夢
部屋にいると、メイドのリナが食事の用意が出来ましたと呼びに来た。
広い部屋の円卓に三人。
ジュリア以外は申し訳なさが先行し、背を丸めて座っている。
「いきなり押しかけて食事まで、すみません……」
「いえいえ、大歓迎でございますよ!」
リナはにっこり微笑んだ。
至れり尽くせりだ、慣れてない分気を使う。
「そういえばジュリア、エミリーがなんだって?」
「あぁ、そうだそうだ。お前らの勃起で言いそびれたよ!」
「デカい声で言うなよ!」
「エミリーも、明日からここの世話になるってさ。もう少し滞在したらどうだと言われたみたいだが、あそこの家は他の親族も住んでるからな。昔から交流がない分、気を使うんだろ」
「なるほど。まぁ、お母さんとはいつでも会えるようになった訳だしな」
ここも難解な名前のディナーコースだ。
マナーも理解した。
部屋に戻り、寝床につく。
明日は午後まで用事は無い。ゆっくりしよう。
○○○
(ユーゴ、お話するの久しぶりだね)
ソフィアの声だ。
この感覚は、夢だ。
何年かに一度見る夢。
母の顔はモヤがかかったように良く見えない。ユーゴの記憶が曖昧なせいだろう。
いつも世間話をして目が覚める。
前は何の話をしただろうか。初めて一人で魔物を狩ったとか、そんな話だった気がする。
(あぁ母さん、久しぶり。元気? 元気なわけはないか)
(元気といえば元気よ? 仲間ができて楽しそうね。母さん安心したわ)
(あぁ、いい仲間に恵まれたよ。オレ、結構強くなったんだぞ?)
(そうね、父さんを越える日も近いかな?)
(あぁ、父さん別人みたいに変わってしまったんだ。元の父さんに戻す手立てはできたんだけどな)
(そう、父さん助けてあげてね。頼んだわよ)
(今日は、ジュリアに龍族の剣技を教えたんだ。すごいよあいつは、兵器を作ってしまった気分だよ)
(人に教えるってことは、自分も成長できる。良いことだよ)
(成長といえば、今日はおかしかったんだ。周りの動きが遅くなったんだよ。そう感じたんじゃない、魔法までスローで見えたんだ。龍眼が進化したのかな)
(いいえ、龍眼ていうのは特異能力でしょ? ゆっくり見えたのは眼の力よ。母さん達はそれを『神眼』って呼んでる。完全に開眼すれば相手の動きが止まるわ。開眼しかけなのかもね)
(そんなバカな。さすが夢だな)
(あなたは本当に強くなったわ。またね、ユーゴ)
(あぁ、皆が止まって見えたらまた報告するよ)
〇〇〇
――目が覚めた。頭がスッキリしてる。
相変わらずリアルな夢だった。
しかし、素晴らしいベッドだった。朝の目覚めが違う。
朝食を頂き、食後の紅茶を嗜む。素晴らしい朝だ、今日は午後まで何の予定もない。
部屋から眺める王都の街並みは、整然として美しい。
書庫にお邪魔し、紅茶を飲みながら読書をしていると、すぐに昼になった。
昼食を頂く。
メイドのリナは、明るくて笑顔が素敵な女性だ。リナもここでは混浴なのだろうか。はたまた自宅に帰るのだろうか。
などと邪な目で見てしまっては、またボッキを人前に晒すことになるとユーゴは首を横に振った。
王に会う前に礼服に着替えよう。
直しは完璧、ユーゴの体にピッタリ合わせてくれている。
城門で二人を待つ。
すぐにトーマスが来た。
「やぁ、まだ残夏だから暑いね、上着は後にしよう」
「おう。トーマスもお直しは完璧だな」
「あれ、ユーゴ? 右眼が……」
ジュリアが来た。
「おまたせ!」
「おぉジュリア、礼服に化粧が映えるなぁ」
「うん、化粧すると一段と綺麗だ。本当にジュリアは何を着ても似合うね」
「あぁ、リナにしてもらったんだ。最近そう言われると、嬉しくなってきたよ。化粧も勉強してみるかな。二人もカッコいいよ」
「ねぇジュリア、ユーゴの右眼見てみてよ」
「ん? あぁ、紫だな。いや、青紫って言った方がいいか」
「そうだよね?」
「オレの眼が? 青紫?」
「ほら、見てみな」
ジュリアから鏡を受け取り、覗き込んだ。
「ホントだ、青寄りの紫だな。何でいきなり……」
「いきなり眼の色が変わることなんてあるの……?」
「トーマスお前……オレの前で眼の色変わっただろ」
「あ、そうか……」
「あ、もしかして……」
ユーゴは夢の話を二人にしてみた。
「神眼? それ本当に夢なのかな……タイミングが良すぎない?」
「その神眼てのが開眼しかけてるって事か。時を止められるって、最強じゃないか……」
「物がゆっくり見えるのも、発動条件も分からないからな。様子を見るか」
ベルフォール王の城まではすぐの距離だ。
少し歩くと、城門の前に礼服を着飾ったエミリーが立っている。メイクもバッチリだ。
「あ! みんな、待ってたよ!」
「エミリー、久しぶりの家族団欒はどうだった?」
「うん、いっぱいお話できて楽しかったよ! ここに寄ったときは会いに行けるし、まさかこんな日が来るなんて思いもしなかったよ。で、ユーゴの眼、どうしたの?」
「朝起きたらこうなってたんだよ。原因は分からん」
「ふーん」
眼の力。
元仙族の王なら分かるのだろうか。聞いてみるのも良いかもしれない。
「さぁ、ベルフォール王に謁見だ。ジュリア、どんなお方なんだ?」
「女王だよ。レオナードほどのクセはない」
なるほど、女王の可能性は頭になかった。
クセは……少しはあるらしい、構えておこう。
門にはすでに、お迎えがスタンバイしていた。中についていく。
オーベルジュの城とはまた違う、どこかシャープな印象を受ける。物が少ないのだろう。しかし装飾などにセンスを感じる。
「こちらが王の間です」
扉が開くと、玉座に女性が座っている。
年齢は全くわからない。レオナード王と変わらないはずだが、凄く若く見える。
とにかく、アイメイクからチークに至るまで化粧が凄い。ヘアスタイルも逆毛を立てて特徴的だ。
ベルフォール女王との謁見が始まる。