ルーウェル大興奮
「……い……ろ……」
「う……ん……」
「おい。」
「うう……」
「起きろって。」
「え…?」
何度も呼びかけられ、ルーウェルは薄く目を開いた。
ぼやけた視界が、徐々に像を結ぶ。
「シュルク……フィオリアちゃん…?」
こちらを覗き込んでいる二人の名を呟き、ルーウェルはぱちくりと目をしばたたかせる。
どうして、自分はこんな所で寝転がっているのだろう。
記憶を手繰っていたルーウェルはあることを思い出し、途端に血相を変えて飛び起きた。
「シュ、シュルク!?」
大慌てでシュルクに飛びつくルーウェル。
「な、なんだよ?」
焦るルーウェルに詰め寄られ、シュルクは眉をひそめて首を傾げた。
「だっ……だって、お前、お…落ちっ……落ち……」
「落ちたな。」
気を動転させるルーウェルの言葉を、躊躇せずに認めるシュルク。
「だ、大丈夫なのか!? 生きてる!? 本物!?」
「本物だよ。落ち着けって。」
早くもルーウェルが鬱陶しくなったシュルクは、その頭に拳を叩き落とす。
「いってぇ…」
「な? 夢でも幻でもねぇだろ。あのくらいじゃ、くたばらねぇよ。」
そう言って呆れたように息を吐くシュルクに、ルーウェルは数度まばたきを繰り返す。
そのまましばらく無言の時が続き、そして―――
「よかったぁ……」
ルーウェルは大きく肩を落とした。
「ほんっとうに、心臓が止まるかと思ったよ。」
「心配させて悪かったな。」
素直に謝るシュルク。
すると、ルーウェルはほっとしたような気の抜けた笑顔を見せた。
「無事ならいいんだ。さすがはシュルクだよ。ところで、あの時何が起こったの? シュルクが落ちかけたところまでは覚えてるんだけど、いつの間にか記憶がなくて……」
「さあ? 俺は単純に足を滑らせただけだけど、お前がいつ倒れたかは分からないな。穴から上がってきたら、お前がここで倒れてた。」
ヨルのことを伏せて言うと、ルーウェルは特にこちらを疑う素振りもなく首を捻った。
「うーん?」
「もしかして、運悪くガスを吸ったとか? 体、変なとこないか?」
「うん。特にはないかな。なんか、オレの方が心配させたみたいでごめんな。」
「別に。」
シュルクがルーウェルに話を合わせて言葉を返すと、彼はしばらく不可解そうな顔をしていたが、やがて眉間に込めていた力を抜いた。
「思い出せないもんは仕方ないか……」
「そうだな。考えても仕方ないだろ。」
ルーウェルが自らそういう結論に至ってくれたので、シュルクはその言葉を後押しする。
さすがはヨルだ。
ルーウェルには一切姿を見られていないらしい。
ルーウェルも思い出すことを諦めたようだし、こちらにいらぬ疑いをかけられるようなことはないだろう。
とはいえ、ルーウェルは未だに納得しきっていない様子。
これは、彼がまた悩み始める前に、話題を別の方向へ誘導した方がいいと見た。
そんなことを考えながら、シュルクはポケットに手を突っ込んだ。
「ほらよ。」
ルーウェルの頭の上に、二つの袋を乗せてやる。
「ん? 何これ?」
不思議そうな顔で頭上を仰ぐルーウェル。
「穴の中にあるライトマイトのサンプルが欲しかったんだろ? 落ちたついでに、持ってこられるだけ持ってきた。」
研究バカのルーウェルのことだ。
これを渡せば、些細な疑いなんてあっさり忘れるだろう。
シュルクの推測は外れることなく、その言葉を聞いたルーウェルの顔が一瞬で輝いた。
「えっ!? ちょっ……見せて!!」
シュルクの手から袋をひったくり、ルーウェルはその中に入ってるライトマイトの一つを取り出す。
「お、おお…っ。でも、こんなに大きな結晶をどうやって……」
「その辺に落ちてるの拾ってきた。」
何食わぬ顔で嘘をつくシュルク。
フィオリアをなだめている間に霊子がまた集まってきてしまったので、それらを散らすために霊神召喚で手頃な大きさのライトマイトを爆破してきたというのが実情。
ライトマイトの採掘にも回収にも割と高位の霊神を使ったので、すぐに霊子は見えなくなった。
だからこうして、ルーウェルの前に来られたわけだ。
だが、そのことを一から説明すれば面倒なことになるのは必至。
このライトマイトは、偶然と幸運の産物ということにしておけばいい。
「そっかぁ。すっげー……帰ったら即行で解析するわ。うわぁ……」
子供のようにキラキラとした表情でライトマイトの一つ一つを観察しているルーウェルは、こちらの話など耳半分でしか聞いていないようだ。
期待を裏切らない反応で助かる。
これで彼もしばらくは研究に没頭するだろうし、それが一段落した頃には、自分たちもこの町を出ていることだろう。
真実は、上手い感じに闇の中に葬れそうだ。
「うわっ! なんだこれ!?」
二つ目の袋を開けたルーウェルが、弾んだ声をあげる。
そちらを見ると、ちょうどルーウェルが霊子を封じ込めたライトマイトを取り出したところだった。
「こんなの、どこで採ってきたんだよ!!」
「ああ、それか。実は、奥にちょっとした洞穴があって、そこで採ってきた。時間的な要因なのか、環境的な要因なのか知らないけど、そこだけはガスがなかったみたいで。」
「はっ!? どこどこどこ!?」
「うわわわわっ」
大興奮のルーウェルに飛びかかられ、シュルクは思わず仰け反ってしまう。
「ちょ……落ち着けって。」
「これが落ち着いていられるか!? シュルクが無事ってことは、安全なのが時間的な要因だとしても、今なら大丈夫ってことだろ!? 今すぐ行こう! チャンスは今しかないんだよ!!」
「わ、分かった。分かったから離れろ!」
焦るシュルクは、どんどん距離を縮めてくるルーウェルを強く押し戻す。
想像以上に効果がありすぎた。
まさか、ここまで食いついてくるとは。
妙な展開になってしまったが、こうなったのは紛れもなく自分のせいなわけで……
(めんどくせ……)
心の中だけで呟き、シュルクは大きく息をついた。




