エマのペンダント
店を出てエマの店を目指す。
カランコロン……
「あれ、満席だね」
「相変わらず流行ってるなぁ。ん? 女の子が一人増えてるな」
「あ、ユーゴ君にトーマス君。ごめんね、さっき席埋まっちゃったんだ……」
(あとからホテルに行ってもいい……?)
(あぁ、分かったよ。これ、部屋番号)
「仕方ない、違う店に行くか」
「うん、残念だけど仕方ないね」
違う店とは言っても、呼び込みは二度とごめんだ。
「適当に入るか。トーマス選んでくれるか?」
「責任重大だな……よし、ここにしよう」
本当に適当に決めた店に入った。
かなり年季の入った雰囲気の良いバーだ。
「いらっしゃい。こちらのカウンターへどうぞ」
白シャツに黒ベスト、黒い蝶ネクタイでキメたシブいバーテンダーがお出迎えだ。年齢は50歳前後だろうか。
客は数人、入口辺りのカウンターに案内された。
「へぇ、雰囲気出てるなぁ。こういう店もいいな」
横から、ガタンと音がした。
「お前ら! 何しに来やがった!?」
――この声はまさか……。
サンディ・ジョーンズだ。
「あ、サンディ。まだこの街にいたのか」
「白々しいぞ! 誰に聞いてきた!?」
「いや……ホントにたまたま入っただけなんだって。お前に興味なんてないって」
「なんだと!? それも……寂しいな……」
サンディはゆっくりと座り直し、ユーゴ達を横目に見ながらロックグラスを傾けた。
「何を頼んだらいいのかな、初めてだなこういう店」
「なぁ、サンディ。お前はこの店どういう風に使ってるんだ?」
「あぁ? 俺はいい女を連れてきて、こいつをイメージしてカクテルを作ってくれ、って注文することはある。マスターが上手いこと作ってくれるからいい雰囲気になるんだ」
「ほー、粋だな。じゃ、オレらをイメージしてカクテルを作って貰えますか?」
「かしこまりました」
マスターは二つのグラスを二人の前に差し出した。
「カミカゼでございます。カクテル言葉は『お前を救う』です。見たところお二人は冒険者ですね? お互いの信頼関係をイメージしたカクテルです」
カクテルに言葉があるらしい。里では花にも言葉を持たせていた。
グラスに口をつける。
「うん、美味しいな」
「本当だ。僕達をイメージして作ってくれたってのがまたいいね」
ユーゴは警戒しているサンディに声を掛けた。
「で、サンディ、今日は一人?」
「普通に話しかけてくるんだな……あぁ、今日は一人だ。昨日あれだけ両手足を撃たれたのに、目が覚めたら治ってた。一体何したんだよ」
「普通に回復魔法で治しただけだよ」
「お前ら、SSだな?」
「さぁ、どうかな。ランクだけで相手の強さは測れないだろ? サンディも気をつけたほうがいい。あんまり人に絡まないことだな」
「あぁ、そうだな……お前らで懲りたよ……明日この街を出る予定だ。公衆の面前で小便チビッたんだ、ここには居られねぇ」
「そうか、またどこかで会うかもな」
「いや、勘弁してくれよ……お詫びだ、ここは俺が奢る。ゆっくり楽しんでくれ」
そう言ってカウンターに金を置いた。
「さすがはSランク、太っ腹だな。ありがとう」
「うるせぇよSSが。じゃあな」
サンディはポケットに両手を入れ、 店を出ていった。
「話せばいいやつなんだよな、冒険者は。サンディも腕はあるもんな、強いよあいつは」
「そうだね。じゃないとSランクにはなれないよ」
◇◇◇
ホテルに帰りシャワーを浴びて、ルームサービスで軽食を頼みワインを飲んでいる。
少しするとエマが来た。
「今日はごめんね。あれからもずーっと満席だったよ」
「お疲れ様。夢の実現に近づいてる、いい事だ」
「ねぇ、ちょっとギュってしてくれない……?」
「ん? あぁ」
ユーゴはエマを抱き寄せた。
「はぁ……疲れが取れるよ……幸せ」
――かっ……可愛い……。
「ワイン飲む?」
「うん、頂こうかな。忙しすぎて今日はあまり飲んでないからね。その前にシャワー浴びてくるね」
「うん、あんまり無理するなよ?」
エマがシャワーを浴びてる間に、ルームサービスでワインを追加した。
バスローブに身を包んだエマが隣に腰掛けた。
「んじゃ、お疲れ様。乾杯」
「うん、乾杯。あぁ、美味しい……」
ユーゴは考えた挙句、エマに全てを伝える事にした。
「なぁ、エマ。昨日オレに姓を教えてくれただろ?」
「うん、あまり言わないほうが良いって言ってたね」
「エマは知ってるのか分からないけど、ベルフォールは王都の王族の姓なんだよ」
「え……? たまたまじゃないの……?」
「たまたまはない。平民が名乗れるような姓じゃない。エマは王族の血縁者だ」
「両親が王族だった、って事……?」
「あぁ、そうなるな。何か覚えてないか?」
エマはワイングラスに口を付けるのも忘れ、考え込んでいる。
「……私の一番古い記憶は……娼館から始まってるんだ。覚えてないね……」
「そうか、エマが何者でもいいんだ。でも、あまり王族の性を名乗らない方がいいっていうのは、平民が軽々しく名乗っていい姓じゃないからなんだ」
「そっか、分かったよ。姓を名乗る事もそんなに無いしね」
「オレらはこれから王都に行くんだ。そのペンダントがカギになるかもな、ちょっと見せてくれるか?」
エマのペンダントを手に取り観察してみる。紋章のようにも見える。確かにデザインがいい。
「そのペンダントもう一個あるんだよ。それ持っていく? お揃いでつけてくれたら嬉しいな」
「そうなのか? エマの両親のってことかな? じゃ借りていくよ、お揃いだ」
「うん、家に帰ったら私もつけるね!」
ペンダントを着けてみた。
確かにオシャレだ。
「そういえば聞いたことなかったけど、エマは何歳なんだ?」
「私は19歳だよ」
「そうなのか、オレと同い年なんだな。その若さで自分の店が大成功って、凄いことだな」
「へぇ、同い年なんだね! いや……その若さでSSランクって方が凄すぎるよ……」
ユーゴはエマのペンダントを受け取った。
エマはそこまで興味は無さそうだが、王都でベルフォール王に面会出来たら聞いてみよう。
ここに来て毎日エマと寝ている。
今日もほろ酔いで眠りについた。




