ロナルド少年
食後のティータイムだ。
ロンの紅茶には砂糖を入れている。
「ロンは魔法使えるの?」
「うん、剣と魔法は教えてもらったんだ」
「師匠がいるのか?」
「うん、ユーゴさんみたいに黒髪の人だよ。ハオさんていうんだ」
――龍族の師匠? 誰だろ。
「どこで知り合った?」
「俺、小さい頃から船が好きで、いつも見に行ってたんだ。その船の船長がハオさんだよ」
あの船長か。
リーベン島行きの船で初めて遁術を見た時の衝撃を思い出す。
「俺いつも背中に剣を背負ってたから、ハオさんが空いた時間に剣技と遁術教えてくれたんだ」
「え……? ロン、遁術使えるのか? てことは、練気術が使えるってことだよな?」
「うん、剣にも纏えるよ」
ロンは剣に練気を纏った。
綺麗に纏っている。凄い子供なのかもしれない。
「この辺の街道沿いならCランクの魔物くらいしかいないだろ。何で餓死寸前なんだよ」
「料理の仕方なんて知らないよ……生でなんて食えないし……火遁使ったら燃えて無くなっちゃうし。山もどこにあるか分からないから木の実なんかも無いし」
――つくづく無謀で不器用な奴だな……。
街道沿いで倒れてたら他の人に見つけてもらえただろうが。
それでユーゴ達がこんな逸材見つけられた訳だが。
――あ、逸材か。
エマの店の用心棒をロンに頼めないだろうか。騎士団に入団志望だ、とりあえずはオリバーの所に行こう。
「その刃こぼれした剣は良くないな。ロン、刀欲しくないか?」
「そりゃほしいけど、いくらすると思ってんのさ……」
「レトルコメルスに着いたら買ってやるよ。最初だ、二級品の下位くらいでいいだろ」
「そんな! 二級品なんて貰えないって!」
「いいって、これも縁だ。お前はいい騎士になるよ」
「ロン、買ってもらったらいいよ! ユーゴは一生遊んで暮らせるくらいお金持ってるから!」
「そうなんだ……」
まだ寝るには早い。
ロンなら自然エネルギーで飛べるだろう。
「ロンに浮遊術を教えようか」
仙術の呼吸法を教えた。
遁術を使えるだけあって、飲み込みは早い。
「おぉ! 浮いた!」
「え……? ロン、打ち上がらなかったね……」
「そうだな……飛んで行かなかったの里長くらいだったぞ……」
少しの練習で自由自在に飛んでいる。
物凄いセンスがあるのがもしれない。
「風エネルギーだけじゃない。火も水も、陽の光や音の速さ、色んな自然エネルギーがある。それを遁術に組み込んだら凄い威力になるぞ」
「そっか。明日やってみるよ!」
弟子ができたようだ。
能力が高い分、教え甲斐がある。
「エミリー、オレもう一つテント張ってロンと寝るから、そのテント使ってくれ」
「うん、分かったよ」
ロンは寝るまで飛び回って遊んでいた。
ユーゴが横にいれば、寝ていても大丈夫だろう。スレイプニルくらいなら。
明日に備え早めに就寝した。
◇◇◇
次の日の朝、昨日握ってもらったおにぎりを食べる。ロンにもユーゴの分を一つ食べさせた。
「さて、行くか。夕方前には着きたいな」
「俺も飛んでみるよ」
皆で飛び立った。
ロンは昨日の夜練習しただけだが、ある程度のスピードでついてきている。
「ロン、あんたすごいね……」
「あぁ、大したもんだよ」
「でも、スタミナが持つかな……」
そう言いつつ、普通に喋りながらついてきてるからすごい。
「ロンは強化術も扱えるんだな」
「うん、基礎は教えてもらったよ。守護術と治療術も」
「ロンがすぐに覚えるから、ハオさん教えるの楽しかったんだろうな」
「うん、いっぱい褒めてくれるから嬉しかった。褒められたくて頑張ったのはあるね」
「そうか、強化術や守護術、治療術にも自然エネルギーを組み込んだら別物になるぞ。またやってみてくれ」
「うん、楽しいね!」
「後は錬気で空を駆ける練習だな、これが出来ると出来ないとでは精度が全く異なるからな」
「うん、ハオさんからは聞いてる。なかなか難しいよね……」
「あぁ、最難関だよ、がんばれ!」
「うん!」
道中の魔物を、自然エネルギーの風遁で切り刻んだり、練気を纏った剣で斬ったり、ロンの強さには驚かされた。
錬気で空を駆ける練習も指導した。中々難しいようだ、ユーゴ達も苦労した。
しかし、ロンなら走ればかなりの速度で走れるだろう。
「ロンお前まさか、レトルコメルスまで歩いて行こうとしたのか……?」
「うん、どれくらいかかるのかも分からないし、他の人達みんな歩いてたし。そもそも方向も分からないし」
――街道に沿って走ればいいだろ……こいつは天才なのかバカなのか……。
まぁ、無謀で無鉄砲な奴なのは間違いない。
途中でロンをおんぶに切り替えて、夕方にはレトルコメルスに着いた。
「オレ達と一緒なら手形所持者用のゲート通れるかな?」
「どうだろねぇ……とりあえず行ってみようよ」
ユーゴとエミリーは門衛に冒険者カードを提示した。
ロンの説明をしようと思ったが、ロンも冒険者カードを出した。
「え!? お前Aランクなのか!?」
「うん、取っといたほうがいいかなと思って。当面の生活費も」
「12歳でAランクか……」
「いやいや、ユーゴさん達はSSじゃないか。憧れるよ」
「餓死しないように、野営の知識と技術を身につけないとな……」
「うん、大事だね……」
「私達、トーマスがいて良かったね……」
大きな門扉を潜る。
無事にレトルコメルスに到着した。
「トーマスとジュリアはまだ着いてないみたいだね」
「どうする? 二人待つのに二泊するか?」
「そうしよっか。多分明日には着くだろうね」
とりあえず、ロンの服を見に行こう。
洗いはしたものの、死にかけていただけあってかなり汚い。
「エミリー、風呂入って冒険野郎に集合な。オレはロンと一緒に服見てくる」
「うん、分かったよ!」
ロンに絹のシャツとズボンを二枚ずつ、下着を数着買って部屋に戻り、風呂に入った。
「ここのサウナもいいだろ?」
「うん、こんな良いものがあったんだね!」
「シャツと下着は毎日着替えろよ? 臭いと仕事が貰えないぞ」
「それは大変だ……毎日風呂に入って着替えるよ……」
ロンは綺麗なシャツに袖を通した。
髪の毛も整え、普通の子供に戻った。