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一年ぶりの依頼


 次の日の朝、高級ホテルの高級朝食を食べて出発だ。美味しいご飯とお金の当てが出来て、エミリーの機嫌も少しは戻った。


 

 目指すは一年ぶりのレトルコメルス。

 今の三人の脚では三日もかからないだろう。明後日の昼前後には着く予定だ。


 朝からひたすら練気の高速移動で走り続ける。いつも木々を避けながら駆け回っていた山道ではない。真っ直ぐに舗装された街道を、冒険者や商人達に二度見されながら全力で駆ける。

 

 懐かしい馬の魔物、スレイプニルが歩いている。


「今晩は馬肉にするか!」

「そうしよう! 生レバー!」


 練気銃で眉間を撃ち抜いた。

 練気銃は空を駆ける練習でたまたま出来た術だ。ユーゴのオリジナルだが下位の魔物には使い勝手がいい。


 一日走って、赤く染まり始めた空へ駆け上がり、空中から野営に適した場所を探す。


「お、いい河原発見」

 

 トーマスに夕食の準備、エミリーに就寝用のテントの設営を頼み、一年ぶりのテントサウナに火を入れる。トレントを見つける手間も惜しい、薪は里で調達してきた。


「サウナが温まったぞ! 水着に着替えて入ろう!」

「もう着替えてるよ!」


 エミリーはテントの設営を水着でしていたらしい。確かに暑いし効率的だ。


「おい、エミリー……」

「ん、何?」

「お前……胸大きくなったんじゃないか……?」

「あぁ、そうなんだよ。ロックリザードの革鎧が日に日にキツくなってきたから、コカトリスの鎧になって良かったよ。ヤンさんがエロい目で採寸してたけどね」

 

 ――何てことだ……たった一年でここまで成長するとは。

 

 そう言えばヤンガスは、エミリーの様な女が好みだと言っていた。


「やっと私の魅力に気付いたようだね! 二人共、鼻の下伸ばして見るがいいよ!」

「いや、そこまででは……」

「なんでだよ!」


 グラマーな女性が好みのユーゴとトーマスが、エミリーに欲情することは無い。だからこそ男女三人旅が成立しているのだが。

 

「僕ら偶然にも同い年だもんね。同じように成長していくんだね。エミリーがミオンさんを超える日が来るよ、多分……。コカトリスの革は修理用に貰ってるから、サイズの変更は任せてよ」

「ふふっ、背も少し伸びたからね。お母さんはおっぱい大きかったしね!」


 威張って張った胸が膨らみを帯びている。

 長寿命族は人族よりも成長速度が遅いのかもな。エミリーは少女期を脱したのかもしれない。

 

 一年ぶりのサウナと馬肉料理を楽しみ、トーマスと交代で見張りをして一夜を過ごした。



 ◇◇◇ 

 

 

 早朝に出発してもう一泊野営を挟み、予定通り昼前には到着した。

 


 交易都市レトルコメルス。

 一年ぶりだが、ユーゴの苦い思い出が蘇る。


「疲れもなくいい感じだ。旅の進度が全然違うな」

「まずは予定通り、ギルドでSランク試験を受けようか」

「私にお金を! カジノの軍資金を!」


 そういえばゴルドホークを出てから冒険者ギルドに入るのは初めてだ。クロスした剣に、牙を剥いた獅子。冒険者ギルドのシンボルマークを目指す。

 建物の規模がまず違う。大きな入口をくぐると、大勢の冒険者達の喧騒が耳を突いた。

 ゴルドホークと比べて三倍程の長さはあるだろうか、受付カウンター横の巨大な掲示板には多数の依頼書が貼ってある。


「多いな……これは悩むなぁ」

「あ、ロックリザード三体討伐ってのがあるよ?」

「簡単過ぎるのもなぁ。張り合いがないなぁ」

「お? SSランクだって。そんなのあるんだね。ゴルドホークでは見なかったな」


 なんと、Sランクの上があるらしい。


「その称号、是非欲しいな」

「内容はどんな感じ?」

「フェンリルだって。神話の魔物だよこれ」

「達成条件は?」

「フェンリルの牙、爪、毛皮だね。人数は……書いてないな。カウンターで聞かないとだね」

「三人で討伐するような魔物じゃないのかもな……」

「いいんじゃない? 私はどこでもついていくよ!」

「今から腹ごしらえして、往復と討伐しても夜には戻れるね」

「じゃ、それにするか」


 受付カウンターには、初老の男三人が事務仕事に勤しんでいる。一番近かった、白髪をオールバックに流したダンディな男に声を掛け、依頼書を手渡した。


「おい……あんたら見たところ若いが、本当にフェンリルでいいのか? コイツぁやばいぞ?」


 受付の男は、鼻にちょこんと乗った丸メガネを外しながらそう言った。

 

「ヤバいとは?」

「東北の森に長いこと居座ってるんだが、討伐に行った奴が全員帰って来ねぇんだ。もう十年以上そのままの依頼だよ」

「だからこそのSSランクなんだろうな。アドバイスはありますか?」

「俺みたいな受付が言えることなんてねぇよ……元は冒険者だったとはいえ、昔の事だ。それでもフェンリルなんざ御免だよ」


 受付の男は元冒険者らしい。よく見ると、左手の薬指と小指が無い。怪我でドロップアウトしたんだろう。


「じゃあ、SSのランクアップ試験もお願いします」

「あぁ、試験なら全員Sランク以下で五人以下のパーティでの討伐だな。まさか三人で行くのか……?」

「まぁ、三人しか居ないんでね」

「おいおい、Aランクじゃねぇか……自殺幇助してる様で気が乗らねぇな……」

 

 冒険者カードを手渡し、無事にランクアップ試験の受付を終えた。 

 

 

 軽く腹ごしらえして、依頼の場所へは走って向かう。少し遠いが三人の脚では大したことはない。


「えぇ……とんでもない魔力がダダ漏れなんだけど……」

「どこにいるかなんて目をつぶってても分かるね……」

「気を引き締めるか、こんな獣に手こずるようじゃこの先が思いやられる!」


 前方に巨大な狼の魔物を発見した。鼻と口から禍々しい魔力が漏れ出ているのが目に見える。


「よし、強化術はいいか? 武器と防具にも練気は纏ったな?」

「大丈夫」

「中距離攻撃と治療はまかせてよ」


 ヤマタノオロチの盾を構えるトーマスを先頭に、戦闘態勢を整えた。


「行くぞぉー!!」


 SSランクの魔物との戦闘が始まった。

 

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