言葉の綾
猫背気味に頭を垂れて歩くユーゴの肩に、トーマスが手を置いた。
「ユーゴ、落ち込んでる場合じゃないよ。魔族の戦闘法を教えてもらえるんだ。僕たちは更に強くなる」
「あぁ、分かってる。分かってるけど……クソッ、この性格が嫌になる……」
「よし、こういうときは飲みに行こう! おねぇちゃんのところに!」
「トーマスの口からそれを言わせる日が来るとは……あぁ、行こうか。ありがとう」
リバティのあたりがこの辺の繁華街らしい。人がさっきより増えている。
四つの門から城にかけて、四本のメインストリートがある。もっと大きな繁華街があるのは間違いない。
「ん? なんだあの店」
無料案内所と書かれた看板が目に飛び込んできた。そのド派手な配色は嫌でも目に付く。
「無料で何を案内してくれるんだろう?」
「タダほど怖いものは無いが……入ってみようか」
中に入ると、二人より少し年上だろうか。男性が笑顔で出迎えた。
「いらっしゃいませ! お兄さん達、飲みですか? ヌキですか?」
――ヌキ……? 何だそれは……?
「え……あぁ、飲みたいですね。ちなみにヌキとは……?」
「あぁ、女の子に✕✕✕や✕✕✕してもらう店ですね!」
何という事だ。お金を払ってあんな事やこんな事ができるらしい。
「飲みに行こうか……トーマス」
「うん……そうだね」
「あぁ、モミですね! じゃ、この店がオススメですね! ご案内します!」
店まで案内してくれるらしい。しかも無料だ。
「こちらですね! 二名様お願いしまーす!」
「はいはい、いつもありがとね。ささっ、お客様こちらです!」
元気なお兄さんだった。
本当に無料で案内して、黒服さんにバトンタッチした。おそらく案内料を店から取るのだろう。色々な仕事があるものだと二人は感心して、店の中に吸い込まれた。
「こちらのお席にどうぞ。女の子は後ほど参りますのでお待ち下さい」
トーマスとは別々の席に案内された。
――なんだ? 一緒じゃないのか。
騒がしい音楽が流れた活気のある店だ。
『え〜シンディちゃん三番シートォ〜、ノラちゃん四番シートォ〜ヨロシクゥ〜』
鼻にかかった様な奇妙な声で男がアナウンスすると、すぐに女の子が来た。
「こんばんわぁ〜! ノラでーす!」
「あぁどうも、ユーゴです」
ゆるめのドレスを着た若い女性がユーゴの隣に座る。いつもエマ達の様なタイトなドレスの女性を見ているユーゴには、酷くだらしなく映った。
「ユーゴくん、何飲みます〜?」
「んー、ビールにしようかな」
ノラが合図をすると、黒服がビールを持ってきた。
「あれ? ノラちゃんの飲み物は?」
「え、飲んでもいいんですか?」
「もちろん。一緒に飲もうよ」
「ありがとー! おねがいしまぁーす!」
黒服がノラの飲み物を持ってくる。
わざわざ言わないと持ってこない、なんとも面倒くさいシステムだ。
「じゃ、カンパーイ!」
「乾杯! で、この店はどういう店なの? こういうスタイルは初めてだ」
「あら、そうなの? じゃ、めいっぱいサービスしちゃおっかな!」
そう言って、ノラはユーゴの膝の上にまたがった。
「えっ! なになに!?」
そして、大きな胸をさらけ出した。
「えー! どういう事!?」
一層音楽が激しくなる。
ノラの胸が揺れる揺れる。
そして、ユーゴの顔を包み込んだ。
何だこの店は……!
――触ってもいいのかな……?
良いらしい。
酒を飲んでいる場合ではない。
どれくらい経っただろう。
ユーゴの目の前で乳房が揺れ続けている。
「あ、もう時間だね、どうする?」
「どうするとは……?」
「延長する? お店出る?」
「あぁ、出ようかな……」
「そっか! ありがとねユーゴくん!」
外に出ると、先にトーマスが出ていた。
「凄かったねこの店……」
「うん……オレ、飲みたいって言ったよな……? まさか乳を揉みたいって伝わったのかな……」
「まぁ、色々経験するのは良いことだよ……」
「そうだな……まぁ楽しかったし、帰ろうか」
「そうだね……楽しかったのは間違いないよ」
色々、収穫のある日だった。
明日はオーベルジュ王に会いに行く予定だ。
ゆっくり休もう。




