これから
「よし、Perchに行くか。今日は開いてるよな?」
「うん、定休が変わってなければ開いてると思うよ」
「みんなビックリするだろうね! ユリアンも行くよ!」
「えぇ、今日はお付き合いしますと言ってしまったのでね」
東の繁華街の中心部。
一際大きく煌びやかな店に入る。
「いらっしゃいませ。六名様ですね、ご案内いたします」
「久しぶり!」
「……? えぇ!? ロン?」
若い黒服はロンの元同僚だ。
「エマさん達に声掛けてくるよ!」
席に案内され、黒服は奥に引いて行った。
「へぇ、ここが話に聞くロンの元職場か」
「うん、皆に良くしてもらったんだ。ユリアンも楽しめると思うよ」
エマはホールを皆に任せていると言っていた。すぐに席に来た。
「みんな久しぶり! ロンくん大きくなったねぇ……すごくカッコよくなったね」
「お久しぶりですエマさん! 彼は俺の親友でユリアンです」
「お邪魔してます。よろしくお願いします」
ユリアンは、美女を前にしても全く動じない。スマートに挨拶し、ニッコリ微笑んだ。
さすがは誰もが認める甘いマスクの持ち主だ。余裕を感じる。
「少ししたらジェニーとニナも来るから、ちょっと待ってね。他の女の子とも飲みたければ呼ぶけど、どうする?」
ユーゴの横に座ったエマは笑顔でそう言ってきたが、じゃあ呼んでもらおうかなどとは言えない。
トーマスも横にジュリアがいる。何も言えない。
皆に水割りが行き渡り、乾杯した。
「随分長い事会ってない気がするね。心配過ぎて寝不足だよ……ホントに良かった」
「おいおい、こんなに忙しいのに寝不足って、無理するなよ?」
「ユーゴ君が隣にいればゆっくりできるよ」
――今晩はイチャイチャだな、楽しみすぎる。
「皆いらっしゃい! 心配してたんだよ……元気そうで良かったぁ……」
ジェニーとニナだ。
ロンとエミリーの間にニナが座る。ロンは少し頬を赤らめて俯いた。
立派に成長したロンと、エミリーの眼の色に少しに驚いた様子だが、久しぶりの再会に会話も弾むだろう。
「あら、はじめましてだね! 私はジェニー。ロン君のお友達?」
「はっ……はい! ユッ……ユリ……ユリアンと言います!」
――あれ……?
「昇化してるんだね! ロン君もだからビックリしたんだけど……若いのに頑張ったんだね」
「はいっ! ロッ……ロロッ……ゴクッ……フゥ……ロンとは騎士団の同僚です!」
ユリアンは水割りを一口飲んで気を落ち着けている。
「ユリアン……大丈夫か?」
「え!? なっ……何がですか!?」
――こいつ……分かりやすっ。
甘いマスクを紅潮させてドギマギしている。
皆がユリアンを見てポカーンとしているが、皆大人だ。野暮な事は言わない。
皆で乾杯しなおし、皆の無事を噛み締めた。
「ねぇ、明日臨時休業にするから、ロン君とユリアン君の騎士団入団祝いしよっか。みんなの無事も祝わないと」
「良いのか?」
「もちろん! ロン君がいなかったらこの店はないかも知れないんだから。恩人のお祝いは店を上げてしないと」
「ありがとうございます!」
ユリアンが意外そうな顔をエマに向けた。
「え、僕まで良いんですか?」
「もちろん! ロン君のお友達だもん。一緒にお祝いしましょ」
ジェニーの前とそれ以外、どっちが本当のユリアンなんだろうか。
明日の約束をし、お開きとなった。
「じゃ、また明日な!」
「おやすみー!」
ホテル組と別れ、帰る方向が同じユリアンと歩き始める。
「ユーゴさんはどちらへ?」
「あぁ、さっきのエマの家にね」
「なるほど、そういう事ですか。どうりで」
「ジェニーの事、気に入った?」
「えっ、あぁ……ユーゴさん……僕、女性の前であんなにドキドキしたの初めてなんですよ……みんな綺麗だけど、ジェニーさんはそれだけじゃない。全てが完璧だ」
ジェニーはスタイル抜群で超が着く美人だ。少しバカではあるが。
「いい事なんじゃないか? でも、ジェニーはあの店の人気者だ、ライバルは多いなぁ」
「そうですよね……しかも僕はまだ18歳だ。もっといい男にならないと。俄然燃えてきた」
――おぉ……この男前を本気にさせるとは……。
「また明日も会えるしな。でも普通に喋れる様にならないとスタートラインにも立てないぞ?」
「そうですよね……自分でも驚いた……」
ユリアンと別れ、エマの部屋を魔力認証で解錠し中に入る。ウイスキーを飲もう。
――これからどうするかな。
トーマスとジュリアは里に居を構えている。トーマスはヤンガスに弟子入りして刀を打ち始めた。
エミリーはメイファの診療所で働いている。マシューとの関係も良好だという話だが、男女の関係にはまだ遠いようだ。ただ、エミリーは気にしている様子はない。
――オレは何がしたいんだろう。
里で暮らさなければならないという事は無い。
「ただいま!」
「あぁ、おかえり。お疲れ様」
立ち上がって玄関に迎えに行く。
エマはユーゴに飛びついてきた。
「ビックリした! どうした?」
エマはユーゴの胸の中で泣いている。
「ホントに心配したんだから……ユーゴ君が死んじゃったらどうしようって……」
「うん……ただいま」
「おかえり……」
確かに、どう転んでもおかしくは無かった。
――左腕が飛んだ事は伏せておこう……。
顔を上げたエマの涙を拭う。
「なぁ、オレと一緒にならないか? もう少し広い家を買って」
「え……? それってプロポーズ?」
「あぁ、そうだな。ダメか?」
また涙をいっぱいに溜めてユーゴの胸に顔を埋めた。
「ダメなわけないじゃない! よろしくお願いします」
「オレはベルフォールの男じゃないからな、このペンダントは取るか。お揃いのアクセサリー買いに行かないか?」
「うん、明日見に行こっか!」
今までお揃いで付けていたネックレスだ。代わりの物があった方が良い。けど、これからは離れて暮らすわけではない。
「数日店休めるか? 里に挨拶に行きたい」
「うん、みんなにお願いしてみるね」
明日は昼までゆっくりしよう。
命ある事を感謝し、久々の二人の夜を楽しんだ。