表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/241

繋ぐ力


 左腕を治療術で止血する。


 ――龍胆(りんどう)は……あった、あそこか。

 

 龍胆の柄にはユーゴの左腕が握られたままだ、エミリーに治療を頼もう。刀と腕を空間にしまうと周りが動き出した。


 ルシフェルの上半身がドサリと地に落ちた。


「クッソ……なんでオレ様が殺されてんだ……テメェ何しやがった」


 ルシフェルが霊体となり、亡骸から抜け出た。こいつの特異能力は体外離脱だ。まだ終わってない。

 霊体とはいえ魔力を持っている。ユーゴが視認できる理由は、魔力を感知できるからだろう。


 「全軍に伝達。魔神ルシフェルは斃れました。しかし体外離脱し霊体と交戦中。至急対策を」


 それを聞いてレイが答える。


「承知した。(それがし)がソフィアと共に向かおう、それまで持ちこたえてくれ」

「了解、場所は……魔力を解放します。辿ってください」

「分かった」


 魔力を全開放し、不動(フドウ)を構える。シュエンの記憶では錬気を纏った刀が有効だった。聯気(れんき)なら更にだろう。絶対に誰かに憑依させてはいけない。


『剣技 風車輪(ふうしゃりん)


 浮遊して逃げようとするルシフェルに斬撃を飛ばす。動きは速くない、いくらでも対処可能だ。


「クッ……鬱陶しいな……」

「誰にも憑依させねーぞ、オレが攻撃してる限り、移動もままならないみたいだな」


 少しすると、トーマスとエミリー、ジュリアが合流した。


「魔力全開放って事は何かあったんだろうとは思ったけど、なるほどね」

「ユーゴ……左腕……」

「あぁ、異空間に入れてる、後でいい。ここに来たって事は、皆勝ったんだな?」

「そっか、なら問題無いね。アレクサンドはもういないよ」

「僕も復讐を果たしたよ」

「パク一族の女ももういない」


 ――さすがオレの仲間達だ。


 こんなに心強い事はない。


「よし! あいつを絶対憑依させるなよ!」


「「「了解!」」」


 霊体のルシフェルの魔術は取るに足らない。トーマスの守護術でなくとも対処可能だ。

 皆が刀を抜き、波状攻撃で奴の動きを封じている。


「おまたせ! 私に任せて!」


 ソフィアとレイだ。

 ソフィアは魔封眼による封印術のスペシャリスト、この難局は彼女にしか乗り切れないだろう。


「小娘……テメェはオレの邪魔ばっかりしやがる」

「私をあの時の小娘だと思わない事ね。終わりよ、ルシフェル」


 ソフィアは春雪(しゅんせつ)を抜き、ルシフェルに突き刺して動きを封じた。


「ちょっと待て小娘……一緒に天界に帰る道を模索しねぇか……? テメェも帰りてぇんじゃねぇか?」

「私はほとんどをこっちで過ごしてるの、今更帰りたいと思わないわ。歴史を知ってしまえば尚更ね」


 レイが後ろに付き、ソフィアの背中に右の掌を置いた。


「やれ、ソフィア」


 レイにそう言われ、目を瞑り詠唱を始めた。


『神式封印術 破邪滅魂(はじゃめっこん)!』


 ルシフェルが眩い光を放ち、徐々に薄くなっていく。


「クッソォ――!!」


 罵詈雑言を吐きながら消えていった。

 それを見届ける様にレイの身体が崩れ始める。


「ちょっとレイさん! まさか私に全魔力を注いだの!?」

「この世界は(それがし)が生きていて良い場所では無い、ここらがいい引き際だ。其方(そなた)ら、まだ戦は終わっておらんぞ、前を向け」


 そう言ってレイの身体は塵と消えた。


 ――何が起きた……?


 しかし、レイの言う通り戦の最中だ、状況確認は後だ。


「全軍に伝達。魔神ルシフェルは消滅、魔王マモン、アレクサンドも撃破」

「本当か!? こちらも魔族軍の幹部を撃破した。良し、全軍前進だ。奴らが二度と再起できぬよう殲滅せよ!」


 通信機を持つ者が戦況を全軍に伝え、士気は最高潮。幹部の殆どを失った魔鬼連合軍は為すすべもなく敗走、殲滅戦が始まった。



 ◇◇◇



 正午過ぎに始まった大戦は、夕日を待たずに仙龍連合軍の大勝で終わった。

 各軍戦場の処理をする中、ユーゴは腕の治療の為、後方の医療班に来ている。気付いてはいたが、皆が言い出せないことをエミリーに投げかけてみた。


「エミリー、眼の事はもう良いのか?」

「あぁうん、アレクサンドを目の前にしたら、この眼を隠して戦うのは違うと思ったんだ。多分、トラウマを抱えて戦うのは負けだと思ったんだろうね。なんか……吹っ切れたよ」


 エミリーのトラウマは相手を倒すことで払拭された。これからは青い眼を晒したまま生活していく様だ。 

 

「エミリー、腕を頼めるか?」


 異空間から左腕を取り出し、エミリーに渡す。相当な斬れ味だったらしい、肘の下あたりから綺麗に切断されている。


「私、人の腕くっつけるの実は初めてなんだよね……失敗したらどうしよ……」

「普通は元に戻る事なんてないんだ。指の一本や二本動かなくたって文句言わねーよ」

「そう言われると更に緊張するね……」


「んじゃ、ウチに任せてょ」


 シャルロット女王だ。


「ウチの眼の力は『結眼(ゆうがん)』って言って繋ぐ力なんだ。神経や各組織を繋げてからエミエミが治療したら元通りだよ。メイリンちゃんから貰った知識も大きいね」


 シャルロット女王も回復術師だろうと思っていた、良い能力を持っている。

 メイリンは傷もなく再生させたという、すごい術師だったらしい。


 女王はユーゴの左腕の断面を合わせ、魔力で繋ぎ合わせる作業に入った。

 左手の感覚が徐々に戻る、痛みは無い。


「よし、良いね。エミエミよろしく」


『治療術 四肢再生』


 ユーゴの左腕は傷跡もなく元通りになった。拳を握っても開いても全く違和感がない。リハビリをする必要もない程に完璧な治療だ。


「どう……?」

「全く問題ない。元通りだ、ありがとう。シャルロット女王もありがとうございます」


「いいょいいょ。あと、クリちゃんも命は繋ぎとめたからね。心配だったでしょ」


 ――クリちゃん……? あぁ、里長か! そうだ、状況を聞かないと。


「里長は回復されたんですか?」

「うん、さっきも言ったけど、ウチの眼は繋ぐ力。説明が難しいけど、肉体と魂を繋ぎ止める事も出来る。息さえあれば、ウチの魔力が続く限りは延命できるんだ。メイファちゃんの術で一命は取り留めたょ。ただ、元通りに動けるかどうかはまた別の話だね」


「じゃ、私行ってくる!」

「あぁ、頼むよエミリー」


 ――良かった……命さえあればそれでいい。



「ユーゴ、聞こえるか?」


 仙王からの通信だ。


「はい、ユーゴです」

「宝玉は誰が持っている?」

「あぁ、紅と黄ですか」


 ――そうだ。誰が持ってたんだろう。


「マモンが二つとも持ってたよ。アレクサンドから流れてきたのかもだけどね」

「なるほどな、トーマスが持ってます」

「そうか、四つ合わせると何が起きるか分からん。良い事が起こるのか悪い事が起こるのか。様々な可能性を考えて、今は四つを近付ける事はしたくない。我々は西の砦に引くが、君たちは東の砦に宝玉を預けてから来て欲しい。戦後の話もしたいからな」

「分かりました、そのように」


 

 ここは龍族の治療班。

 息を引き取った人達も少なくない。これが戦だ、仕方ない事ではあるが、やるせない。


 ユーゴ達も治療をして回り、日没後に東の砦に帰陣した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ