ジュリアとトーマス 3
今日も冒険野郎だ。
この店は三人のお気に入りだが、ジュリアも気に入っている。毎日ここでも良い程にメニューが豊富だ。
「あ、奥にユーゴとエミリーがいるね」
奥に歩いて進む。
また客にチラチラ見られる。
――やっぱり変な格好しやがって、って思われてるのかな……。
「おぉ、トーマス。ジュリアの魔力も感じるけど……誰だそちらの美人さ……ん……え!? ジュリア!?」
「え!? ジュリアなの!? すっごく綺麗な格好してるね!」
「あぁ、可笑しいなら笑うがいいよ……」
「いや! 凄くいい! そこらのモデルよりよっぽど綺麗だ!」
「うん、ジュリアそういう格好のほうが似合うよ!」
「そうか……? トーマスに何着か選んでもらったんだ。一日着てもまだ慣れないな……股間がスースーする」
「凄く綺麗でしょ? プレゼントしがいがあるよね」
「ジュリア! また一緒に可愛い服買いに行こうよ!」
「あぁ、アタシにはよく分からないからな、選んでもらわないと。たまにはこういう格好もしてみるか……」
ここはやはり美味い。
いつもはビール片手に大股開きだが、こういう格好をすると脚が閉じるから不思議だ。
――アタシも女なんだな……。
「この街も今日で最後か。二人は今日もカジノに行くのか?」
「いや、アタシはトーマスにバーってとこに連れて行ってもらおうかと思ってる」
「あ、そうだユーゴ、私も前に連れて行ってって言ったよね? 女の人がカウンターにいるとこ」
「……え? いや、あそこ昨日も行ったけど、人気すぎていつも満席なんだよ……なぁ、トーマス」
「うん、そうだね。だから昨日のカウンターバーに出会えたんだよね」
「そうか。残念だねそれは……」
――なんだ? ユーゴがホッとしてるぞ。
「じゃあユーゴ、カジノに行ってみない?」
「カジノか、そうだなぁ。仲間の趣味を経験するのも良いかもな。ボートレースもなかなか楽しかったし」
「じゃ、行こっか!」
「じゃあ、僕はジュリアと昨日のバーに行ってくるね」
「楽しみだな。じゃ、行くか」
カジノ組と別れて、そう遠くないバーまで歩いた。
カランコロン……
いい音だ。
雰囲気のある静かないい店だ。
カウンターに数人座っている。二人は奥のカウンターに案内された。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがいたしますか?」
「こちらの女性をイメージしたカクテルを作ってください」
「なるほど、とても美しい女性ですね。かしこまりました」
――何だそのオーダーは……?
マスターは色々な液体を、シェイカーに入れてシェイクした。それを二つの三角形のグラスに注いで、二人の前に差し出した。
ピンク色のお酒が、薄暗い照明の下で輝いている。
「『コスモポリタン』でございます。カクテルにもそれぞれ言葉がございます」
「カクテルに言葉?」
「はい、コスモポリタンのカクテル言葉は『華麗』です。お客様の様な、華やかで美しい女性に似合うカクテルでございます」
褒められたジュリアは、こそばゆさを感じながらもグラスに口を付けた。
「美味い。甘いのかと思ったが、凄く飲みやすい」
「本当だ、凄く飲みやすいね。美味しい」
少しすると、マスターはまたシェイカーを振り始めた。
次は茶色っぽいカクテルだ。
「『サイドカー』でございます。カクテル言葉は『いつも二人で』です。美男美女でお似合いのお二人にはピッタリのカクテルですよ。では、ごゆっくりお過ごしください」
マスターはそう言うと、他の客の所に行ってシェイカーを振り始めた。
「カップルだと思われたね。ジュリアとなら悪い気はしないね」
トーマスはそう言って、可愛い顔で笑った。
――あぁっ!
ジュリアは、今日一番の胸の締め付けに襲われた。
――すぐ治る。なんなんだこれは……。
「アタシみたいなだらしない女には、トーマスみたいな男がいいんだろうね」
「ははっ、僕みたいな男じゃジュリアとは釣り合わないよ」
素晴らしいバーだ。
凄く落ち着くしお酒も美味しい。
騒いで飲むだけが酒じゃないんだと、ジュリアは静かにグラスを傾けた。
◇◇◇
「ありがとうトーマス。今日は色々初めてをプレゼントしてもらったな」
「こちらこそありがとう。買い物どころか一日付き合わせちゃったね」
「またデートしような!」
「うん、たまには男女で二手に別れても良いかもね。楽しかったよ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
スカートとこの靴にも少しは慣れてきたか。
エミリーはもう帰っているようだ。部屋をノックする。
「ジュリア、おかえり!」
「あぁ、ただいま。今日は初めてだらけだったよ。カウンターバーみたいに静かに飲むのも良いもんだな。カジノはどうだった?」
「ユーゴはカジノでは無双だよ。能力との相性が良すぎるんだ」
「能力?」
「うん、ユーゴって『龍眼』ていう、相手の先が視える能力があるんだ。ルーレットなんて無双状態だよ。私も勝たせてもらったけど、あれはギャンブルじゃないね……」
「なるほど、すごい能力だな……それは羨ましい」
先が見える能力。
剣士にはこの上なく相性のいい能力だ。ジュリアは心の底から羨んだ。
「トーマスとはいっぱい話せた?」
「あぁ、一日男と過ごすなんて初めてだったよ。でもな、なんかおかしいんだ。トーマスと話してる時、たまに胸をギュっと締め付けられる事があるんだ。すぐ治るんだが、あれは何だったんだろう……」
「え、大丈夫……? 今は何ともないの?」
「あぁ、今は大丈夫だ。すぐに治るんだ」
「分からないなぁ……ちょっと医学書で見てみるね」
病気ではないといいが。
今日は楽しかった。明日に備えてゆっくり休もう。
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