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三人の英雄 5


 龍族の精鋭部隊はおよそ3000人。

 こぞって志願した者達の中から、四人が選んだ精鋭だ。当然皆が練気術による高速移動が出来る。前回は六日で着いたが、人数が多いぶん八日かかった。これでも早い。精鋭部隊たる所以だ。


 二度目の仙神国オーベルフォール。

 兄妹四人のみ城に招かれた。さすがに3000人の大所帯だ、全員は入れない。


「おや、美しい女性がいるね。お二人共、黒髪がとても美しい」


 ――なんだこいつは……。

 

 メイファの顔が嫌悪感に染まる。メイリンは笑顔で応えているが、目は笑っていない。

 声を掛けてきた男は、長めの金髪を右側に流し、キリッと整えた眉の下の目は人懐っこく垂れている。男前なのだろうが、メイファは生理的に受け付けない。


「おっと失礼、名乗るのが先だったね。ボクは『アレクサンド・ノルマンディ』だ。仙王の孫にあたる」


 フドウがアレクサンドに近付き、右手を差し出した。

 

「これはご丁寧に。フドウ・フェイロック、龍王の長男だ」

「いやいや、ボクはこちらのレディ達に挨拶してるんだ。キミらは後にしてくれよ」


 軟派男アレクサンドは、フドウとは目も合わせずにそう言ってのけた。 

 フドウは笑っているが、こめかみにはくっきりと癇癪筋が浮いている。


「メイリン・フェイロックです」

「メイファ・フェイロック……」

「メイリンとメイファか、ボクの事は親しみを込めて、アレクと呼んでくれよ」


 メイリンは笑顔で無視だ。

 とりあえずこの男は放っておいて、案内された広い部屋に入る。


「遠路遥々ご苦労だったな。君らの移動速度には驚かされる」


 仙王ラファエロから労いの言葉を受けると、席に案内された。


「さて、皆席に着いたな。こちらの四名は、龍王の子息と息女だ。精鋭を引き連れて来てくれた」

「龍王の長男、フドウ・フェイロック以下3000名です。よろしくお願いします」

「君らには前線で戦ってもらう事になる。共闘するのは……おい、挨拶を」


 先程の軟派男が、髪を掻きあげながら立ち上がった。

 

「ボクの名前は、アレクサ……」

「仙王殿! 彼には先程()()()挨拶していただいたので結構ですよ!」


 フドウは立ち上がり、笑顔で仙王にそう言った。


「そうだったか。ではアレクサンド、座れ」


 アレクサンドは赤くなった顔を震わせながら、大人しく座った。


「本題に入ろう。今我々は魔族との交戦に向けて準備をしている。奴等は強い。いや、魔王の存在が我々を苦しめている。魔王の討伐が龍族との共闘の目的だ」

「オレ達は先の戦で鬼族の半数を討ち取り、鬼王イバラキの腕を斬りました。魔王もこの刀の錆にしてやります」

「いやいや、あんな猪王の腕ごときで大層だね。魔王はボクが仕留めるから、横で眺めておくがいいよ」

「お前ら……前線でケンカするなよ……」


 仙王の懸念も頷ける。

 最初に顔を合わせて以来、ずっとこの調子だ。


「では、長女のルイーズが説明する」


 この間、後に立っていた男女のうちの一人だ。


「ご紹介に与りました、ルイーズ・ノルマンディです。早速説明に移ります」


「まず、今までの戦況から見ますと、数では仙族が勝っておりますが魔族は個々の能力が高い。そして、魔王アスタロスが前線に出てきてはこちらに大きな被害をもたらしました。主戦場は、西のパラメオント山脈の北端と、北東のモーンブロン山の間の平地です。こちらからは遠いですが、ここを突破されると厄介です。近くに砦を造り魔族を牽制しています」


 龍族の参戦で一石を投じてやる。四人の目に光が灯る。


「客人は、前線の砦に移動してもらえるか? 我々も移動する。その後詳しい作戦を伝えよう」

「分かりました。すぐに移動します」



 少し龍族の旅の疲れを癒してから移動を開始する事になった。 

 部屋を出たすぐ先で因縁の二人が目を合わせた。


「よう、()()()()殿。よろしく頼むよ」

「アレクサンドさんと呼べよ。こちらこそよろしく」


 二人は引きつった笑顔で、固い固い握手を交わしていた。

 


 ◆◆◆

 


 後日、軟派男アレクサンドの案内で前線の砦に移動することになった。


「さて、レディはボクが案内するよ。付いて来てくれ」

「いや、アレクサ殿、龍族はオレが大将だ。オレの後に付いて行かせる」

「ほぉ、キミごときがボクに付いて来れると?」

「いやいや、遅すぎて追い抜いてしまうかもしれない、先に謝っておこう」


 今日も二人の間には火花が散っている。

 アレクサンドが宙に浮いた。仙族の戦士が扱う『浮遊術』だ。


「ボクは飛んでいくけど、君は勝手に走って付いて来てくれよ」


 そう言って飛んでいった。

 その後をフドウが練気術で空中を駆けて行き、アレクサンドを追い抜いた。聞こえないが、言い争いをしているのだろう。


「おいおい、子供二人が大将ってやばいっしょ。大丈夫かあれ」

「そうね、同感です。いざとなれば片方の軟派男は私が上手く扱いますよ」


 ――姉さんは上手く掌で転がすだろうな……私には無理だ。


「うちのリーダーがすみません……私共が責任を持ってご案内致します。荷物は私共の空間魔法にてお運び致しますので、それぞれに預けてください」

「いえいえ、こちらこそすみません……よろしくお願いします」


 仙族の戦士も移動が早い、皆で後を付いて行った。途中で喧嘩疲れした大将二人に追いついた。


 

 途中の施設で宿泊し、五日後の夕刻に全員が砦に辿り着いた。


「長旅お疲れ様でした。仙王の長男『ライアン・ノルマンディ』です。今晩はとりあえずゆっくりしてください。ところで、アレクサンドがご迷惑をお掛けしませんでしたか……?」

「何を言われる父上。迷惑を掛けられたのはボクの方だよ」

「いえいえ、ライアン殿。所詮は子供の悪ふざけ、気にはしてませんよ」


 五日経っても二人の舌戦は収まらない。

 ご迷惑をおかけしますと、ライアンとリンドウが互いに頭を下げている。


 長年に渡る魔族との戦の為に作られた砦の規模は、一国の城のようだ。

 龍族隊も高待遇を受けている。夜はゆっくり休んだ。

 

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