十二年
「貴族街に火が見えたから、すぐに騎士団を派遣した。でも残念ながら屋敷内の半数以上は亡くなった。イザックもだ」
それを聞いたエミリーの目に涙が浮かんだ。
「でも、リヴィアは生きてるよ」
「え!? ホントですか!?」
「あぁ、さっき話に出たメイドってのはイリアナだろう? 彼女も生きている」
エミリーは安心から泣き出した。
祖父のイザックは残念だったが、居ないと思っていた家族が生きている。
「良かった……会いに行ってもいいのかな……?」
「あぁ、イザックの屋敷を改修して住んでいる。長男のアシルが当主になってるよ」
「午後から訪ねてみます……ありがとうございます……」
「良かったな、エミリー」
ジュリアがエミリーを抱きしめている。
午後からは十数年ぶりの再会だ。
「で? ベルフォールの城の方には行くの?」
「あぁ、明後日の午後に面会を申し込んだ」
「そうなのね! なぁみんな、明後日の夜パーリーしない? リヴィアもイリアナも呼べばいいよ。使いの者出しとくからね」
恐らくパーティーの事だろう。
何を出すのかを理解しているのはジュリアだけだ。
「いいのか? アタシ達まで」
「いや、たまに王家の交流で食事会するのが定例なんだよ。そろそろだなと思ってたからさ。ちょうど良かった。向こうには伝えとくよ」
王は矢継ぎ早に質問を投げた。
「あ、それとさ、今どこに泊まってるのよ?」
「少し南門方面に歩いたホテルだ」
「ここに泊まればいい。部屋は用意するよ。ちゃんジュリは国賓なんだからさ」
三人には何言ってるのか全く伝わらないが、ジュリアにだけは伝わっている。
「三人とも、部屋を用意してくれるってさ! じゃ、今日はホテルに泊まるから、明日から頼めるか?」
「分かった! 晩のシーメーも用意させとくよ」
「すみません、ありがとうございます……」
明後日の約束をして、オーベルジュ王の謁見は終わった。理解しようと頭を働かせ、若干の疲れがある。
次はエミリーの実家に行こう。
「12年ぶりか……緊張するな」
「お母さん、びっくりするだろうね」
城の周りを囲むように広がる貴族街。その片隅にあるエミリーの実家の屋敷に着いた。
庭を掃除している屋敷の使用人に声を掛ける。
「すみません。リヴィアかイリアナに取次お願いしたいのですが。エミリアと言います」
「エミリア様……? ご無事だったんですか!? リヴィア様ですね、すぐに伝えてきます!」
「私の事知ってる人だったね」
「エミリーは覚えてないの?」
「うん、ほとんど目を閉じてたからね」
「あぁ、そうだったね……」
少しすると、入口の扉が勢い良く開き、30代後半くらいの女性が二人飛び出てきた。
「お母さん! イリアナ!」
「エミリア! 本当にエミリアなの……?」
「エミリア様……よくご無事で……」
三人で抱き合って泣いている。
感動の再会だ。後ろで見守る三人の目にも光る物が浮かぶ。
「お母さん、私今、冒険者してるんだ。この三人が私の仲間。こっちのジュリアが助けてくれて今まで生きてこれたんだ」
「ジュリアさん、皆さん、本当にありがとう……まさかエミリアが生きているなんて……もう一度会えるなんて……なんてお礼を言えばいいか……」
「お礼なんていいよ、アタシも悪かった。何ですぐに確認しに来なかったのか……」
「エミリア様の恩人の方たちです。どうぞ屋敷の中にお越しください」
屋敷の一室に案内され、紅茶を頂いた。
少し間を置き、イリアナが喋り始めた。
「エミリア様を外にお連れした後、リヴィア様を助けに屋敷に戻ったんです。その後敵に囲まれ、私は力尽き倒れました」
「イリアナはエミリアと私を守ってくれた。イリアナが倒れた直後、王都の騎士たちが助けに来てくれて私達を城に匿ってくれたの」
「私はその後、三日後に目を覚ましました。すぐにエミリア様の元に走った。でも、おられなかった……なぜもっと早く目を覚まさなかったのか。悔やまれてなりませんでした……」
「私はあれから二日後にジュリアに助けられたの。屋敷の事は分からなかったから、このままだと危険だって事ですぐに王都から出たんだ」
「リヴィアさん、すまない。元凶のアレクサンドはアタシの兄なんだ。今は仙神国から追放されている。が、言い方を変えればあんな奴が諸国をウロウロしているんだ。アタシ達はあいつらを追っている」
「私の節操がなかったんです。全ては私が悪い……」
当時を思い出し、皆目に涙を浮かべている。
ただ、これからは笑顔で思い出話を共有することが出来る。
「エミリー、次の予定は明後日の午後だ。ここにお世話になればいい」
「そうよ、エミリア。色んな話を聞かせてくれる?」
「いいの? じゃ私明後日の午後までここで過ごすね!」
「良かったなエミリー。明日の予定は特にないからゆっくりするといい。オレらの武具と着替えだけジュリアに渡しておいてくれるか?」
「分かったよ!」
いい笑顔を浮かべるエミリーを見て、心が晴れる。
三人はエミリーと別れて貴族街を後にした。
「なぁ、明日はアタシに剣技を教えてくれないか?」
「あぁ、教えてほしいって言ってたな。じゃ明日はホテルをチェックアウトしてロビーに集合するか」
三人で昼食を済ませ、朝に行った仕立て屋に礼服の直しを頼んだ。少し直すだけらしく、明日には出来上がるようだ。
ベルフォール王の謁見とパーティの準備は万端だ。
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