ショーパブ
「とりあえず、当分ここに腰を据えないか? 魔人達の情報があるとしたらここだ。冒険者ギルドもあるし、依頼もこなせる」
「そうだね、ここを拠点にしようか」
「あぁ、アタシは皆に任せるよ。お祖父ちゃんから王二人への手紙を預かってるよな? アタシ二人共面識あるから、面会は問題なく出来るよ」
「さすが始祖四王の孫だな……」
ユーゴのとぼけた言葉に、三人が顔を向けた。
「いやいや、ユーゴもそうじゃん」
「あ、そうか……里長って呼びすぎて忘れてた」
「明日の朝に、先ずはどちらかの王の城に手紙を渡しに行こうか」
「まず、オーベルジュ王に会わせてくれない? 可能性は低いけど、お母さんの事聞きたいな……」
「分かった、先ずはオーベルジュ王に面会を求めようか」
明日の午前の予定は決まった。
レトルコメルスもよかったが、王都の料理も美味い。この獣の腸に肉を詰めた、ソーセージという料理が気に入った。あまり加工肉というものを食べた事がない。
「このソーセージはビールとの相性が抜群だな」
「うん、まだまだ食べたことのない料理が沢山あるんだろうね」
ここでも冒険者の味方、冒険野郎はユーゴ達を楽しませてくれた。間違いなく行き付けの店になるだろう。
「さてエミリー、ここのカジノは初めてだろ? 行くよ!」
「うん、初めてだね! レトルコメルスの最後のカジノは、ユーゴのせいで不完全燃焼だったんだよ!」
「おいおい、勝たせてもらっといてオレのせいはねーだろ!」
「あれはギャンブルじゃないね!」
「まぁ、オレはもうカジノはいいな……いつか捕まりそうだ」
女性二人はいつも通りカジノだ。
「いやぁ、美味かったな。他にも店舗あるのかな?」
「ありそうだね。こんなに手広く展開してるんだ、この店で魔人達の情報は無いかな?」
「店員さんに聞いてみようか。これだけの人気店だ」
会計中、店員の男性に魔人について聞いてみた。
「この店、手広く展開してるんですね。レトルコメルスとここ以外もあるんですか?」
「はい、あと一店舗ありますよ!」
「やっぱりそうですか、そこも行ってみたいな。あと、一つお聞きしたいんですけど、赤髪で化粧した女言葉の魔族の男って見かけたことないですか?」
「はい、知ってますよ」
店員の男は、さも当たり前の様にそう答えた。二人は不意をつかれ、咄嗟に言葉が出なかった。
「……えぇ!? ホントですか!?」
「はい、ここから少し南門の方に戻って、路地に入ったところにある、ショーパブ『リバティ』って所で働いてますよ。地図書きましょうか?」
「ありがとうございます!」
なんと、普通に働いているらしい。
店員に地図を書いてもらい、その店に向かった。
少し南門方面に戻り路地を少し入ると、大通りとは全く雰囲気の違う繁華街が広がっている。
「ここだね、リバティって書いてある」
「でもオレたち武器持ってないぞ……?」
「さすがに自分の店で暴れないでしょ」
「トーマスは大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。前回は突然過ぎて頭に血が上ったけど今は冷静だ」
「よし、入るか」
ドアを開ける前から漏れ出ていたが、開けた瞬間、大音量の音楽が聞こえてきた。ステージではショーの最中だ。化粧をした男達のダンスで盛り上がっている。
「いらっしゃいませ~! あら、またかわいい子達が来たわね! こっち座ってね!」
「ほんと、若い子なんて珍しいわね〜。何飲む?」
「あ、ウイスキーの水割りください」
「僕もそれで」
慣れた手付きで水割りを二つ。
いや、自分たちのも合せて四つだ。
「あたしたちももらうわよ! 心配しないで、自分で払うから! キャッハッハ!」
「いやいや、オレたちが払いますよ」
「ホントに!? いいの? 優しくていい子ねぇ! 食べちゃいたい!」
――よく喋るな……。
トーマスが分かり易く引いている。
「あの、一つ聞きたいんですが」
「ん~? なぁに? 何でも聞いてくれていいわよ? 下半身のことかしら? ギャッハッハ!」
――すごいバイタリティだ……。
「こちらの店に、赤髪の魔族の方がいるって聞いたんですが、いらっしゃいますか?」
「あぁ、ママのお客さんだったのねぇ! なら早く言ってちょうだいよ! 今日はまだお客さん少ないから、ママと交代するわね!」
そう言って、名前も知らない元気な二人が奥に下がっていった。
「凄いなこの店……普通に来たら楽しそうだ」
「そう……? 僕は苦手だな……」
少しすると赤髪の男が来た。暗くて顔が見えない。
「いらっしゃい。ご指名みたいだけど、私ついたことあったかしら?」
違う。
赤髪に鋭い犬歯は魔族の証だ。が、確か魔人には鋭い犬歯は無かった。この男は人族で言うところ40代くらいだ。魔人の見た目はユーゴより少し上くらいだ。
「いえ、人違いのようです。失礼しました」
「あら、そう。もしかして探してるのは『マモン』じゃないかしら?」
「知ってるんですか!?」
「えぇ、よく知ってる。元々あの子もここで働いてたから。あなた、龍族ね? そっちの子は……なるほど、仙人なのね」
「はい、マモンのその後はご存知ないですか?」
「残念ながら、ここを出てからのあの子の事は知らないの」
「そうですか……」
「もしかして、あの子が何かした?」
トーマスが言いにくそうに口を開いた。
「はい、僕の一族はマモンに皆殺しにされました……」
魔族の男は小さく声を上げ、驚いた顔でトーマスを見た。
「あの子が……そんな事……そう……。あなたにとってはマモンは仇なのね……でもね、信じられないかもしれないけど、あの子はそんな事する子じゃなかったの。とても優しい子だった。でも、徐々に徐々に変わっていったの……」
「よろしければ、詳しく教えていただけませんか? もちろん、お時間を頂いた分の料金は支払います」
「分かったわ、ここじゃうるさいでしょ。奥に案内するわ。あなた達! お店は任せるわね!」
『はぁ~い!』
ユーゴ達は、奥のVIPルームに案内された。
「部屋代は気にしないで。飲み代だけでいいわよ。おかわりは水割りでいいかしら?」
「いや、当然部屋代もお支払いします。こちらがお願いしたことですから。水割りでお願いします」
「あら、そう? まぁ安くしとくわね」
「オレはユーゴ、こちらはトーマスです。よろしくお願いします」
水割りをそれぞれに作り、魔族の男は話を進めた。
「ユーゴ君にトーマス君、よろしくね。まず、私の名前は『モレク・シルヴァニア』よ。前魔王アスタロスと、現魔王リリスの孫なの。マモンはリリスの末の息子。つまり、マモンは私のかなり年下の叔父に当たるわね」
――大物だな……そんな人がなぜこんなとこに……。
「なぜこんな所に、って思ったかしら? これからそれを話すわね」
モレクはマモンとの関係を話し始めた。
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