行きつけの店
「よし、いつものホテルにチェックインして、風呂に入ろう。晩飯は道向かいの酒場でいいか?」
「オッケー!」
「アタシ、外の世界は五年ぶりなんだ! 三泊くらいしてもいいかな!?」
「オレは構わない。ここで魔人達の噂聞いて回るつもりだしな」
「うん、じゃあ四日後どこに向うか酒場で相談しよう」
ホテルを三泊予約し、いつも通り武具をエミリーに渡した。ユーゴのトラウマの為だ。
素手でも十分対応できる。
着替えだけを受け取り風呂に入る。旅の垢を落とし、サウナでサッパリ。服のクリーニングサービスを頼んだ。出来上がり次第部屋に届く。
先日のエスニック料理も良かったが、この街に初めて来たときに入ったこの酒場が一番いい。三人のお気に入りの店だ。ホテルの前というのもいい。
トーマスと二人で入る。二人はまだ来てないようだ。軽くツマミを頼み、ビールで乾杯する。
「プハーッ! サウナ後はやっぱりビールだな!」
「うん、外では冷たいビールは飲めないからね。普通はお酒も飲めないんだろうけど。エミリーのおかげだ」
「ほんと、ジュリアが加わってくれて、更にオレたち強くなれたな」
話しているうちに、女性二人が来た。
「いやぁ、サウナやばいな! テントサウナも良いけど、ここのも良かったよ」
「ジュリア、オマタおっぴろげで椅子に座るんだよ。こっちが恥ずかしくなるよ」
「誰が見るんだよ、女しかいないのにさ。とりあえずビール飲もう! あと、ジャンキーなもん食わせてよ! もう国の上品なコース料理には飽き飽きなんだよ!」
コース料理に飽き飽きなのはわかる気がする。三人はジュリアの為にジャンクなおつまみをオーダーした。
ビールが皆に渡り、ジョッキを目線より上に掲げた。
「では改めて、新たにジュリアを加えて新しい旅立ちだ!」
『カンパーイ!』
ここは大衆酒場『冒険野郎』だ。
ユーゴ達のお気に入りの店。ジュリアもすぐに気に入った。高い料理も美味いが、結局は食べ慣れたものが一番美味い。
「四日後の朝に出かけるとして、どこに向う? ジュリアは十年間でどこ回ったの?」
「ウェザブール王国内は全部行ったよ。街道を北西に進んだら王都だ。南西に進んでも町がある」
「王都か。私の故郷だけど全然覚えてないんだよね。ジュリアに助けられてすぐに出たからさ、知り合いもいないし。王都に行ってみる?」
「そうだね、魔人達の噂が一番集まるのは、ここか王都だろうしね」
「じゃ、決まりだな。四日後の朝、王都に向けて出発しよう」
「了解!」
ジュリアは、ジョッキを傾けながら三人に問いかけた。
「このパーティのリーダーは、ユーゴってことで良いんだな?」
「うん、そうだよ」
「え!? そうなの!? オレそんなつもり無いんだけど……」
「え? 僕はユーゴをリーダーとして動いてるけど?」
「んじゃ、頼むよリーダー!」
「えぇ……やめようってリーダーとか決めるの……」
「まぁ、今まで通りってことで行こうよ」
四人になって初めての酒宴は大盛りあがりだ。ユーゴ達三人も酒に強い方だが、ジュリアはそれ以上だ。飲むペースが違う。
「さてエミリー、カジノの時間だよ」
「そうだね、久々にジュリアと大勝負が出来るんだね」
「あぁ、アタシには100万ブールのあぶく銭があるからね」
彼女にとってのあぶくに当たる銭は相当範囲が広いのだろう。
「「行ってきます!」」
「おい、丸三日あるんだ、考えて使えよ!」
「言われるまでもないね!」
――大丈夫か……?
「オレらは行きつけのバーにでも行きますか」
「だね、今日は変なやつが来ないと良いけど……」
ここからさほど遠くない、エマのバーに向う。
途中、呼び込みに声をかけられるが笑顔で無視だ。もう同じ轍は踏まない。
カランコロン……
「いらっしゃいませ! あ、トーマス君とユーゴ君!」
ジェニーがお出迎えだ。
かなり流行っている、良いことだ。が、二人が座る席は無い。
「多いな、今日は帰ろうか……?」
「あ、ユーゴ君! ちょっと待ってくれる? 席もうすぐ空くから」
少し待つと、空いたカウンターの二席に案内された。客にチラチラとユーゴを見ている。隣に耳打ちする者もいる。
少しするとエマが来た。
「また来てくれたね。飲み物は何にする?」
「ウイスキーの水割りにしようかな」
「僕もそれで」
エマが目の前で水割りを作る。
手慣れたものだ、その奥の胸の谷間も堪らない。
「ユーゴ君、もう有名人だよ。Sランク冒険者を軽くあしらったって。そんな人の行きつけならこの店は安心だって、いっぱい人が来てくれるんだ。ユーゴ君のお陰だよ」
「そうか、逆の評判にならなくて良かった……でも、エマとゆっくり飲めないのは残念だな」
「今回はどれくらいここに居るの?」
「四日後に出発する」
「明日ランチに付き合ってくれない?」
「え、いいのか? 特に何も決めてなかったから、オレは大丈夫!」
「じゃ、決まりね! いつものホテル?」
「うん、待ってる」
エマはニッコリ微笑んで接客に戻った。美しい。
「いいなぁユーゴ、僕もジェニーちゃん誘ってみようかな。丸三日あるもんね」
トーマスもジェニーとのデートの約束をした。
その後、男二人で語り合った。こういう夜もたまにはいいものだ。
『バァァァン!』
激しく扉が開いた。ドアの蝶番が外れて傾いている。
――なんだよ今度は……。