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ジュリアとトーマス 2


 ジュリアが試着室のカーテンを開くと、トーマスは目を見開き口を開け、驚きの表情を浮かべた。


 ――やっぱり……おかしいだろこの格好は……。


 ジュリアの思いとは裏腹に、トーマスは興奮気味に喋り始めた。


「ジュリア……凄く似合ってる……想像以上だ……じゃ、靴も選ばないと! いきなりハイヒールはきついかな? こっちのかかとが少しあるサンダルにしようか」


 サンダルに履き替え、店内をうろつく。

 まぁ歩けなくはない。


「ジュリア。もの凄く似合ってる! ペンダントもつけてみよう! あと、もう三着くらい着てみようか!」


 ――なんかトーマスの変なスイッチが入った……。


「いやぁ、ジュリア。オシャレしないと勿体ない、この服は全部僕がプレゼントするよ。今からこれ着てランチに行こう」

「え!? こんなの着て外に出るのか!?」

「うん、ジュリアは背が高い上に、スタイルが抜群に良いんだ。そして美人だ、皆が振り向くよ」


 ――えぇ……水着で歩くほうがまだ良いぞ……。

 

 トーマスには、ジュリアの言う変なスイッチが入っている。従う他ない様だ、と観念して外に出た。


「良さそうな店見つけたんだ。そこに行ってみよう!」



 買ったワンピースをそのまま着て街を歩いている。

 道行く人々にチラチラ見られてる。物凄く見つめられる時もある。


「ほら、皆がジュリアに見惚れてる」

「変なものを見る目じゃないのか……?」


 身なりの良い太った中年男性が近付いて来た。


「すみません、お時間よろしいですか? 私、こういうものですが」


 名刺には、モデル事務所と書いてある。


「もうどこかに所属してらっしゃるんですか?」

「いや……まぁ所属はしてる……かな……?」

「そうですか……そりゃそうですよね……もし、気が変わりましたら連絡してくださいね!」


 その後、三人の中年男性に声をかけられた。


「何だこれは、凄く面倒くさいぞ」

「モデル事務所が声かけて来るくらい綺麗だって事だよ。次からは無視すればいい」


 

 その後、数人の男達を無視し、ようやく店に着いた。


「ここだ。ジュリアは辛い食べ物いけたよね?」

「あぁ、辛いものは好きだ」

「なら良かった。ここのスパイス料理が美味しいんだ」


 中に入ると、皆が手を止めてジュリアに注目した。


「何でこっち見るんだよ……変なもの見るみたいにさ……」

「僕も今のジュリアが入ってきたら見るかもね」


 料理はスパイスが効いた肉やスープだ。


「これは美味いな。辛さがちょうどいい」

「でしょ? ここの料理好きなんだ。さっきスパイスも買ったよ」

「これを外で、しかも新鮮な肉で食える訳か。贅沢だな」


 鼻に抜ける様な爽快感。ジュリアは初めてのスパイス料理を堪能した。


「僕、このあと何も考えて無いんだけど、ジュリアは予定立ててた?」

「いや、今日はカジノまで何しておこうかなと思ってたくらいだ。全く考えて無かったな。むしろ夜もカジノをやめて、バーってとこに連れて行って貰いたいくらいだ」

「本当に? じゃ夜はバーに行こうか。夕飯は冒険野郎かな? じゃ、この街フラフラしてみようよ」

 

 店を出て少し歩いてみた。

 男とデートなど、ジュリアには初めての経験だった。




 

「本当、ここは賑やかだよね。王都に行ったことないけど、王都も賑わってるの?」

「いや、王都はもう少し上品な気がするな。アタシはこっちの方が合ってるな、いい街だ」


 レトルコメルスの中心。

 石造りの立派な建物が見えた。

 

「あ、ここが領主の屋敷だね。大きいでしょ? あ、そうか。ジュリアはもっと大きな城に住んでるんだもんね……」

「あぁ、あのでっかい城に住んでるワケじゃないけどな。仙神国に来たらアタシにはあの国は合わないって分かるだろ?」

「うん、そうだね……でもジュリアには、自分の中にブレない芯があるよね。カッコいいと思うよ、尊敬する」


 ――ん……? なんか胸のあたりに違和感が……。

 


「痛っ……」

「どうしたの? あぁ、慣れない履物を履かせちゃったから靴擦れしてるね。ちょっと待ってね」


『治療術 再生』


 綺麗に治った。

 龍族の回復術は、仙族のそれとは効果が違った。教えてもらわないといけない。


「もう大丈夫だ。慣れるまでは靴擦れしちゃうかもね……どうする? 着替えるかい?」

「いや、せっかくトーマスが選んでくれたんだ。このまま歩くよ」

「そう? 無理しないでね?」


 まただ。

 胸のあたりがグッと締められる様な感じがある。


 ――何だこれは……すぐに治まる。

 


 このサンダルにも慣れてきたか。違和感もなくってきた様な気がする。

 その後も色々な話をしながら歩いた。


「あ、ここの紅茶は美味しいよ。靴擦れの事もある、少し休憩しようか」

「アタシは紅茶にはうるさいぞ?」


 テラス席に座り、紅茶をオーダーした。

 すぐに運ばれてきた紅茶は凄く香りがいい。


「あ、これは美味いな」

「でしょ? もちろんここの茶葉も買ってるよ。飲みたいときは言ってね」

「抜かりないなトーマスは……」


 気配りから何から、本当に何でもできるトーマスに関心すると共に、自分のだらしなさが少し恥ずかしくなってきた。


「トーマスは本当に何でもできる奴だな。アタシみたいな奴がパーティに入ってきてイライラしないのか?」

「イライラ? 何で?」

「いや、アタシは何も出来ないだろ? 何で俺がしなくちゃならんのだ! とか思わないのか?」

「ジュリアが何もできない? 何の冗談だい? 戦闘能力はうちのパーティーでトップじゃないか」


 トーマスは真っ直ぐにジュリアを見つめてそう言った。

 

「……いや、そういう事じゃ無くてな……料理は任せっぱなしだし、シャツもスボンも洗ってもらってるし。流石に下着は自分で洗うが……」

「食材を狩ったり、テント張ったりしてくれてるじゃないか。気にしなくていいよそんな事。できる者が出来る事をすれば良いんだよ」

 

「……お前は聖人だよ、ホント。アタシもシャツ洗ったりしてみようかな。ママにもアタシのだらしなさ、ずっと注意されてたからさ。この旅で直すのも良いかもな、いい手本がいるからさ」

「んーまぁ、新しいことにチャレンジするのは良いことだと思うけど、人には向き不向きがあるからね。僕は小さい頃から家の事してたから当たり前ってのもあるけど、基本的に好きなんだろうね。アドバイスはするよ、とりあえず頑張ってみようか」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 何故だろう。母親に言われ続けて直らなかった事を、自分からやってみようなどと言ってしまった。まぁ、何事もチャレンジだ。

 


 トーマスと喋るのは楽しい。

 ジュリアの興味を引く話を探り出して楽しませてくれる。博識なトーマスに尊敬の念が芽生えた。

 


「あ、色々ショッピングしてたらもうこんな時間だよ。あっという間だったね」

「え? あぁ、ホントだな。日が沈みかけてるな」

「歩いて帰ってちょうどいい時間だね。帰ろうか」

「あぁ、二人も多分、冒険野郎にいるだろ」


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