エマの夢
次の日の朝。
いい匂いで目を覚ました。
「あ、ユーゴ君。おはよう! もうすぐ朝ご飯できるからね、一緒に食べよ」
昨日はあれからエマの部屋に来て一夜を共にした。トーマスもジェニーと消えていった。
広くはないが、綺麗に整頓された部屋だ。
置いてある小物にもセンスを感じる。
「さぁ、出来たよ。食べよっか」
「うん、わざわざありがとう。いただきます!」
美味い。
家事も出来て料理も美味い、しかも超美人。そして巨乳。出会いは最悪だったが、エマはかなりのハイスペック女子だ。
「ふぅ、美味かった。料理の腕凄いな。オレも料理の勉強中なんだよ」
「お口に合ってよかった。今日のお昼は何が食べたい?」
「んー、オレこの街良く知らないからな。エマのおすすめの店に連れて行ってくれるかな?」
「うん、分かったよ。美味しい店があるんだ」
楽しみだ。
まだ朝だ、外出するには早い。ユーゴはエマに抱きついた。
「もぅ……朝だよ……?」
「別にいいだろ?」
「うん……」
朝から事に及んだ。
◇◇◇
汗だくだ。朝から頑張りすぎたらしい。
エマの部屋で軽くシャワーを浴び、ランチデートに出かけた。
エマと腕を組んで目的の店に向かっている。
微かに聞こえる怒号の様な声援。ここが競馬場か、二人は負けてないかな……と思った瞬間、二人の魔力を感じた。ユーゴは魔力を内に留め、路地裏に身を潜めた。
エミリーとジュリアが、キョロキョロしながら横を通り過ぎていった……ユーゴの魔力に気付いたのだろう。
「どうしたの? いきなり隠れたりして」
「いや、ヤバい奴らがいたんだ……もう大丈夫」
「え、ユーゴ君がヤバいって……どんな人なのよ……怖いんだけど……」
何故か隠れてしまった。
とりあえずランチデートを楽しもう。
入った店は、パスタやピッツァが美味しいと評判の店だそうだ。エマのおすすめを頼んだ。
「へぇ! 美味いな。ここの料理はルナポートの料理に似てる」
「ルナポートか、港町だよね?」
「うん、魚が新鮮で美味かったなぁ。ここもそこに負けないくらい美味い」
「海の魚なんて食べたことないよ。私ここを出たことも無いからね」
「でも、ここは交易都市だから世界中の物が集まって良いところだよな。ルナポートは海にも入れるんだ。海の水は本当に塩っぱかった」
「いいなぁ、冒険者って色んな所に行けるんだもんね」
エマを連れて旅行に行けるような日が来るのだろうか。まだ付き合ってもない、気が早いか。
エマは微笑み、静かにユーゴに語りかける様に話を始めた。
「私ね、夢が出来たんだ」
「夢?」
「うん、今の自分のお店をもっと大っきくして、仕方なく娼館とかで働いてる女の子達の受け皿になるんだ」
「うん、いい夢だ。エマにしかできないかもな」
「こんな夢を持てるのもユーゴ君のお陰。まだ若いうちに、心まで荒んでどん底の私をここまで引き上げてくれた。本当に感謝してる」
「いや、オレは何もしてない。むしろ毎回変なやつを店に連れて来る厄介者だ……」
サンディはもう来ないだろうが、厄介な輩はどこにでも居る。
「全部追い払ってくれてるでしょ? ユーゴ君は私の王子様。王子様に相応しいお姫様になれるように頑張るんだ。いつか振り向いてもらえるように……」
――かっ……可愛いこと言うじゃないか……。
「エマって名前には『多才』とか『博識』って意味もあるだろ? エマは頭もいいし、いろいろ器用だ。その夢、きっと叶うよ。オレもサポートする」
「私の名前、そんな意味があるんだ。両親の事なんて覚えてないけど、いい名前貰ってたんだね……」
「名前ね……オレはユーゴ・グランディールっていうんだ。母方の性を名乗ってる」
「私は『エマ・ベルフォール』だよ。さっき言ったみたいに両親の事も覚えてない。小さい頃からあの娼館で過ごしたんだ。この姓を口にしたのも、いつぶりか覚えてないよ」
――えっ……? ベルフォール!?
仙王から聞いた王家の姓だ。エマは知っているのだろうか、と驚きの表情を隠せなかった。
「ん? どうしたの?」
「あ……いや、何でもない」
仙王が与えた王家の姓など、平民が名乗れる訳がない。エマは王家の血筋だということだ。
「うん……あんまり名乗らない方がいい気がするなぁ……」
「そう? 何で?」
「え!? いや、何でってことないけども……俺だけが知っときたいかな……」
「え? ユーゴ君がそう言うなら、誰にも言わないよ……そもそも名乗ることも無いけどね……両親が残してくれたのは、名前とこのペンダントだけなんだ。デザインが気に入ってずっとつけてるの」
両親が残したペンダント。王家ゆかりの品の可能性がある。
ランチデートは楽しかった。
ゴルドホークでも無くはなかったが、女性とデートなど久しぶりだった。トーマスも良い子がいるから気兼ねなく出かけられる。
「ユーゴ君、今日はありがとう、楽しかった! お店の準備に帰るね」
「あぁ、今日もトーマスと行くかも。頑張ってね」
「本当に? 絶対に来てね!」
――可愛い……絶対行こ。
ユーゴはホテルに帰って、ゆっくりと身体を休めた。