャンでたっぷりと時間を使ってしまった分、今は少しでも移動時間を短くしたい。
そのせいで、フィオリアにはまた慣れない生活に耐えてもらうことになるのだが。
シュルクはふと、隣に目をやる。
そこには荷物の隙間にころりと横になり、薄い毛布にくるまってすやすやと寝息を立てるフィオリアがいた。
始めのうちは、こんな揺れる場所で眠れないと眉を下げていたのに。
あの時と比べると、随分たくましくなったものだ。
『リリア様とフィオリア様を蝕む呪いでさえも―――あなたなら、きっと。』
ヨルは必死そうな表情で、自分にそう告げた。
彼としては、自分にそう言えるだけの価値があったということなのか。
……いや。
彼の行動を思い返してみるに、それだけの価値があってほしいと願っていたとでも言うべきか。
シュルクは、思案げに自分の手のひらを見つめる。
あとは託すと告げた、ヨルの声。
自分の手を握る手。
それらに込められた、震えるほどの力と想い。
彼の真意を知った今なら、彼の行動心理が手に取るように分かる。
中途半端な希望なら最初からない方がいい、と。
そう思った末に、自分を試してきたことも。
最後の賭けだ、と。
フィオリアに、あえて痛烈な言葉を投げつけたことも。
―――全ては、リリアとフィオリアを大事に想うが故のことで。
「運命の相手じゃなくても、お前のことを大事に想ってくれる奴はいるじゃんか。それじゃあ、どうしてもだめだったのか? セイラ……」
こんなことを問いかけるだけ無駄とは、分かっているけども。
こんな悲しい呪いを生む前に、周囲のささやかな幸せに気付けなかったのか。
そう思わずにはいられない。
「ん…」
ふとその時、フィオリアが軽く身動ぎをした。
「お母…様……セイ…ラ…お嬢…様……」
うわ言のように呟いたフィオリアが、苦しげに表情を歪めた。
そんなフィオリアの頭をなで、白銀色の髪に自分の指を通す。
「大丈夫だよ。そんなに大事なら、俺は見捨てない。」
うなされるフィオリアをなだめるように、シュルクは穏やかに語りかけた。
「お前のことは、お前が大事に想ってるものごと、全部俺が守ってやる。お前がそう望むなら、セイラのことだって救ってやる。だから、安心して眠れ。」
誰もがうっとりするような、甘くて優しい声。
それは、揺れる馬車の音の中にひっそりと消えていった。




