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ベルフォール女王


 ジュリアを先頭に、女王の前に歩を進める。


「ジュリジュリ〜! 久々じゃーん!」

「あぁ、久しぶりだな」


 ――この国の王は基本的に軽いんだな……。


 女王は玉座に座って足をプランプランさせてる。


「紹介する。ユーゴ、トーマス、エミリーだ」

「お忙しいところ、謁見に応じて頂きありがとうございます」

「いいょいいょ! そんなに堅苦しく挨拶しなくても! そっちの部屋で喋ろうか」


 隣の部屋に案内された。

 運ばれてきた紅茶の香りを楽しむ。


「ウチは『シャルロット・ベルフォール』だょ。ジュリジュリ! やっとオシャレに目覚めたのかょ! カワイーじゃん!」

「いや、目覚めたってほどじゃないが、少し化粧も勉強してみようかとは思ってる。って、アタシの話は良いんだよ!」

「ん? 何か話があるの?」


 ――あ、オレの話していいのかな……。


 一呼吸置いて、ユーゴは首からペンダントを取り外した。


「シャルロット女王、初めまして。早速ですがこのペンダントに見覚えはありませんか?」


 エマのペンダントを差し出した。

 女王は手に取って見るなり答えた。


「あぁ、ベルフォールの紋章のペンダントだょ。ウチに生まれた男児には、これを二つ渡すんだ。伴侶を得た時に一つを相手に渡す、そういうしきたりだょ。ウチの旦那が勝手にした事が慣習になっちゃったんだょね」

「どなたのものかは分かりませんか?」

「この残存魔力は……マクシムだね。ウチの曾孫(ひまご)だょ」


 そのマクシムという男がエマの父親らしい。エマは女王の玄孫(やしゃご)という事だ。


「マクシムさんは今どちらに?」

「死んだょ。少し長くなるけど、聞く?」

「はい。お願いします」



 女王は、エマの父親の話をしてくれた。

 話し方がチャラすぎて入ってこなかったので要約する。


 

 ◆◆◆ 


 

 マクシム・ベルフォールには、親が決めた許嫁(いいなずけ)がいた。オーベルジュ分家の娘、サーシャ・オーベルジュだ。


 マクシムは勉学に優れていた。容姿も端麗で、武術にも長けていた。サーシャは、マクシムが自分の許嫁であることを周りに自慢していた。


 しかし、マクシムは親が決めた結婚などしたくはなかった。

 自然と恋に落ち、その相手にこのペンダントを渡し結婚する。そう親に反発しては衝突した。


 マクシムは、長期の公務で訪れたレトルコメルスで、客引きの娘に一目惚れした。

 それが、ローズだった。

 マクシムはローズに声をかけた。自分の身分を明かさずに毎日のように通った。ローズもマクシムに惹かれていった。


 王都に帰る日が決まると、マクシムはローズに自分が王族であることを打ち明け、ペンダントを渡しプロポーズした。

 しかし、ローズは娼婦だ。マクシムには惹かれているが、王族の方とは釣り合わないと断る。

 マクシムは、身分や職業など関係ない。自分は愛した人と結ばれたいと懇願する。


 ローズは熱意に負け、ペンダントを受け取った。そのまま王都に帰り式を挙げ、二人は夫婦となり、子を授かった。


 それに嫉妬したのはサーシャだ。

 自分の許嫁が、外から女を連れ帰ってきてそのまま結ばれた挙句、子まで作った。


 二人と子供を殺してやる。

 嫉妬に狂ったサーシャは、腕利きの冒険者を複数人雇い、三人を襲撃した。


 その後、マクシムの亡骸だけが見つかった。

 妻子はその後どうなったかは分からない。


 

 ◆◆◆



「これがマクシム本人と、拘束したサーシャから聞いた話の全てだょ。マクシムの両親、つまりウチの孫夫婦は、冒険者を雇ってまで殺人を企てるような者と息子を一緒にさせようとしていたのかと心を病んで、二人で自害したの」

 

「そうだったんですね……そのマクシムさんの娘がレトルコメルスにいます。オレの友人です。両親の事は覚えてないみたいですが」

「エマでしょ? 覚えてる。生きていたのね」


 女王は思い出したように言った。

 

「ウチの孫息子たちとマクシムの遺産が浮いたままなんだょね。ベルフォール家は争いのもとになる財産の分与や、土地の相続はしっかりするの。だから今はウチが預かってる」

「へぇ、いくら位あるんですか?」

「3000万ブール以上あったんじゃないかな。エマがお金と土地を相続するのが正当だね」


 3000万以上。とんでもない金額の相続権がエマにあるらしい。


「このペンダントに残ってるのがエマの魔力だょね。エマの銀行口座に振り込もうか。伝言つけとけばいいでしょ」

「そんなことできるんですか?」

「簡単だょ。誰が魔力認証システム作ったと思ってるのょ」


 ――え、女王が作ったの……?

 

 三人の驚いた顔を見てジュリアが口を開いた。


「あぁ、魔力認証システムどころか、家庭内の灯具や冷暖房器具から、生活を快適便利にしているもののほとんどはシャルロットの発明だ」

 

「うん。『発明女王シャルロット』とはウチのことだょ!」


 発明女王。

 もちろん知っている、超が付く有名人だ。本当の女王とは思わなかった。

 という事は、とユーゴの頭にもう一人の名が浮かぶ。


「もしかして『流通王レオナード』って……」


「あぁ、銀行を立ち上げ街道を整備し、王国内の銀行システムや流通システムを一から作り上げたのがレオナードだ」


 ――え……ただのチャラい王様だと思ったら大間違いだったな。


 トーマスとエミリーも知らなかった話だろう。口を開けて放心している。


「王家という名の大財閥だよ。だからこの国では税金を取ってないだろ? 必要ないんだよ、儲けすぎて」

「でも、各地で儲けた企業から寄付金って名目でお金が集まるんだょ。だからそれを、軍事費と各町の治安維持費や町の整備に当ててる。足りない分は二王家で出すけどね」


 始祖四王並の伝説の人物の話を聞いた。

 天才二人を人族のトップに据えた仙王も、先見の明があったという事だろう。


 シャルロット女王は得意気な表情でティーカップを持ち上げて口を付けている。

 

マクシムとローズの物語は、別作品『私、娼婦を引退します』で描いています。

宜しければご一読ください<(_ _)>

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