快癒の効果
昼食を済ませ、少し北に移動した。
「ここね」
「やばい時は倒すけど、目的はグリフォンの魔力障害を治してみることだ。トーマスは守護術、残りで動きを止めよう」
「了解」
禍々しい魔力を感じる。
「治療術パンパンにしとくね」
「よろしく。よし、来るぞ!」
こちらの魔力に気付いたのだろう。グリフォンが威嚇の声と共に飛んできた。
『守護術 堅牢・陣』
トーマスがグリフォンの猛攻を防ぐ。
自然エネルギーを取り込んでから安定感が違う。SSに対して何の危なげもない。
『仙術 途絶』
三人でグリフォンの動きを止めた。
「よし、エミリー!」
『治療術 快癒!』
さっきよりも勢いのある治癒のシャワーが、グリフォンに降り注いだ。
「漏れ出してた魔力が無くなってないか?」
「そうだな、途絶を解くぞ。戦闘態勢は崩すなよ!」
足止めを解き、グリフォンから離れる。
禍々しい魔力は消え失せた。
凶暴性が落ち着いたか。
当然魔物だ、向こうの戦闘態勢は崩していない。警戒しながら後退りして、グリフォンは山頂に向けて飛んで行った。
「成功か……?」
「えぇ、エミリーちゃんの新術は、魔力障害を治せるようね」
「やった! シュエンさんを治せるかもって事だよね?」
「えぇ、魔力障害が原因ならね。魔力過多による意識障害も解けてたわね、凄いわ」
「ただ……あの三人相手にこれを放てるかだな……治してやるって言って素直に従う訳ないしな……」
「まぁ、そうだね……でも、治る可能性があるんだ、凄いことだよ」
「あぁ、光が見えてきたな」
元の優しいシュエンに戻す手立てができた。
――待っててくれ、父さん。
◇◇◇
ロック鳥とペガサスの依頼品は回収済みだ。
「どうせなら、ワイバーン倒して帰りましょ」
「そうですね。新魔法剣の試し切りだ」
「アタシも新仙術の効果を試そうかな!」
ワイバーンの生息地もそう遠くはなかった。五人の移動速度ではすぐの距離だ。
「ワイバーンはSランクの魔物だけど、数体で行動するの。だから依頼のランクで言えばSSに近いわね。だから皆受けたがらない。いつも依頼が余ってるわ」
「オレ達はもう、Sランクくらいなら一人で倒せるくらいのレベルにはなったしな」
「じゃ、増えすぎたワイバーンを乱獲しますか!」
前方に三体のワイバーンがいる。
見た目は小さなドラゴンといった感じだが、コウモリの様な羽と、大型の鳥の様な脚が特徴だ。
「よし、アタシが一体もらうよ! トーマス、守護術ちょうだい!」
「了解、三人に掛けるよ」
トーマスは個別に守護術をかけた。
「よし、二体はオレとエミリーがもらうか」
「いくよー!」
先に行ったジュリアは、ワイバーンの放った風魔法を掻い潜り、圧縮した仙術を投げた。
『仙術 恒星爆発!』
練気のボールごと投げつけて、とんでもない大爆発をワイバーンにお見舞いした。
太陽光エネルギーの仙術だ。
ワイバーンは跡形もない。
「よし、オレの番だ」
練気を纏った刀に、風遁を更に練って凝縮する。もう刀が弾けそうだ。
『魔法剣技 五月雨』
強力な風遁を載せた剣戟を雨の様に降らせ、ワイバーンを微塵斬りにした。
『魔法剣技! 風車輪!』
エミリーも魔法剣技だ。
輪になった剣風が高速回転してワイバーンを襲う。ワイバーンは真っ二つになって地に落ちた。
「僕も魔法剣技使ってみたいなぁ」
「おい! アタシにも剣技教えてくれよ!」
「あなた達……相手は一応Sランクよ……?」
◇◇◇
ワイバーンを乱獲してギルドに戻った。
「トーマス、ワイバーンの体皮はどうだ?」
「コカトリスの方が上質で硬いね」
「じゃ、全部売るか」
依頼品をカウンターに並べた。
「ご苦労さん、ペガサスとロック鳥が二体づつと。え……? ワイバーンが十体……? 何者だよあんたら……」
ワイバーン乱獲の甲斐あって、魔晶石は30個ほどあった。
「報酬は……すげぇな、1300万ブールだ。ここにそんな金ねぇんだが、振込でいいか?」
「一人260万ブールか。モレクさんは振込?」
「えぇ、いつも振り込んで貰ってるわ。でも私、ワイバーン倒してないわよ?」
「いや、授業料ですよ。では、こっちの女性二人は現金で、あとは振込でいけますか?」
「ありがとな。500万くらいなら渡せるよ」
ホクホク顔のギャンブラー二人を先頭に、ギルドの外に出た。
「儲けさせて貰っちゃったわね。お礼に今日は、うちの店でディナーを用意するから来てちょうだいよ。お店貸し切りにするわ」
「え、いいんですか?」
「えぇ、あなた達さえ良ければね」
「私行きたい!」
「アタシもタダ飯なら大歓迎だよ!」
トーマスは無表情のまま何も言わないが、大丈夫だろう。
「ではお言葉に甘えて、お邪魔します!」
「分かったわ。あと、ユーゴ君とトーマス君、そんな他人行儀な話し方やめてちょうだい。私達はもう仲間よ」
「はい……ボチボチ崩しますね! では後で」
大通りを南下し、徒歩でホテルを目指す。
「トーマスはあの店苦手そうだもんな……大丈夫か?」
「あぁ、お酒飲んで大人しくしとくよ……真面目に話してくれれば全然良いんだけどね」
トーマスは苦笑いを浮かべてそう言った。