リーベン島への帰省
王都を出て三日、フドウの里に到着した。
「まずは里長の所に行くか」
「そうだね!」
里の中心部、里長の屋敷に飛んだ。
門番は顔見知りだ。
「あれ? ユーゴ、おかえり」
「ただいま! 里長は?」
「あぁ、執務室だと思うよ」
執務室に向かう。
コンコン
「入れ」
「失礼します。帰りました、里長」
「お主ら……あれだけ盛大に送り出したのに、一月もせず帰ってくるとはの……」
「いや……ほんと、そうですよね……」
「ユーゴ、右眼はどうした?」
「朝起きたらこうなってたんです」
里長に夢の話をした。
「神眼とな。夢の話を鵜呑みにするのもどうかとは思うが。眼の色が変わっておるのだ、無視はできぬな……で、何か用で戻ったのであろう?」
「あぁ、オレたち仙神国に行ってから、仙王様の孫と一緒に旅してるんです。仙族の戦闘法を練気術に組み込んだところ、とんでもなく戦闘能力が上がりました。仙族も練気術を取り込むと、同様の効果を得ました」
「ほう」
「そして、王都で魔族と出会い、魔族の戦闘法を教わり更に戦闘力が増しました。それを里の皆に伝えれば、里の戦力の増強になると思い戻りました」
「なるほどの。では見せてもらおうか」
里長と共に庭に出る。
一年間修行してた場所だ、まだ一か月程前の事だが、懐かしく感じる。
「まず、仙術の基本は呼吸法にあります」
自然エネルギーの取り込み方を里長に説明した。
「なるほどの。この風エネルギーとやらで浮遊するわけか。練気に混ぜるとすれば、量を間違えてはならんようだ」
そう言って、里長は普通に浮いた。
皆これで吹き飛ぶのがお約束だが、そうはならなかった。
――やっぱり凄いなこの人は……。
「遁術に自然エネルギーを混ぜると、更に効果が段違いに上がります」
里長は右手を見ている。
自然エネルギーを遁術に込めているんだろう。
「ほう、これは凄いな。こんな所で放つわけにもいかぬ。ナグモ山へ行こう」
そのまま山へ飛んだ。里長はもう浮遊術を我が物にしている。
流石は龍王、センスの塊だ。
「浮遊術は素晴らしいな。しかし、練気でなければここまでの速度は出まい」
「そうですね、仙族もそう言ってました」
蜘蛛から牛の頭が生えた魔物、懐かしのギュウキだ。
「よし、自然の風エネルギーを風遁に取り込んでみよう」
『風遁 風刃』
牛鬼が一瞬で真っ二つになった。
全く見えなかった……。
「ほう、これは素晴らしい」
「次は魔族の戦闘法です。練気のボールに風遁を詰め込んで圧縮します。それを開放です」
「圧縮からの開放か。なるほど」
里長は練気のボールに風遁を一気に詰め込んだ。それを前方の牛鬼に放った。
『風遁 鎌鼬』
ユーゴ達とはレベルが違う。
無数の風の刃が、一瞬で牛鬼を斬り刻んだ。
「すっごいね……」
「なるほどの、種族間の戦闘法を混ぜるとこうも術の威力が上がるのか。これは良い」
「次は、この全てを用いた魔法剣です。刀に纏った練気を一つのボールだと思ってください」
「そうか、刀身と纏った練気の間に遁術を詰め込むのだな」
里長の倶利伽羅刀が風遁を纏った。
『剣技 剣風』
途轍もない斬撃が木々を斬り倒し、岩山に突き刺さり、岩山の上部が落ちてきた。
「おぉ……ユーゴよ、これは恐ろしい剣技を作ったものだな……」
「里長のはレベルが違いますねやっぱり……」
「よし、屋敷に戻り、皆を集めよう」
屋敷に戻り、里長は幹部を夕方に修練場に集める手配をした。
「もう一つ、お使いを頼まれてきたんです。仙王様からです」
通話システムの通信機だ。
里長に理解してもらえるかが心配ではある。
「何だこれは?」
「離れたところにいる人と会話ができる機械です。ウェザブール王都の女王が開発したそうです」
「ほう、これをなぜ儂に?」
「仙王様が、龍族と連絡を取りやすくするために渡しておけと言われ、持ってきました」
里長だけでは心配だ。娘のリーファに来てもらった。軽く仙術の基礎を教え、通信機の概要を説明した。
「なるほどね、私は理解したよ」
「ふむ、よく分からぬ」
「仙王様と通話してみますか」
使い方を理解したリーファが、仙神国に通信を飛ばした。
「はい、仙神国です」
「こちらはリーベン島の龍王です。仙王様に取次ぎお願いします」
「少々お待ち下さい」
リーファが通話機を里長に渡した。
「ラファエロだが」
「おぉ、仙王か。儂だ」
「龍王か、久しいな。これで何かあれば連絡が取れるということだな」
「うむ、儂はよく使い方が分からぬが、娘が理解した」
「心配するな。我も分からん」
――心配するなってなんだよ。
「ユーゴがそちらにおるのだな? ジュリアとトーマスはもうこちらについておる」
「そうですか。オレもまた行きますね、仙王様」
「あぁ、待っている。ではまたな、龍王」
「うむ、何かあれば連絡する」
通信が切れた。
「凄いなこの機械は」
「はい、天才ですよね」
これで仙族、龍族、人族が繋がった。