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巨乳と里の絹産業


 帰りは空中を駆けて帰ってきた。律儀に陸で大蛇達を相手にする必要もない。かなりの距離を駆けたが、息が切れる様な事は無かった。

 

 戦利品を持ってヤンガスの鍛冶場に向かう。


「おぅ、やったか! どれどれ、見せてみろ」


 コカトリスの嘴や爪、体皮を渡した。道中のヘビやトカゲの体皮も一緒に。


「ほぅ、これがコカトリスとやらの体皮か? こりゃ上質な皮だな。龍の鱗がかなり丈夫そうだ。嘴と爪か、これの使い道も無くはねぇが……他の蛇や蜥蜴の皮もまぁまぁの質だな」


 規則的に並んだ深緑色の龍鱗が美しく、ヤンガスが動かす度にキラリと光を反射する。

 

「全身ドラゴンの体ならもっと強いだろうに……何故ニワトリの頭と脚を生やした進化を遂げたんだろうか」


 ユーゴが疑問を投げかける。

 

「いや、鶏からこう進化したんじゃない?」


 言われてユーゴは合点がいった。いや、普通に考えればそうに違いない。が、考えても分かる事ではない。

 

 コカトリスの三つを含む魔晶石もカウンターに並べる。


「また沢山持って帰ってきたな! おぉ? この三つは別格だな。コカトリスから出てきたのか?」


 ヤンガスはコカトリスの魔晶石を、目の前に翳し観察しながら問いかけた。

 

「はい、ちょうど三つ出てきました」

「こりゃいい防具が出来るぞ。作っといてやる。お代は他の素材と魔晶石で十分だ。俺がもらい過ぎなぐれぇだが、買い取ろうか?」

「いやいや! 私たち刀まで貰ってるんだもん。ヤンさんが取っといてよ!」

「そうですよ親方。防具まで作って頂くんです。逆にこちらが支払わないと」

「そうかぁ? んじゃ遠慮なく貰うぜ」

「ヤンさん、いつもありがとうございます」

「何言ってんだ! 他の皮で防具作って売ったら俺の懐が潤うんだからよ!」


 数日後、三人の装備はパワーアップする。 


「そういえば、鎧の下に着るものも見てみないか? 寒くなってきたしな」

「おぅ、それならメイリン区の呉服屋街に行ってみろ。馴染みの店に連絡しとくわ」

「メイリン区の案内なら私にまかせてよ!」

「じゃ、明日の午後に行ってみるか」


 エミリーが呉服屋の場所を聞き、各自それぞれの屋敷に帰った。


 

 ◇◇◇

 

 

 次の日の朝。

 冬の寒さで固まった身体を入念に解し、広い庭の中央辺りで里親と木刀を持って向い合い、組太刀稽古に勤しむ。木がぶつかり合う乾いた音が響き渡っている。


「組太刀稽古は、相手との間合いや駆け引きを体得するのに良い。咄嗟に出る程に反復する様に」

「はい!」


 里親とユーゴの眼前に漂う白い息には、明らかな差があった。

 里親は細く息を吐き、組太刀程度では息を乱す事は無い。一方ユーゴの眼前には、ハァハァと白い吐息が漂い、時折目の前の里親の顔を遮る。息遣い一つ見てもここまでの差が出るのかと、自分の未熟さを感じた。


「良し、今日はここまで」

「ありがとうございました!」



 午後は三人で昼食を食べる約束をしている。

 そのままの足でメイリン区に向かい、二人と合流した。エミリーおすすめの店に入り、席に着く。


「蕎麦屋か、オレ初めてだな」

「私は屋敷から近いからね、ここはよく来るよ。おすすめは天麩羅とざる蕎麦のセットだよ!」

「じゃあ、僕もそれにしよう」

「オレも」


 テンプラはたまに食べるが、初めての蕎麦をつゆにつけて、ズズッと啜る。


「これは美味いな。蕎麦のいい香りが鼻から抜ける」

「ほんと、テンプラもサクサクで美味しい」

「でしょ? 私はここの蕎麦が一番好きなんだ!」

「いやぁ、ここに来て半年くらいか、まだ食で感動するとはな……」


 つゆに暖かい蕎麦湯を入れて啜る。食後の暖かいお茶が、冷えた身体を温めた。

 大満足のお腹を摩りながら店を後にする。次は服だ。

 

 

 メイリン区の呉服屋街。

 診療所や薬屋に隣接した区画だ。その内のヤンガスから紹介された店に入る。


「こんにちは。ヤンガス・リーさんから聞いて来たのですが」

「あら、こんにちは。ヤンから聞いてるよ。シュエンの息子なんだろう?」

「はい、ユーゴです」

「トーマスです」

「エミリーって言います!」

 

 シュエンとヤンガスと年の頃は同じくらいか、人族で言うところの三十歳前くらいの女性だ。

 超美人で、その上超巨乳だ。着物を着崩して谷間が露わになってる。


「父とは親交があったんですか?」

「私はミオン、この店の主だよ。シュエンとヤンは幼馴染なんだ、歳もそんなに変わらないしね。よく山に行って魔物を狩ってたよ」

「そうなんですね、てことは治療術師なんですか?」

 

「……てか、ユーゴ。ミオンさんのどこ見て喋ってんのさ。ホントおっぱい好きだよねあんたは」


 エミリーの冷たい視線は感じていた。

 しかしユーゴは、目線をミオンの胸元から外す事が出来なかった。

 

「言うなよ! 見ちゃうよ男なら!」

「フフフッ。言わなくても気づいてるよ。見られる方はね」


 ユーゴの顔は紅潮し、耳が熱を帯びている。目線を下に落とし、頭を下げた。


「なんか、すみません……」

「僕も、すみません……」


 ――トーマスも見てたのか……。


「こんな格好してるんだ、見るなってのが難しいよ……こっちこそごめんよ。着物の着方を色々試しててね。色々な着方があっていいと思うんだ」


 ――理解あるなミオンさん、心置きなく拝める。


 そんな事を考えるユーゴを他所に、ミオンは話を続けた。 


「そう、私は治療術師だ。メイファさんにも世話になってる。あそこの屋敷の着物は全部うちのだよ」

「じゃ、私がいつも着てるのもそうなんだ! 私も胸はだけて着てみようかな!」

「うん、見てみたいなそれも」

「なんで棒読みなのさ! 私もあと数年したらミオンさんみたいになるんだからね!」

 

「フフッ。メイファさんとこに居るのかい? いい生地だろ? で、何かお探しかい?」

「あ、はい。こういうの探してるんです」


 レトルコメルスで買ったシルクの服をミオンに手渡した。


「これは大陸の絹だね? これよりも丈夫なやつが欲しいって事ならあるよ」


 そう言ってミオンは、奥からシルクの生地を持ってきた。


「凄いな、肌触りも伸縮性も段違いだ」

「速乾性も透湿性も大陸の絹よりは高いだろうね。その上、圧倒的に丈夫だよ。夏は涼しく冬は温かいのは当たり前、洗えば汚れも臭いもすぐ落ちる。鎧の下の服としてはこれ以上無いかもね。ほら、私も着物の下に着ている」


 と言ってミオンは、胸あたりの着物をめくって見せた。ユーゴとトーマスは鼻の下を伸ばし、胸元を覗き込んだ。

 エミリーが睨んでるのが分かる。


「この生地も蜘蛛の糸が練り込まれてるんですか?」

「そうだね、まずこの絹は『大和大蚕(やまとおおかいこ)』の繭から出来ている。これは大陸の頃の龍族の国からの産業だった。それをこの島に持ってきて今に伝わっている」

「てことは千年どころじゃない歴史があるんですね」

「南の山にいる牛鬼は知ってるかい?」

「はい、この間何体か討伐しました」

「牛鬼は糸を吐いて敵を捕獲するんだけど、その糸がこの絹に最適だったんだ」


 ギュウキはAランク相当の魔物だ。その糸には何度も触れた事があるが、確かに細く強い糸だった。

 

「この生地で服を作るかい? 二枚もあれば五年は持つと思うよ」

「じゃ、三人分を二枚づつお願いします!」


「あとは、デニム生地ってありますか?」

「君らが履いてるやつだね? あるよ、ここは綿の加工もしてるからね。これにも牛鬼の糸は大活躍だ。相当丈夫で伸縮性抜群だよ」

「ピッタリサイズの黒いデニムパンツお願いします!」

「僕は濃い灰色がいいです!」

「じゃ、私は黒いショートパンツで!」

「じゃあ、採寸しようか。二本づつで良いかい? うちは注文もらってから作るんだ」


 そう言ってミオンは、ユーゴの前にかがみ込み採寸を始めた。腕を動かす度に胸の谷間が更に際どさを増し、思わずユーゴは股間を抑えた。


「手、避けてくれるかい?」

「あっ……いや、ちょっと待ってくださいね……」


 エミリーの冷たい視線の後ろで、トーマスがニヤニヤ笑っている。

 が、その後のトーマスも同じ状況になった事は言うまでもない。


「あ、私冬は寒いからそろそろズボンにしようかと思ってるんだけど、冬にいいの何かありますか?」

「君のショートパンツの下に履くんだね? いいのがあるよ。牛鬼の糸で編んだ大陸で言うストッキングだ。牛鬼の糸は透明だからね、冬は温かいし、夏でも涼しい。そして防御力もある。丈夫とはいえ消耗品だ、十本くらい用意しておこうか」

「よろしくお願いします!」

 

 ミオンの胸の谷間をもう一度目に焼き付け、呉服屋を後にした。

 

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