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勝ち取った平和


 仙族と人族の軍が、魔鬼連合軍との大戦に勝利したという報は、新聞等で王国中に知れ渡った。王達の計らいで龍族の事は伏せて報じられている。リーベン島の人々は黒髪の人族のままでいい。


 王国軍達が勝ち取った平和に国中が湧いている。


 仙王はその名を捨て『仙神国王』となり、仙族と人族の壁を取り払い、共存していくことを宣言した。まぁ、略して仙王なのだが。

 ジュリアが先頭に立って進めていた、仙族による人族差別の撤廃を公に宣言した形だ。まだ完全に無くなった訳では無いが、今後の交流により関係が改善されていくだろう。



 あの大戦から一月あまり、ユーゴ達は龍族の幹部達と共にウェザブール王都にいる。二つの城の間の大ホールでの立食パーティーに招待されている。


 仙王改め、仙神国王がグラスを片手に挨拶をする。


「およそ一か月前、我々は魔鬼連合軍を退けた。ほぼ殲滅させた故、再起は無いだろう。魔都に不戦の契を交わしても良いと考えている。向こうはそれを飲むほか無いだろう。二度と戦の無い平和な世が訪れた。しかし、これは言うまでもなく、散っていった同胞達の上に成り立った平和である。彼等に感謝し、杯を捧げたいと思う」


 皆が静かにグラスを掲げ、口をつける。

 酒宴はしめやかに開会した。


 中央にある豪勢な料理を皿に盛り、暫し歓談する。


 

 会も終盤。

 ユーゴはホールの隅の方で座っている仙王に近づき声を掛けた。

 

「仙王様、お話よろしいですか?」

「ユーゴか、どうした? まぁ座れ」

「失礼します」


 言われてサイドテーブルを挟み隣に座る。

 仙王がメイドを呼び、赤ワインを持ってくるように頼んだ。

 

「今や四王は里長と仙王様だけになりましたね」

「もう名乗る事を辞めたがな、ラファエロで良い。龍王の様に早くから名を捨てて居ればよかった。我が定めた法により、幾つもの悲しみが生まれた。アレクサンドが人族の女との子を作っては殺しを繰り返したのは我のせいでもある」


 仙王はそう言って少し俯いた。


「信じられんかもしれぬが、アレクサンドは元々あのような悪党では無かった。龍族との共闘の際には、三兄妹の死を悔やみ涙を流した。龍族が移住をする時も、アレクサンドは彼らを尊重し自ら移住を手伝った」


「えぇ、メイファさんから聞いています。が、涙を流して悔やんだとまでは……」


「女好きは昔からの事だが、アレクサンドがウェサブール王国にふらっと遊びに行くのは日常だった。昔は女遊びはしても殺しをする様な男ではなかったのだ。思えば、奴が一番人族との調和を願っていたのかも知れんな……奴に人族差別の心は無かった」


 流石に数百年も子が出来ては一族を焼き殺すような事をしていたら、もっと早く処分されていいはずだ。

 アレクサンドがそうなってしまったのはここ数十年の話か。もしくは徐々に。


「『魅了眼』と言ったか、あのような眼の力は持っていなかった。眼の力とはすなわち願望だとレイ殿は言っていた。女好きのアレクサンドの願望は他を魅了することだったのだろうな」

 

 千年前の大戦のアレクサンドの話と、最近悪さをして回っているアレクサンドとの乖離(かいり)が見られるのはずっと気になっていた。

 そしてアレクサンドと関わった者たちも人を傷つけ殺しを始める。

 

 マモンもその一人だ。

 モレクの話では、マモンが徐々に変わり始めたのはアレクサンドと出会ってからだ。


「あの……オレの推測でしかありませんが」

「聞こうか」


「アレクサンドはナルシストですよね?」

「あぁ、そうだな。暇さえあれば鏡を見ていたな」

「先日の戦で奴の『死の誘惑(テンプテーション)』は味方に斬り掛からせる程に凶悪なものでした。誰しも奥底に悪の心は有るでしょう、魅了眼が鏡越しに自分自身を蝕んだ可能性はないでしょうか」


「……なるほど。それで徐々に人々に手をかける様になった、更には一族を焼き殺すほどにまで」

「はい、そしてアレクサンドに関わる者達も、奴と眼を合わせるうちに少しづつ蝕まれていった。こう考えれば魔力障害にならなかったマモンが、徐々に変わり始めたのにも説明がつくんです」


「ふむ……まぁ、確かめる事は叶わんがな」

「そうですね……この『始祖四王』の物語、オレ大好きで小さい頃から読み聞かせて貰ってたんです」


 ユーゴは空間にしまっていた始祖四王の本をサイドテーブルに置いた。


「かなり昔に出版された本なのですが、作中に人族と始祖四種族の対比が描かれてるんです。肌や髪、眼の色が違えど、(いくさ)もなく平和に過ごしてきた人族と、争い続けてきた始祖四種族。作者は様々な差別や争いを憂いていたのかもしれません。なのに何で気付かなかったんだろう……。この最後の節に全てが詰まってるような気がするんです」


 仙王は本を手に取り読み進めた。


 

 そしてパタンと本を閉じた。


「……なるほどな。君の推測はそう遠いものではないのかもしれんな」



 

 昔々の物語

 始祖四種族の物語。

 人が生まれて幾年(いくとせ)

 この世を治める四人の王。


 四人の王はそれぞれの

 過去を悔いては思い詰め

 人族の世への憧れを

 (いだ)いてそれに嫉妬する。


 これはこの世の物語

 始祖四王の物語……



 A・ノルマンディ 著


 


【ミックス・ブラッド ~異種族間混血児は魔力が多すぎる~ 完】

 


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