ロナルド少年の実力
目の前の冒険野郎に行くと、エミリーはある程度ツマミを頼んで、ビール二杯目に突入している。
「ある程度頼んどいたよ!」
「あぁ、ありがとう」
ユーゴはビールを頼み、ロンにはジュースを。
「エミリー、明日ロンをオリバーさんに紹介してこようかなと思うんだけど」
「あぁ、そうだね。一番騎士の道に近い。ロン程の強さなら仕事もありそうだね」
「騎士の募集が何歳からかなんだよな。まぁ、聞いてみよう」
冒険野郎はロンのような子供の舌も楽しませた。やはり美味い。
「よし、私はカジノに行くよ!」
「あぁ、頑張って。というかお前ら、いつも当たり前のようにここの支払いオレ達に任せていくよな。まぁいいんだけども」
「え……? じゃ、ちょっと置いていくね……」
「明後日の朝出発な!」
エミリーは心ばかりのお金を置いていった。
彼女が金を使うのは、九割ギャンブル、一割オシャレだ。分かってるから良いのだが。
「なぁ、ロン。お前は綺麗なお姉さんは好きか?」
「何いきなり……?」
「綺麗なお姉さん達がな、店に乱暴しに来る奴を追っ払ってくれる強い男を欲しがってるんだ。オレはお前を推したい」
「俺が……? 無理だよそんなの」
「いや、お前は強いよ。明日刀買ってからSランクの試験について行ってやる」
「ホントに? やった!」
「じゃ、綺麗なお姉さん達のところに行くか」
ロンは煌びやかな大都会に興奮気味だ。口を半開きにしてキョロキョロしている。
少し歩いて、エマの店に着いた。
「いらっしゃいませ〜! あ、ユーゴ君! と、子供……? とりあえずここ座って!」
ジェニーが案内してくれた。今日はまだ客が少ない。
女の子がまた増えて四人になっている。
ロンが口を開けてお姉さん達を見ている。
「いらっしゃいユーゴ君。その子は?」
「あぁ、ロン、自己紹介してくれ」
「初めまして! ロナルド・ポートマン、12歳です! ロンって呼んでください!」
「ハハッ、可愛いな。ロン君ね、私はエマ。よろしくね、何飲む?」
「水割りと、ジュース頼むよ。エマも飲もう」
ウイスキーの水割りと、りんごのジュースが目の前に置かれた。
「じゃあ、乾杯しよっか」
「あぁ乾杯。女の子が増えたんだな」
「うん、元娼婦の子なんだ。やっぱり数日置きに嫌がらせに来るね……」
「やっぱりか……みんな綺麗な子だ。売れっ子だったんだろ?」
「うん、この店、噂で広がってるんだ。好きで娼婦してる子は多くないからね。けど、店がそこまで広くないから、話もらっても雇えないの」
「そうか、店も大きくする時期だな」
「まぁ、とりあえず飲もう!」
「うん! 俺、ルナポート出たの初めてなんだよ!」
「初めてでどこに連れてきてんのよ、ユーゴ君……」
今日は珍しく客が少ない。四人の女の子とたくさん喋れた。皆喋りやすくていい子だ。
「いらっしゃいませ〜こちらの席へどうぞ!」
「あぁ、水割りくれ」
一人の客が来てドカッと椅子に腰掛けた。
「なぁ、あんたがニナか?」
「はい、ニナですけど……?」
「あんたを連れてかえるように言われてるんだが、素直に従ってくれるか?」
ドアを蹴り破るような荒々しい男が多かったが、静かに入ってくる新しいタイプの奴だ。
大柄な男前が、静かに諭すようにニナに声を掛ける。
「いいえ、あそこにはもう帰りません。そうお伝え下さい」
「いやぁ、困るなぁ。俺も仕事なんだわ」
「いいえ、お帰りください」
「そうか、仕方ねぇな。手荒な真似はしたくなかったんだがな」
男はそう言って静かに立ち上がった。
「よし、ロン。ニナお姉さんをお守りしろ」
「分かったよ……危なかったら助けてよ?」
「当たり前だ。一応、強化術施しとけよ」
ロンは果敢に向かっていった。
大柄な男を見上げる様に話しかける。
「おじさん。ニナさん嫌がってるよ?」
「あぁ? 何だガキ」
「とりあえず外に出ようよ。帰ってもらうからさ」
「テメェ、ガキだからって許して貰えると思ってんのか?」
「おじさん、可哀想な人なんだね。実力の差が分からないみたいだ」
――ロン……凄い煽ってる……。
「この野郎……俺がガキより弱いみてぇじゃねぇかよ」
「うん、そう言ったんだけど。理解力も無いんだね」
「おい、殺されても文句言うなよ。表出ろ」
ロンは思った以上に口が達者だ。
男はファイティングポーズをとり、ステップを踏み始めた。
ボクサーか。ロンはノーガードで突っ立っている。
「覚悟し……グッボォォ……」
――速っ……。
ロンは一気に距離を詰めて、ボディにストレートを突き刺した。男はさっきの水割りを吐いてのたうち回っている。
超攻撃的な子供だ。
「何か言った? 聞こえなかったけど?」
「この野郎……」
男は刃渡りの長いナイフを腰から抜いた。
「おじさん、刃物出して子供に負けたらこの街に居られないよ?」
周りを取り巻くギャラリーからはブーイングの嵐だ。
「うるせぇ! 舐めやがって……」
ロンに切り掛かったナイフが、守護術に阻まれて折れた。自然エネルギーを上手く使えている。いい守護術だ。
「もういいよおじさん。バイバイ」
ロンの練気を纏ったジャンピング平手打ちで、男は吹っ飛んで壁に激突し、気絶した。
「ふぅ、皆様お騒がせしました。この店にちょっかいを出される際は、覚悟してお越しください」
ロンは一礼して店に戻った。ギャラリーの歓声が大きく沸いた。
――完璧だロン君。
様子を見に来た女の子四人と、他の客はポカーンとしている。
「見ただろ? ロンをここの黒服に推したい。実力はSランク冒険者以上だ。オレが保証する。明日オリバーさんのとこにロンを連れて行こうと思ってる」
「ロン君はいいの?」
「俺の夢は、王国の騎士になる事なんだ。このお店は夜だもんね? ルナポートでは夜の漁でお金を稼いでたんだ。夜の仕事には慣れてるよ!」
そう、あくまでもロンは騎士団志望だ。
「この店の出勤頻度は、騎士の仕事次第だなぁ……今の店でも強い黒服は必要だろ?」
「まぁね……ロン君さえ良ければ」
「俺は全然構わないよ!」
ロンのここでの就職先の一つが決まった。
明日はSランクになって、領主のところに行こう。
「さぁロン、明日もあるし帰ろうか」
「うん! お姉さん達、またねー!」
「ロン君、ありがとー!」
ほろ酔いでホテルに帰った。
ロンは人の役に立てたのが嬉しかったのか、終始上機嫌だった。
「じゃ、明日は寝坊するなよ。ロビーに集合だ。朝食を食べて出発な」
「分かったよ! おやすみ!」
各自部屋に別れ、床に就いた。




