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フェンリル

 

 初手、エミリーが苦無を超高速で投げつけ牽制する。練気の糸で戻し二つ一気に投げる。が、フェンリルは全てを見てギリギリで避けている。相手はかなり速い。

 ユーゴは観察しながら、体中の練気を練って龍胆(りんどう)に流し続けている。


「コカトリスより速いね。けど飛ばないかな」


『土遁 影縫い』


 苦無で近くの地面に干渉する。

 だめだ、中距離では高ランクの魔物は縛れない。


 フェンリルは様子見だ、素早く動きこちらを警戒しているが、攻撃をしてくる気配はない。

 龍眼でフェンリルが何をするか、どう動くかは視えるが、ユーゴ自身が未熟なのか、動きが速すぎて攻撃が出来ない。無闇に斬りかかるのは愚策だ。


「おそらく炎系の攻撃をしてくるな。トーマスは守護術を全員に。エミリー、オレが合図したら二人で水遁だ」

「「了解」」


 ユーゴはフェンリルを龍眼で観察する。

 向こうもまだ様子見だ、相当用心深い。


 ユーゴの脳裏にヤバい絵が浮かんだ。


「守護術でも水遁でもない! 避けろ!」


 三人が散ったあと、途轍もない炎の柱が横を(かす)めた。


「やっば……何今の……」

「出来れば一撃で仕留めたい。弱点を観察しながら龍胆を練気でパンパンにする。エミリーはトーマスの補助を頼む」

「了解!」


 春雪も抜いて二刀流だ。

 エミリーがトーマスの後ろで、補助術を掛け直し、継続再生でサポートしている。


 トーマスにはフェンリルのスピードは問題ない。鋭い爪の攻撃を全て捌いている。

 

「エミリー! 上から攻撃してみてくれ!」


 エミリーは空に駆け上がった。


『風遁 嵐塵!』


 上からフェンリルに風の刃が降り注ぐ。

 フェンリルの敵意がエミリーに逸れた。


「ヤバい! エミリー! 逃げろ!」


 炎の柱が風遁を飲み込み、更に威力を増してエミリーを襲う。ユーゴの龍眼のお陰で、エミリーは無事にトーマスの後ろに生還した。

 ユーゴはエミリーが作ってくれたチャンスを逃さない。


『剣技 横薙一閃!』


 多量の練気を纏った特級品と一級品の斬撃を、フェンリルの腹に向けて飛ばした。シュエンがヤマタノオロチに放った技だ。


 放たれた斬撃は、フェンリルの意識の外から目にも止まらぬ速さで飛んでいく。そのまま両断するかと思われたその時。


 フェンリルは斬撃を確認する様に見た後、後ろ脚で地を蹴って飛び跳ね、斬撃を避けた。


 ――何っ!?


 フェンリルは着地すると後ろに飛び退き、距離を取った。ユーゴとエミリーはトーマスの後ろに入り、守りを固める。


「二人ともごめん……なかなか奴の敵意を固定出来ない……」

「いや、SSランクの魔物なんだ。一筋縄にはいかないって」


 ユーゴは春雪を鞘に納めた後エミリーに耳打ちし、紙製の袋を受け取った。


 フェンリルは警戒を強め、体勢を低くして唸り声を上げている。


「トーマス! 守護術掛け直しだ!」


 そう叫んだユーゴはフェンリルに向けて、受け取った紙袋を投げつけた。

 フェンリルがそれを鋭い爪で切り裂くと、白い粉が一面に飛び散った。


『火遁 豪炎!』


 すぐさまエミリーが火遁を放つと、フェンリルの目の前で大爆発を起こした。

 

 勿論こんなものでフェンリルを仕留めたとは思わない。ユーゴには龍眼で目を瞑っていてもフェンリルの場所が分かる。


 目の前は一面の炎。

 右脇に龍胆を構えると、力強く地を蹴って炎に飛び込んだ。


『剣技 (おぼろ)


 地を這う程の低姿勢から逆袈裟斬りを繰り出すと、確かな手応えの後に巨体が地に沈む音がした。


 ゆっくりと炎が晴れる。

 倒れ込んだフェンリルの巨体に頭はない。


「ふぅ……流石に強かったな」

「いきなり小麦粉と火遁って言うからさ、何作るのかと思ったよ。けど、なんで爆発したの?」

 

 エミリーの疑問にトーマスが答える。


「粉塵爆発だね。舞った小麦粉と空気中の酸素が、エミリーの火遁で大爆発したんだよ」

「あぁ、全ての攻撃を目で見て避けてたからな。目眩しには丁度良かっただろ?」

「へぇ、ユーゴ意外と頭良いんだね」

「意外にってのが余計だよ。でも、うどん打とうと思ってたのに……残念だ」


 とは言ったが、うどんの代わりにSSランクが手に入ったと思えば安すぎる。

 

 牙、爪、毛皮を処理する。ここはトーマスとユーゴの仕事だ。

 魔物の処理用にヤンガスから小刀を貰った。切れ味が素晴らしい、処理が捗る。


「私……全然活躍出来なかったなぁ……」


 近くの岩に座り、二人の作業を眺めているエミリーがうつむき加減にそう言った。


「いや、エミリーに強化術を掛けてもらったら明らかに守護術の質が変わったんだ。自分で掛けるより、エミリーに掛けてもらった方が効果が高そうだ」

「へぇ、じゃあ強敵と戦う時はエミリーに頼むのが良いな」

「そうなんだ。帰りの迅速は私が皆に掛けてみるね!」

 

 処理を終え、エミリーが火葬すると、小さい魔晶石が5個出てきた。


「フェンリルの魔晶石の方が上質だ、今付け替えるよ。残りの二つは予備で持っておきたいな」

「ほほー! コカトリスの三つ売ろっか!」

「だな、これ相当報酬いいぞ」

「じゃあ、帰って乾杯しよう」


 全てをエミリーに預け、レトルコメルスへ向けて駆ける。

 エミリーに迅速を掛けて貰うと、明らかに速度が上がった。治療術もエミリーが断トツで効果が高い。強化術も精度が高いのだろう。


 

 

 ユーゴ達がフェンリル討伐に向かったのはギルド内に知れ渡っている。

 袋に一杯の毛皮と爪、牙。レトルコメルスについてから、わざと袋に入れ替えての凱旋だ。


「おい……マジかよ……本当に倒して来やがった……」

「にしても、早すぎねーか……?」


 広いギルド内の喧騒が止み、冒険者達の視線が三人に集まる。最初は馬鹿にされたが、面目は保った。

 受付カウンターの男は、目を丸くして三人とはみ出た毛皮を交互に見ている。


「おいおい……本当に倒して来やがった……どうせ無理だと思って言わなかったが、コイツの報酬はここじゃねぇ。領主様んとこに行ってくれ」

「え? そうなのか。行ったら対応してくれるんですか?」

「あぁ、その毛皮見たらすぐに通してくれるよ」


 さすがはSSランク、大事になってきた。

 

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