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ジュリアの刀


 夕方になり、修練場に里の幹部が集まった。


「エミリー、ユーゴ、えらく早いお戻りだな」


 早速メイファがチクリと嫌味を投げる。二人は苦笑いを浮かべる他なかった。

  

「トーマスはどうした?」

「トーマスは仙族の仲間と二手に別れて、仙神国に行きました」


 続々と皆が集まった。

 里長は辺りを一瞥すると、よく通る声で喋り始めた。


「皆に集まってもらったのは、ユーゴとエミリーが仙族と魔族の術を持ち帰り、練気術をさらに昇華させたからだ。今から披露する(ゆえ)、持ち帰って部下に展開させて欲しい」


 ユーゴが説明を交えて実演すると、感嘆の声が上がった。

 

「これは凄いな」

「皆が空中戦に参加できる。空を駆ける龍族は急な方向転換もできるからな。相性がいい」

「遁術や剣技の威力が桁違いだな……」


 

「皆、ある程度は習得できたようだな。では持ち帰って指導を頼む」


 

 流石は龍族の幹部たち。全てを理解し帰っていった。

 これでユーゴ達の用事は終わった。


「奥様! さっきの仙族と魔族の戦闘法で、治療の新術ができたんです。SSクラスの魔物にかけたんだけど、魔力障害と意識障害が無くなって凶暴性が収まったんです」

「ほう、凄いなそれは。シュエンもあれは魔力障害ではないかと思っている。それを治せるかもしれんと言うわけか」

「はい、奥様と術の改良ができないかなと思って!」


 確かに、メイファと共に開発すれば、更に精度が上がるだろう。

 

「二人共、泊まって帰るのであろう?」

「そうですね。少しゆっくりして帰ります」

「エミリー。家事仕事はいいからうちに泊まれ」

「はい、みんなと会いたいし!」

「ユーゴはうちに来い、大歓迎だ」

「はい、お願いします」

「トーマスにも、また帰って来いって伝えといてくれよな!」


 そう言うヤンガスはどこか寂しそうだった。

 


  

 里長の屋敷で食事をしている。

 一月足らずしか離れてないが、すごく久しぶりに感じる。里長と二人で膳の刺身や煮物を楽しんだ。

 里長に一献進める。


「里長、特異能力って何なんですかね」

「そうだな、皆が持っているものではない。生まれ持っている者や、突然習得する者もおる」

「里長は持ってるんですか?」

「うむ、一応はな。自ら喋る様なものではない故、普通は言わぬがな」


 龍王の特異能力。

 とんでもない物を持っていそうだ。


「この眼の色が変わったときに見た夢の中では、オレの龍眼は特異能力で、時を止められるようになるらしい神眼ってのは、眼の力だって言ってましたね」

「左様か。仙族の青い眼のような物かの。奴らは空間魔法以外にも能力を開眼する者がおる」


「あ、オレこの眼になって空間魔法使えるようになったんですよ。仙人も使えるらしいんですけどね」

「なんと? 仙族に関わる様な眼ということか。まぁ、人族はもともと仙族である。不思議ではないが……なぜ緑ではないのかが分からぬな」


 里長と二人で酒を飲みながら話す事が出来た。

 明日はレトルコメルスに帰る。早めに床についた。



 ◇◇◇



 

 朝食はユーゴのリクエストで卵かけご飯を頂いた。卵料理の完成形ではないだろうか。里の米でないと、この味わいは再現できない。


「里長、皆さん、いきなり押しかけたのにありがとうございました」

「何を言う。お主の帰るところはここであろう。気を使うでない」

「ありがとうございます。じゃ、また帰ってきますね!」


 屋敷の皆に見送られて門を出た。

 エミリーとはこの門前で待ち合わせている。すでにエミリーは門番と喋っていた。


「おはよう、エミリー。待たせたか?」

「あぁ、おはよう! 今来たとこだよ!」

「そうか、じゃ行くか。買い物もあるしな」


 門番に挨拶をして歩き始めたが、ユーゴがふと思った事を口にした。

 

「なぁ、ジュリアに刀をプレゼントしたらどうだろう?」

「あぁ、喜ぶだろうね! ヤンさんとこに行こっか」


 決まりだ。

 ヤンガスの屋敷に向かう。



 鍛冶屋街の一際大きな建物。ヤンガスの屋敷の横にある鍛冶場に入った。

 朝から金属を叩く鎚の音が響き渡っている。


「おはようございます。ヤンさんはお忙しいですか?」

「おぉ、ユーゴか! 親方ぁ! ユーゴとエミリーが来ましたよ!」


 

 奥からヤンガスが汗を拭いながら出てきた。


「おぅ、おはよう二人共。何か用か?」

「はい、仙族の仲間に刀をプレゼントしたいなと思って」

「そうか。そいつぁ普段何を使ってんだ?」

「ツヴァイハンダーっていう、ヤンさんの背丈ほどある両手大剣です」

「ほぅ、そりゃ大層な大男だろうな」

「いや、少し背が高いけど女性だよ!」

「女がそんな両手大剣振り回してんのか!? すげぇな……分かった、ちょっと待ってろ」


 そう言って、ヤンガスは奥から一振の刀を持ってきた。


「刃紋は互の目(ぐのめ)、俺が打った刀の中ではかなり長めの刀だ。いつも通り名前はねぇ。両手大剣を振り回せるなら問題ねぇだろ」


 ヤンガスは刀を鞘から抜いて翳した。

 今まで見た事が無いほどに長い刀だ。流石にツヴァイハンダー程長くはないが。

 

「ありがとうございます。これは支払いますよ! 流石に!」

「お前ぇらから金受け取んのは、忍びねぇんだよな……」

「いえ、オレ達だいぶ金持ってるんで!」

「んー、そうか……? 俺んとこは一級品の上位だと500万で出してる。こいつぁエミリーの青眼と同時期に打ったやつだな」

「私達の刀そんなに高いの!? 私のと同時期か。これプレゼントする人は私の恩人なんだよ!」

「あぁ、エミリーの話に出た仙族か! そりゃ金なんて取れねぇな!」

「いやいや、ヤンさん! それはダメです!」

「エミリーの恩人の刀だ! 金なんていらねぇよ!」


 払う、いらねぇで、もう半ば喧嘩だ。

 結局エミリーと折半で、100万ブールだけ支払った。またお世話になってしまった。

 


「あ、ヤンさん。お願いがあるんだけど」

「あぁ、何だ?」

苦無(くない)って作れる? 細めの苦無が欲しいんだけど」

「俺の師匠が作ってたな。よっしゃ、作ってみるか」

「ホントに? じゃ、四本くらいお願いします!」


 最近のエミリーは、苦無や遁術で中距離攻撃をするのが主だ。

 予備だろうか。

  

「おぅ、お前ぇらの刀ぁ見せてみろ」


 ヤンガスは二人の刀を鞘から抜き、舐め回すように観察した。


「よし、トーマスの奴ぁサボらずに手入れしてるみてぇだな! あいつを鍛えて良かった!」


 抜打ちチェックだ。危うしトーマス。


「では、大陸に戻りますね! またトーマスと帰ってきます!」

「ヤンさん、またねー!」

「おう、いつでも帰ってこい!」


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