子供
食料品街で醤油や味噌などの調味料と野菜、吟醸酒をたっぷり買い込み、昼の弁当を買って里を後にした。
味噌の中の菌は生きている。空間魔法の中で保管すると菌が死んでしまう為、風味が落ちるのが難点だが、まぁ仕方ない。
「昨日ね、奥様に快癒を見せたんだ。やっぱり凄い術なんだって。医学の常識が変わる! って大興奮だったよ」
「あの効果だもんなぁ。何でも治せそうだ」
メイファのお墨付きの術。彼女が更に研究を進めると更に進化しそうだ。
「エミリー、ボートレースはいいのか?」
「うん、我慢するよ……その代わり明後日はレトルコメルスでカジノ行くよ!」
「いや、いつもだろカジノは」
そのままの足で、レトルコメルスへの帰路に着いた。
「お、ホーンオックスがいるぞ!」
「すき焼き肉ゲットだー!」
この牛の魔物、ホーンオックスは最高のすき焼き素材だ。ランクは知らないが。
「牛の生レバーも上手いんだよなぁ。当たると怖いから一応空間魔法に入れてからじゃないとな」
「今日は吟醸酒、やっちゃう?」
「いいねぇ! 大吟醸買い込んだし、やっちゃいますか!」
牛の解体と肉の処理を終えた。
トーマスの元での修行により、ユーゴの解体の腕もかなり上がっている。
そろそろ昼食にしようかと思ったその時。
「あれ、誰か倒れてないか?」
「ホントだね。子供っぽいけど」
街道から少し離れた辺りに誰かが倒れている。周りに何も無い為たまたまユーゴの目に入った。
近づくと、少年が倒れていた。
「おい、大丈夫か? 怪我はないか?」
「助かった……食べ物は……ありませんか……?」
――オレの弁当……まぁ仕方ないか。
「ほら、これ食え」
「ありがとうございます……」
少年は座る事も出来ない。
「ダメだね、かなり衰弱してる。快癒掛けるね」
エミリーは新術の快癒を少年に掛けた。
顔色が良くなっていく。
復活だ、本当に万能な術だ。
少年は泣きながら弁当を貪った。
「本当にありがとう……お兄さん達に会わなかったら、俺死んでたよ……」
「それはいいけど……何してたんだ? こんなところで」
「俺、騎士になりたいんだ。だからレトルコメルスに向かってるんだ」
「お前何歳だ? あぁ、お前ってのは悪いな。オレはユーゴだ。こっちのお姉さんはエミリー」
少年は口の周りの米粒を口に入れ、二人に向き直った。
「俺はロナルド、ロンて呼んでよ。12歳だ」
「両親は?」
「両親はいない。婆ちゃんに育てられたけど、少し前に死んじゃったんだ。だから、夢だった騎士になりたくてルナポートを出たんだ。出発して一週間、六日ぶりのご飯だよ……」
「無謀な奴だな……現に死にかけてたしな」
さすがにこんな子供を放って行くわけにはいかない。
「オレ達もレトルコメルスに行くんだ。連れてってやるよ」
「本当に!? ありがとう!」
「ユーゴ、お弁当半分食べなよ」
「おぅ……ありがとう」
「なんか……ごめんなさい」
「いや、気にするな」
腹は満たされていないが、夜までの我慢だ。出発しよう。
「ロン、オレの背中に乗ってくれ。振り落とされるなよ」
「え? 背中に?」
「エミリー、ちょっと速度落としてから、徐々にスピードあげよう」
「分かったよ!」
少しスピードを落として飛び立った。
「え!? 飛べるの!? はやっ!」
「もう少し早く飛んで大丈夫か?」
「うん、頑張る!」
徐々にスピードを上げて、全力で飛んだ。
「ロン、大丈夫か?」
「うん……多分……大丈夫」
このスピードで耐えている、大したものだ。
◇◇◇
夕方になり、いい野営地を見つけた。
「あそこいいな! いい湖あるよ」
「ホントだな、あそこにしよう」
グッタリしているロンを下ろすと、大の字に転がった。
「大丈夫か……?」
「うん……なんとか……ユーゴさん達、何者なの……」
何者と言われても困るが。
腹が減った、さっさと設営しよう。
「ロンはエミリーと一緒にテントを立ててくれ。エミリー、サウナの火入れも頼めるか?」
「了解だよ!」
「オレはすき焼きの準備する」
「さうな? すきやき?」
すき焼きの準備はすぐに終わるからいい。
「よし、オレが火入れするよ。エミリーは着替えときな」
「ロンは? 水着ないけど?」
「え? 何するの?」
「ロン、風呂に入れてやる。恥ずかしくなけりゃ下着脱いで洗っとけ」
「まぁ恥ずかしくはないけど……」
皆でテントサウナに入る。
「あつー!! 何これ!」
「いっぱい汗かけよー!」
汗だくで湖にダイブ。
「あぁ、気持ちいい……」
「一週間の汚れ落としとけよ」
「その感動、分かるよ」
休憩だ。
ユーゴは川辺の岩に座る、今日は我慢だ。
「何これ……頭がフワフワする……」
「ヤバいでしょ。ロンもサウナの虜だね!」
数セットしてすき焼きだ。
「すごくいい匂いだ」
「生卵につけて食ってみろ」
「生卵に……? ズルッ……。ウマー! なにこれ!」
「皆のすき焼きの反応、面白いよね。美味しいもんこれ」
ロンは大満足だ。
初めての生レバーは苦手だったらしいが。
ユーゴとエミリーも大吟醸で満足だ。




