ジュリアとトーマス
レトルコメルスも三日目だ。
明日の朝には王都に向けて出発する。
今のジュリアは絶好調だ。
元手の100万ブールは300万ブールにまで増えている。夜はカジノで勝負だ。今日のスレイプニルレースはあまりいいレースが無い。買い物にでも行こうかと思案している。
とりあえず朝食を食べよう。
ここの朝食は、好きな物を選んで食べられる。好き嫌いが多いジュリアには有難かった。
「トーマス! おはよう」
「あぁ、ジュリア、おはよう」
「一緒に食べようか。昨日もユーゴと飲んでたのか?」
「うん、すごくいいバーがあってね。美味しくてついつい飲みすぎた」
「そうか、カジノばかりじゃなく、そういう夜もいいのかもな」
「明日の朝には出発だもんね。あ、ジュリア、これから用事ある?」
「いや、今日はスレイプニルレースには行かないつもりだ、用事はないよ」
「買い出しに付き合ってくれない? ランチは奢るからさ」
「昼はエミリーに奢ってもらう事になってたけど、またでいいか。いいぞ、行こうか。エミリーの部屋に行って伝えてくるよ」
「いいの? 予定があったんならいいけど?」
「いや、たまには男前とブラブラするのもいいだろ」
朝食を終え、エミリーの部屋をノックする。
「ん? ジュリア、おはよう。どうしたの?」
「今トーマスと朝食を一緒に食べてたんだけど、トーマスの買い出しに付き合う事になったんだ。ランチはまたでいいか?」
「そっか、賭けの負け分はまたって事? いいよ私は」
「じゃ、アタシは今日トーマスに付き合うよ」
「うん、分かったよ。競馬場、今日はいいレース無いもんね。んじゃ、私はユーゴ誘ってみようかなぁ」
ジュリアの普段着は、いつものシルクシャツとピッタリのデニムパンツ。王家の女性とは思えない程に質素な出で立ちだ。
ホテルを出て二人で中心街に向かった。
「ジュリアの好きな食べ物は何?」
「んー、何と聞かれたら困るな……嫌いな物は多いが。こないだ食べた照り焼きは美味かったなぁ。初めて食べる味だった」
「あぁ、あれは龍族の国の調味料で作るんだ。明日は違う料理作ってあげるね」
トーマスの料理は美味い。ユーゴの料理も美味いらしいが。
「三人で旅を初めてから、エミリーの空間魔法のお陰で荷物が無くなるのはもちろん、料理にも大助かりなんだ。これからはジュリアも加わってくれて本当に助かる」
「空間魔法が料理に関係あるのか?」
「普通は旅に野菜なんて持ち歩かないよ。調味料もそこまで持てない。だから料理の幅も広がるんだ」
「なるほどね。アタシとエミリーの二人旅では、ご飯なんて作れなかったから焼くだけだったな。だから感動したよ、しかもサウナまで」
こんな快適な旅ならずっとしておきたい。前回の十年とは全く違う。
「それにね、空間魔法で肉を保存してもらうとすごく長持ちするんだよ。しかも、熟成するのか美味しくなるんだ。生で食べられるのはその日だけだけどね。空間魔法の中って生き物は入れられないんじゃない?」
「あぁ、そうだな。生物を入れたら死んでしまうよ。だから人を匿うとかはできない」
「やっぱりそうか。雑菌が死ぬから肉や野菜が長持ちするんだね。それなら数日置いても生食できるかもね。でも、熟成するのはなんでだろう……何にしろ素晴らしいよ」
トーマスが野菜や調味料を買って、ジュリアが預かった。
武具の店がある。
寄ってみよう。
「仙神国より良い金属は無いね」
「そうだろ? あれは軽くて丈夫でいい」
「武器も良くて二級品か。ジュリアはなんでツヴァイハンダーを武器に選んだの? 双剣とかのイメージだ」
「最初は見た目で選んだよ。カッコいいだろ? 仙術で重さのハンデは無くなるからな。そのまま使い続けたんだよ」
「なるほどね。僕は性格的に盾役だと思って、何となく片手剣を選んだなぁ。そんなものなのかもね」
特にめぼしい物は無かった。二人の装備は既に充実している。
次は服屋だ。
男性物も女性物も置いてある。
「エミリーは普段は着替えてオシャレしてるけど、ジュリアは冒険時のシャツのままなんだね。まぁ、僕らもそうなんだけど」
「エミリーは昔からそうだな。アタシはいいよ、面倒くさい」
「ジュリアは美人でスタイルがいいから、何でも似合うよね。スカートとかも似合うんじゃない?」
「嫌だよあんなの! アタシあのヒラヒラが嫌すぎて国の式典とかでも軍服着るのにさ!」
「そうかなぁ、似合うと思うんだけどな。着てみるだけタダだよ? 何をするにも初めてはある」
「まぁそうか……初めから決めつけるのもな、何事もチャレンジだな。トーマスが言うなら着てみようか」
試着室に入り、トーマスが選んだ一枚布のワンピースに着替えた。
――何だこれは……スースーする。これをトーマスに見せるのか……? 裸より恥ずかしいぞ……。
ジュリアが試着室で戸惑っていると、トーマスが外から声を掛けた。
「サイズはどう?」
「いや、サイズとかじゃなく……」
「じゃ、出てきて見せてよ」
「笑わないか……?」
「笑うわけないでしょ」
ジュリアは恐る恐るカーテンを開いた。