新たな問題浮上
「あ、そういえば!」
ランディアがいる市場へ向かう道中、突然フィオリアが声をあげた。
「結局、この後ってどこに向かうの?」
「おう。いつ訊いてくるかと思ってたわ。」
ようやくフィオリアの口からその質問が飛んできて、シュルクはほんの少し安心する。
昨日は泣き出したフィオリアをなだめることで夜が終わってしまい、朝になればこの話題になるかと思いきや、そんなことはなく。
そして、集会所の外に出てから今の今まで、フィオリアは今後に関する話を一度も振ってこなかった。
「あのさ……お前、大丈夫? 上手い感じに乗せられて、さらわれたりしない?」
あまりの危機管理能力のなさに、さすがに不安を覚えて突っ込んでしまう。
「ううっ……お、お城にいた時はもっとまともだったもん! これでも、勉強はちゃんとしてきたんだから!」
フィオリアは頬を膨らませてそう抗議してくるが、その子供っぽい仕草が胡散臭くてたまらない。
「じゃあなんだ? 俺が一緒だからポンコツになってんのか?」
「いや…。そういう意味じゃ、ないけど……」
「じゃあどういう意味だよ。」
「ええっと……」
ちょっと問い詰めてやると、フィオリアは面白いくらいに動揺して目を泳がせる。
そんな反応をされると、自分の中にあるささやかな嗜虐心が大いに刺激されてしまうのだけど……
別にフィオリアをいじめたくて問い詰めたわけじゃなかったのだが、これはこれで面白いかもしれない。
自分の中に芽生えたそんな思考に、どっぷり浸かっていると―――
「だ、だって……」
それまで必死に答えを探していたらしいフィオリアが、おずおずと口を開いた。
「シュルクと一緒だと、気が緩んじゃうっていうか……思い切り甘えたくなっちゃうっていうか……」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに告げるフィオリア。
「………っ」
思わぬフィオリアの態度に、シュルクは思わず息を飲んでしまった。
……なんだろう。
フィオリアのことが好きだと認めたからか、フィオリアの表情や態度の一つ一つが今まで以上に可愛らしく見えてしまう気がする。
「お前なぁ…。俺も、全知全能ってわけじゃないんだからな……」
いつものように減らず口を叩きながら、内心は動揺を押し殺すので精一杯だった。
正直、フィオリアにああ言われたのは悪い気分じゃない。
その言葉に応えて思う存分甘やかしたくなるような、逆にいいところでお預けというくだりを繰り返して遊んでみたくなるような。
そんな、複雑だけど楽しい気持ちだ。
(俺って……こんなこと考えるタイプだったっけな…?)
少しばかりの戸惑いを覚えつつ、シュルクは一つ息をつく。
「仕方ないな…。じゃあ、お前がポンコツになる分、俺がしっかり見張っとくよ。」
しっかりしたフィオリアなんて、今さら想像もできない。
こうなったら、こちらが気を引き締める他に道はないだろう。
「ポンコツって…。前々から思ってたけど、シュルクっていっつも無駄に正直だよね。ちょっとくらい、言葉を選んでくれたっていいのに。」
フィオリアが不満げに苦言を呈す。
早とちりの達人が何を言うのだ。
シュルクは大袈裟な仕草で肩をすくめた。
「お前にはストレートに物事を伝えないと伝わらないって、これまでの経験で痛いほどに分かったからな。言葉を選ぶ労力が無駄。」
「無駄って、そんなにばっさり切り捨てなくても!」
「切り捨てさせたのはお前だ。」
「何それ!?」
「自分の胸に訊け。」
「むう…。でも、ちょっと安心。」
「は?」
「だってね。」
フィオリアは表情を緩める。
「そう言ってくれるってことは、甘えてもいいってことでしょう? 私、幸せ者だなって思って。」
フィオリアの純粋な笑顔がきらめいて、思わずフィオリアから目を逸らしたシュルクは片手で顔を覆った。
―――抱き締めてしまいたい。
衝動的に、そう思ってしまった自分がいた。
(俺はどうやら、これからは別の意味で我慢が必要らしい……)
しみじみとそれを感じ、無邪気なフィオリアを横目に見ていると先が思いやられるシュルクだった。
その時。
―――――――
シュルクはふと立ち止まる。
「シュルク?」
「悪い。」
訊ねてきたフィオリアに断りを入れ、シュルクは前方を指差した。
「先に、ランディアさんの所に行っててくれる?」
「え? いいけど……何か忘れ物?」
「そんなとこ。すぐ戻るから、ランディアさんと話でもしといて。」
言うや否や、シュルクは羽をはためかせて宙へと飛び立つ。
その表情に、先ほどまでの穏やかさはなかった。




