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エマの夢、前進


 レトルコメルス領主、オリバーの屋敷に着いた。もう既に日は暮れている。この時間の訪問は非常識だろうか。

 門番に話をすると、あっさり案内してくれた。執務室の机に向かうオリバーは立ち上がり、応接のソファに座るよう二人に促した。まだ仕事中だったらしい。


「やぁ、シャルロット様から話は聞いてる」

「すみません、こんな半端な時間に……」

「いや、構わない、食事は終えたところだ。そちらの娘はエマだね? ローズによく似てきたな」

「え、お母さんを知ってるんですか?」

「あぁ、君の父親のマクシムもよく知っている。マクシムは親友だった」


 エマの事を昔から知っている口ぶりだ。

 オリバーは少し俯き、静かな口調で話を続けた。


「マクシムが襲撃された日、ローズとエマの事を任されたんだ。私が二人をここに連れてきた。マクシムが心配だった私は、二人を送り届けてすぐに王都に帰った。その後、ローズの事を聞いて後悔した。もう少し滞在して監視すればよかったと」


「エマはこの街で、仕方なく娼婦をしている女の子の受け皿になるようなバーを作りたいという夢を持って頑張っています」

「それは敵が増えそうな夢だね……その辺は私に任せるといい。この街の治安維持は私の仕事だ。しかもエマは女王の玄孫。私が責任を持って見守るよ」

「本当ですか!? それだけが心配だったんです。元娼婦を雇うとなると、絶対に取り戻しに来る人がいる」

「私の部下を雇うといい。大抵の奴は返り討ちにしてくれるよ。多少値は張るがね」


 オリバーの部下なら相当腕が立つだろう。安心だ。


「良かったなエマ。夢が現実味を帯びてきた」

「うん、ユーゴ君もありがとう」


「そうだ、オリバーさん。今、女王に通信できませんか?」

「あぁ、出来るよ」


 通信機は別の部屋にあるらしく、部下が応接机まで持ってきた。

 オリバーが慣れた手つきで女王に通信している。


「はい、ベルフォール家でございます」

「レトルコメルスのオリバーだ。シャルロット様に代わってくれ」

「かしこまりました」


 少しすると、女王の甲高い声が響いた。


「オリバー! どしたの?」

「いえ、ユーゴ君が話があるということで、代わりますね」


「シャルロット女王、ユーゴです。エマの土地相続の件ですが、やはり売却の方向でお願いできますか?」

「そかそか、エマには出会えたのね?」

「ええ、今ここにいます」

「シャルロット女王、初めまして。エマです」

「おぉ! エマ! こっちにいたときは二歳とかだったもんね! 土地が売れたら振り込んどくから、またこっちにも遊びに来なょ?」

「はい、ありがとうございます。また遊びに行かせてください。でもすごいですねこれ、会話が出来てる」

「すごいでしょ! ウチの発明だょ! じゃ、またね〜!」


 通信が切れた。


「私にも故郷があるって事だよね」

「あぁ、そうだな。いつでも連れて行ってやるよ」

「うん、ありがとう。オリバーさん、またお店を出すときには相談しに来ていいですか?」

「あぁ、もちろんだ。待ってるよ」


 二人は領主の屋敷を後にした。


「ユーゴ君と出会ってから、人生が好転してるよ。出会えて良かった」

「いや、エマは頭がいいからな。何をしてたって成功してたと思うよ」

「ユーゴ君、これからどうする?」

「いいバーがあるんだよ、行かないか?」

「うん、連れてって!」


 もちろんトーマスと見つけたあのカウンターバーだ。

  

 カランコロン……入口扉を押し開ける。


「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」

「お久しぶりです、マスター」


 マスターはエマを見て少し驚いた表情をしたが、すぐに席に案内してくれた。


「お飲み物はいかが致しましょう」 

「彼女、夢に向かって頑張ってるんです。いいカクテルないですか?」

「かしこまりました」


 マスターはシェイカーを振り、カクテルグラスに注いだ。


「パラダイスでございます。カクテル言葉は『夢の途中』です。夢に向かって頑張るというのは、辛いこともありますよね。この甘いカクテルで一休みしてみてはいかがでしょうか」


「素敵……うん、美味しい。マスター、彼は私をいつも正しい道に導いてくれる」


 マスターは少し頷いて、ワイングラスにカクテルを作った。


「キールでございます。カクテル言葉は『最高の出会い』です。人は誰に出会うかで人生が大きく変わります。お客様は良い出会いをしましたね。ごゆっくりお楽しみください」


 ワインベースのカクテルだ。

 二人でグラスを傾けた。


「ホント、素敵な店ね」

「あぁ、いいだろこの店」


 美味しいカクテルでほろ酔いの二人は、カウンターで語り合った。

 そして、ユーゴのホテルに二人で帰っていった。


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