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Sランク超えの魔物


「これが、この世界と三人の英雄の話だ」


 話が終わり、ユーゴは手を堅く握っていた事に気が付いた。開いた手の平には汗が滲んでいた。


「私の父は、クズ野郎の上に変な奴なんだね……」

「まぁ、そうだな……ただ、強かった。今はもっと強いんだろうな。私とほぼ年齢は変わらん」


「里長の奥様は?」

「リンファはここに移住して百年後くらいかの、病気で亡くなった。メイリンと同じ病気だった。妻も間違いなくこの里の功労者だ」

「そうでしたか……その病気は今は?」

「今はもう治療法を確立できた。姉さんの残した記録と母さんの協力でな。母さんを救えなかったのが唯一の心残りだ……私より下の子は母親が違うんだ」

「なるほど……」


 多くの犠牲の上にこの里の平和がある。

 それは医術も同じだ、多くの症例の上で治療法が確立される。救えなかった命の上で皆生きている。

 


「……で、何の話だったかの?」

「ミモロ山の魔物の話でしたね」

「あぁ、そうであった。北のミモロ山を越えるとミワ湖という湖がある。そこには鶏と龍を合わせたような魔物がおる。仙族は『コカトリス』だろうと言うておった」

「この島には色々な生き物を合わせたような魔物が多いですよね……」

「確かに、ヌエやギュウキもそうだの……ミワ湖の魔物は特に被害が無い故に放っておったが、行くなら止めはせぬ。が、強いぞあれは。毒を持つゆえ気をつけろ」


 間違いなくSランクは超えてるだろう。

 毒は厄介だが、エミリーは解毒の術も習得している。


「みんな、どうする?」

「行こうよ! 毒は私に任せてくれたらいいしさ!」

「うん、自分の力を試したい。行こうよ」


 ユーゴも自分の力を試したい。

 三人は目を合わせ頷いた。


「里長、行ってきます!」

「うむ、斬ってこい」

「体皮が使えるか分からねぇが、持って帰って来い。俺が見てやる」


「はい!」

 


 ◇◇◇

 


 昼食を済ませて暫しの休憩の後、修練場から北へ移動した。

 錬気の高速移動で直ぐに到着、冷えきった身体を温めるにはいい距離だった。木々を縫うように傾らかな山道を進む。道中はヘビやトカゲの魔物が多い。かなり大きい大蛇が三人の前に立ちはだかった。


「動きが結構速いな」

「ま、速くても燃やしてしまえば一緒だよ!」


『火遁 紅蓮(ぐれん)!』


 エミリーの両手から花の様に咲く無数の炎が大蛇に襲いかかる。逃げ道を失った大蛇に為す術なく、大きく燃え上がり消炭になった。

 しかし……。

 

「お前には学習能力がねーのか!!」


 山の木々に炎が燃え移った。


『水遁 大津波!』


 二人が直ぐに消火活動。

 

「ごめんなさい……」

「風遁で刻もうね……」


 大蛇や大蜥蜴を遁術や剣術で倒して進む。練気術が無ければ斬れなかっただろう。

 しかし、やはりユーゴには斬るべき弱点が視える。これが能力だと言われなければ気付く事はなかった。

 魔石や魔晶石を回収しながら進む。体皮も硬そうだ、全てをエミリーの空間魔法に収納した。


 

 山を越えると湖が見えた。あれがミワ湖だろう。


「ニワトリさん、いないね」

「とりあえず湖を一周してみるか」


 湖の外周をぐるりと周る。

 

 ――ん? なんかモヤが見える……? そういえば、変な匂いも……。


「おい! 息を止めろ!」


 手先に少し痺れがある。これは神経毒だ。

 その場から離れ息を整える。


『治療術 解毒(げどく)!』


 エミリーの治療術で痺れが緩和した。


「毒霧の類だね、気付かずに歩いてたらヤバかったかもね……」

「二人にはモヤのようなもの見えたか?」

「いや、見えなかったけど?」

「じゃあ、龍眼は毒霧なんかも可視化されるみたいだ」

「ほほー! 良い能力だねぇ!」

「こういう事もあるんだな。常に観察しとかないと。とりあえず近くにはいるな」


 辺りを観察する。

 見えはしないが感じる。あそこだ。


「あの岩裏の茂みに居るな」


 春雪を抜き、岩に向け剣風を放った。


「コォーッ!!」


 鳴き声をあげ、何かが岩陰から飛び出してきた。ドラゴンの胴体と羽に、鶏の頭と脚が出ている。意外とかっこいいフォルムだ。


「毒が厄介だな。毒牙や毒爪とかだと思ったが、毒霧を吐くとはな……」

「遠距離攻撃で様子見よっか」

「じゃ、僕も攻撃に回るかな」


 三人で斬撃を放って攻撃だ。

 トーマスの斬撃を避けた所に、二人で斬撃を放った。

 

「速いな。空中で方向転換するぞ」

「よし、風遁の一斉射撃だ」


『風遁 多段鎌鼬!!!』


 鎌鼬の一斉攻撃。

 無数の風の刃が一頭の魔物に飛んでいく。が、素早い。

 

「おいおい、一個も当たらないとはな……」

「だね、素早さはニワトリさんだ」

「三方向から火遁で行こうか、上に逃げたら同時に風遁だ」

「そうしよう」


 コカトリスを三方向から包囲する。


「行くぞー!」

『火遁 業火殺(ごうかさつ)!』


 炎が晴れると姿はない。

 上を見ると、ドラゴンの羽で飛んでいた。


『風遁 嵐塵!!!』


 やはり速い、全部避けられた。 


「毒霧浴びる覚悟で、斬りに行くしかないかもね」

「だね、解毒はまかせてよ」


「よし、トーマスは盾を頼む! オレは観察してみる。なるべく息は止めよう」

「分かったよ」

「エミリーはヤツの横から、剣風や遁術仕掛けてくれ!」

「はいよっ!」


 正面からは何も分からない。エミリーの風遁で横を向いた。

 視るまでもなく、弱点はニワトリ部分だ。

 ただ、速い。


「よし、一気に距離を詰めて斬る!」


 ……その時、悪寒が走った。


『トーマス!! 皆に守護術を!!』


「分かった!」

『守護術 堅牢・陣!』


『コケェーッッ!!』


 コカトリスは羽を細かく振って、とんでもない威力の風魔法を放ってきた。


 降り注ぐ無数の風刃を、トーマスの守護術が弾き返す。守り切れずに少し傷を負ったが、致命傷はない。


「皆、大丈夫か!?」

「何かが視えたね? 良かった、ユーゴのお陰で間に合ったよ」

「怪我は治せばいい!」


 コカトリスは地上に降りてきた。

 

「よし、トーマス、オレに個別で守護術頼む」

「了解」


「コケェーッ!!」


 トーマスの守護術が、コカトリスの風魔法を防いだ。


『土遁 影縛り!』


 地面からの干渉で、エミリーがコカトリスの動きを封じた。


「エミリー! ナイス!」


『剣技 雷鳴斬り(らいめいぎり)

 

 ユーゴは錬気の高速移動で一気に距離を詰め、コカトリスの首を刎ねた。

 ニワトリの首が地に落ち、ドラゴンの胴体が音を立てて倒れ込む。


「ふぅ、何とか勝った……ちょっと龍眼が進化した感じがあるな。けど、こんなに傷だらけになってたら先が思いやられるな……」

「怪我したら治せばいいよ。腕が飛んでもくっつけられる様になるからさ!」

「腕が飛ぶとしたら僕だろうね。よろしく頼むよ」


 エミリーに解毒と治療を頼み、コカトリスの胴体の体皮と、一応トサカやクチバシ、爪などを持ち帰る。

 火遁で火葬すると、小さめの魔晶石が三つ転がった。今つけている魔晶石よりも見るからに上質だ。


「三つ出たー!」

「これは綺麗だ。ナグモ山の魔物とはランクが違う証拠だね」

「オレ等もう文句なしのSランクだな! よし、帰ろうか!」


 三人は強くなってる。それは間違いない。

 

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