仙族 VS 魔族
昔と同じく魔族は個々の能力が高い。しかも剣術や魔術を扱う者もいる。
しかし、仙族も聯気を手に入れた。修練を積んだ者達は互角に戦っている。
仙王は同胞達の視界から戦況を見て、指示を出している。
「西側が手薄だ、兵を送ってくれ」
「かしこまりました」
仙王の千里眼は後方で戦況を視て指示を出すのに役に立つ。しかし、両軍乱戦の状態で出来ることは少ない。
仙族は押されている、原因は明らかだ。魔族の幹部達が前線に出て暴れているのが見える。
「全軍に連絡だ。龍王が鬼王を討ち取った」
レイの声だ。
「なんと……よし、これを受信した者は声を上げて皆を鼓舞してくれ。事実を皆に伝え、士気をあげるぞ」
「了解」
「レイ殿、メイファはどうした?」
「その事だが、鬼王を討った龍王は意識不明のままメイファが後方に下げた。彼女に変わって某が龍族の指揮権を受け継いだ。龍王は正直危ないな」
――あの若い鬼王……そこまでとはな。
龍王は覚悟を決めていた。後ろを振り返ってはいけない。
――あの四人は……ユーゴやジュリエット達が対峙しているか。
「ライアン、聞こえるか」
「はい」
「君は指揮権を部下に与えてこっちに来い。我は最前線に打って出る」
「え……」
「何も言わずに来い、我も覚悟を決めていると言っただろう」
「……分かりました」
――ティモシーは……あそこか。
「良し、我はティモシーと合流し最前線で奴らに当たる」
「ちゃんボク達も連れていってもらうよ」
レオナードとシャルロットだ。
「君達は人族の世の為に残って欲しいが……言うても聞かんな」
「懐かしい顔が居るんだろ? ちょいと挨拶してこようじゃないの」
「……ただ、シャルロットには頼みがある」
「だろうね。分かったょ、行ってくる」
「あぁ、悪いな。代わりにルイーズ、行けるか?」
「ええ、勿論です」
「ルイルイが一緒なら安心だね。んじゃ、行ってくるょ」
ライアンの到着を待たずに、レオナードと長女ルイーズと共にティモシーの所まで飛ぶ。前線に近づくに連れ、戦況も激しさを増す。
「ティモシー! 行くぞ!」
「おうおう! やっと来たかよ!」
怪我人は後方に下げて治療させてはいるが、息を引き取っている同胞たちも少なくない。
これが戦だ、どうしても犠牲は出る。
ティモシーと合流して最前線へ移動した。
「なんだ、臆病者のラファエロが前線に来るとはな。今回は龍族が一緒では無いのか?」
「千年以上も前の事を引きずり出して来るとはな。何の成長もないとみえる」
原初の魔族、アザゼル・ヴァルファールとラミア・エリュシオンだ。
「そちらはアスタロスの子達か?」
「あぁ、次男と三男だ。懐かしいねぇ、わざわざ殺されに来るとは手間が省けていいねぇ」
次男アグレスと三男マルバス。
マルバスは昔と変わらず、への字口でこちらを睨みつけている。
「積もる話もあるだろうが、ここは戦場だ。死んでもらおう」
「こちらのセリフだ。覚悟しやがれ」
ティモシーを先頭にそれぞれ剣を構える。
「相変わらず剣だけは素晴らしいな。お前を殺して俺が貰うとしよう」
「君ごときが扱える代物ではない。この『聖剣エクスカリバー』はな」
ティモシーは盾を構えて奴らの攻撃に備える。
『守護術 堅固な城壁』
弟子を多く持つティモシーの鉄壁の守護術。しかし、仙族のシールドマスターはこれでは終わらない。
『守護術 堅固な板金鎧』
パーティーメンバー個別に付与する守護術。
鎧鍛治のティモシーが創る聯気の全身鎧だ。全身鎧とは言っても動きを阻害するようなものでは無い。
勿論ティモシーにしか出来ない眼の力だ。
当然各自守護術は掛ける。
三枚の守護術による鉄壁の防御だ。
『風魔術 風魔召喚』
『火魔術 炎熱領域』
アザゼルとラミアの連携魔術。
風と火が互いを増幅し、螺旋状に先頭のティモシーを襲う。凄まじい轟音と共に辺りを赤く染めた。
「何……?」
しかしティモシーの守護術には亀裂ひとつも入れることは出来ない。
「フン、この程度の術を何発喰らおうが、俺の守護術は突破出来ねぇよ」
渾身の一発だったのだろう。
二人の顔が歪んだ。
反撃だ。
『仙術 太陽嵐』
太陽光と風の自然エネルギーを込めた魔聯気による混合仙術。
『守護術……魔障壁』
仙王渾身の仙術は、への字口のマルバスによる守護術を吹き飛ばした。
しかし、四人は無傷でその場に立っている。
「敵も一筋縄ではいかんようだな……」
四人が纏っているのは鬼族の闘鬼だ。しかも数段精度が高い。
――あれは鬼族にしか出来んはずだが……あの魔神の入れ知恵か。
アザゼルが動く。
奴の特異能力は単純に身体能力の強化だ。
ただ、あの巨体が途轍もないスピードで突進してくる。奴の武器は身体強化されたスピードから繰り出される拳だ。鋼鉄のグローブを両手に付けている。
巨体がティモシーに突進する。
「クッソ……相変わらず目眩がするほどの衝撃だな……」
ティモシーの守護術をもってしても、突き飛ばされずにその場にいることで精一杯らしい。
昔より威力が上がっているのはあの精度の高い闘気のせいだろう。
「ルイーズ、ティモシーのサポートを頼む。レオナード、行くぞ」
「了解」
レオナードがティモシーの前に立ち、四人の注目を集めた。
『逆眼 反転』
ティモシーに突進を繰り返していたアザゼルは、勢いよく後方に吹き飛んだ。
レオナードの眼の力は行動の反転。
右に行こうとすれば左に動き、前に行こうとすれば後ろへ移動する。守護術を掛けようとすれば解除する。誰が食らっても大パニックに陥る。
上手く皆がレオナードの眼を見たようだ。
レオナードは千年前とは容姿が違う。人族の世を創り上げた今は全くの別人と言っていい。
奴らも大昔に魔族達をパニックに陥れたこの凶悪な眼の力の持ち主だとは思わなかったようだ。
「よし、後は我に任せよ」
聖剣エクスカリバーを両手で構える。
仙王の真髄は、剣聖と呼ばれるまでに磨き上げた剣技にある。千里眼などたまたま得た覗き能力に過ぎない。
『剣技 剣聖の舞』
上手く動けず避ける事も叶わない四人を踊るように斬り刻む。
聯気で更に斬れ味を増したエクスカリバー。
行動の反転で纏った闘気を解除した生身の身体など、獣を解体するより容易い。
首を刎ねられた四人の魔族は、バタバタと倒れた。
「見事だ。相変わらずスゲェ剣技だな」
「いや、レオナードの凶悪な眼の力のお陰だ」
「本当、とんでもない力……その変な喋り方がその眼の力を生んだなんて、おかしな話だわ」
「変なベシャリ方とは失礼だなルイーズ。まぁ、ちゃんボクは剣技も仙術も人並みだからね、この眼の力には感謝だよ。ただ……一気に魔力を使うからもうヘトヘトだけどね……」
――本当にレオナードが味方で良かった……あの力には勝てる気がせん。
「よし、仙族軍! 押し返せ!」
幹部を失った魔族への反撃が始まった。