胸にくすぶる〝もしも〟
急に降って湧いた姫の相手捜しの一報。
それは、町中を光の早さで駆け抜けていった。
そして、姫へ面会できる権利を得られるのが一ヶ所だけということで、集会所には引くくらいの人が集まった。
さすがは、集会所や案内所の数が国一番の町。
ここまで多くの人がいたとは。
「終わったー!!」
集会所の中に居座ろうとする輩を追い出して裏口を閉めてきたルルンが、盛大な溜め息と共に床にへたり込んだ。
「終わってない! 終わってないから!!」
対するシュルクは、驚くべきスピードでペンを走らせていた。
「ほらほら、あと二時間で予約表の名前をリストに写さなきゃいけないんだから、さっさと手伝え!」
「ひえーん、鬼畜!」
「書くのは俺なんだから、整理くらいやれ!!」
苛立ちを表すように前髪を乱暴に掻き上げながら、シュルクは舌を打つ。
よくよく資料を読んでみれば、想定していた以上に仕事内容が多いではないか。
城側が楽をしたいという魂胆が丸見えだ。
おかげでこちらは、休憩する暇もなく受付業務に徹するはめになってしまった。
これは、依頼料の交渉のしがいがありそうだ。
「ねえ、シュルク。」
「ああっ、なんだよ!?」
想像を絶する忙しさから、ルルンに対する態度にも棘が混じってしまう。
しかし、ルルンはシュルクのそんな態度は気にせず、作業を進めながら口を開いた。
「シュルクは行かないの?」
「どこに?」
「姫様との面会。」
「なんで?」
「だって、姫様ってあたしたちと同い年じゃない。案外、姫様の運命の相手ってあんただったりして、なーんて。」
「………っ」
冗談混じりのルルンの言葉に、シュルクは肩を大きく震わせた。
忙しすぎて記憶の彼方に飛んでいっていた、夜中に出会った少女の姿と資料に描かれていた姫の姿絵。
それが、一瞬のうちに鮮やかによみがえる。
あえて目を逸らしていた憶測が、ルルンの言葉によって目の前に突きつけられてしまった心地だった。
少女に近付こうとした時の光が運命石のものなのだとしたら、あの少女は自分の運命の相手なのかもしれない。
そしてあの少女がティーン族の姫なら、今王家が慌てて捜しているのは自分なのかもしれない。
その可能性には、姫の姿絵を見た時にすぐ思い至っていた。
そんなまさか。
そうは思うが、時系列が見事に一致しているものだから否定しきれない。
だから、忙しさにかまけて忘れていようと思ったのに……
ペンを走らせる手が、思わず止まる。
「俺は……別に、興味ないから。」
苦し紛れにそう答える。
嘘だ。
本当は、気になって仕方ないくせに。
他でもない自分の声。
でも、会いたくないのも本心だ。
自分は、自分の足で運命の相手を捜しに行くことができない。
だから、よほどの奇跡が起きない限り、運命の相手に出会うことはないだろうと思っていた。
それなのに、こんなに早く…?
現実を直視したくない自分の心が叫ぶのは、少しの躊躇いと大きな恐怖。
だって、分からないじゃないか。
いくら運命石が導いた運命の相手だったとしても、彼女の性格も何もかも知らないのだ。
そんな相手を、本当に好きになれるかどうかなんて―――
「ふーん、そっか。ま、運命の相手がお姫様なんて、そんなミラクルが転がってるわけないわよね。」
こちらの動揺に気付いた様子もなく、ルルンはてきぱきと予約表の整理を続けている。
そう。
これでいい。
このまま、忘れてしまえばいい。
都合よく自分に言い聞かせ、シュルクは文字を綴る手を再び動かし始めるのだった。




