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Fairy song  作者: 時雨青葉
第11歩目 嘘はつけない
102/257

〝あなたのせい〟


「……へ?」



 数秒固まった後に、間の抜けた声を出して顔を上げるフィオリア。

 シュルクはそんなフィオリアの耳元に手をやり、すぐにその手を離した。



 しゃら、と。

 フィオリアの耳元で、微かな音が揺れる。



「へ……え……えっ!?」



 フィオリアは自分の髪に手を触れ、そこに固い感触があることに気付く。



 何が起こったのか分からないままそれを取り、手のひらに転がったそれを見たフィオリアは大きく目を見開いた。



 それは、蝶を象ったデザインのヘアピンだった。



 銀色を基調としたヘアピンには、エメラルドと水晶が細やかな模様を描くように散りばめられ、羽の下部から繋がった細く短い鎖の先では赤い石が揺れている。



「これ……」

「色々と世話になったお礼だってさ。」



 やはり面と向かっては話せなくて、シュルクは適当な床を見つめて口を動かす。



「今日、やっとできたんだとよ。俺にはいらないもんだから、お前にやる。」



「もしかして……セルカさんが待っててって言ってたのって、これのこと?」

「まあ……」



「これのために、わざわざ一週間も待ってたの…?」

「……とっ、とにかく渡したからな!」



 そんな風に一つ一つ確認するように訊ねられると、自分の行動の恥ずかしさが際立つように思えてならない。



 火照(ほて)る顔を見られたくなくて、瞬時に(きびす)を返したシュルクだったが……



「待って!」



 そんなシュルクの腕を、フィオリアが掴んだ。



「お願い。行かないで。」



 潤んだ瞳で見つめられ、シュルクはうっと言葉につまった。



「な……なんで泣くんだよ……」



 苦しまぎれにそう言うと、フィオリアがぶんぶんと首を振る。



「だって……嬉しくて……」

「……まったく。」



 仕方あるまい。

 どうやら、逃げるタイミングは(いっ)してしまったようだ。



 シュルクは観念して息をつき、フィオリアに向き直ると、その頭をぽんぽんと叩いた。



「お前は、本当にすぐ泣くよな。涙腺どうなってんだよ。」



「ごめんなさい……」



「だから、すぐに謝るなって。俺が口悪いってのは、十分知ってんだろ。いちいち俺の言葉に謝ってないで、この前みたいに言い返してこいよ。そのくらいじゃねぇと、多分お前がしんどいぞ。」



 そっと涙を拭ってやる。

 すると―――



「うう…っ」



 何故か、顔を歪めたフィオリアの目尻から余計に涙があふれてきた。



「はあ!? なんでそうなる!?」



 ぎょっとするシュルクに対し、フィオリアはぽろぽろと涙を流すだけ。



「ううう……だって、だってぇ……」

「なんだよ!? 俺のせいか!?」



「そうだよ! シュルクのせいだもん!!」

「どういう意味―――わっ!?」



 突然腹に衝撃が走り、シュルクは思わず声を引っ込めた。



 目をまんまるにするシュルクの腹部に抱きついたフィオリアは、すがりつくように両腕に力を込める。



「だって……シュルクが、嬉しいことばっか言ってくれるから…っ」

「は、はあ…?」

「私ね……」



 涙声で語り始めるフィオリア。



「シュルクに、たくさんのことを教えてもらった。それでね、ルルーシェじゃなくて、当然のように私を見てくれるシュルクを好きになったの。嫌われてるかもしれなくても、傍にいられるだけで幸せだったの。」



 まあ、それは誰の目にも明らかだったと思うけど。



 そんな突っ込みはさておき、シュルクは黙してフィオリアの話を聞く。



「でも……シュルクって、いつも私のことを優先してくれるから……心のどこかで期待しちゃう自分もいて…。だから、わがままにならないようにって……シュルクに嫌われてるんだって言い聞かせて、勝手な期待を持たないようにって一生懸命だったの。だから、今こうやって話せるのが夢みたいで、嬉しくてたまらないの。幸せすぎて、涙が止まらないの。全部……全部、シュルクのせいだもん。」



「………」



 シュルクは何も答えられず、ただフィオリアを見下ろすだけだった。



 自分に負けず劣らず複雑な環境で育ったくせに、自分以上にまっすぐで素直な奴だ。

 こんな風に純な気持ちでぶつかられたら、言い訳なんかできないじゃないか。



(あーあ……完全に負けだな。)



 そんなことを思い、シュルクは眉を下げて微笑んだ。



「……そうだな。全部、俺のせいだな。」



 (いたわ)るように優しく、フィオリアの頭をなでてやる。



 すっと。

 心が()いでいくような気分だ。



 馬鹿正直に自分の気持ちを言うなんて、今さらすぎて恥ずかしいからできないと思っていたけれど。



 そんな意地も羞恥(しゅうち)も、目の前の愛しさが相手では(かた)なしで―――



「ごめん。」



 するりと、飾らない言の葉が口から零れていった。



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