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宣戦布告


 始祖四種族の寿命は長い、だから自分の年齢にそこまでの頓着がない。ただ、人族は寿命が短い分自分の年齢に拘った。

 

 太陽は常に東から上り西に沈む。一年を通して太陽との距離が違うため気温は変化するが、動きは変わらない。

 一定の動きをする太陽の動きと、繰り返す四季で大まかな年数を数えていたのは大昔の話。

 ウェザブールの王達は、太陽がてっぺんに登る正午を基準に次の日の正午までを一日とし、360日を一年とした。それは完全に四季のサイクルと一致し、人族は年齢を数える事ができるようになった。

 初春日(しょしゅんび)から一年間に生まれた子供は、次の年の初春日に等しく一つ歳を取る。だからユーゴ達は今日25歳になった。そういう意味でも初春日は王国にとって特別な日であり、各地で一日中盛り上がる。


 それを知ってか知らずか初春日の今日、北の砦に魔王マモンの使者が書状を持って現れた。

 仙、龍、人族の幹部がオーベルジュ城の一室に集まっている。


「ご丁寧に初春日に手紙(ガミテー)を持ってくるとはね、これは嫌がらせと捉えていいかもしれない」

「ホントそうだょね、城下は朝から大盛り上がりなのに」


 仙王の手にはマモンからであろう書状が握られている。


「さて、まずは内容を読み上げよう」


 読み上げられた書状の内容は、口約束で終わっていた停戦はこの書状の到着を持って破棄とする事。(あお)(すい)の宝玉を無条件で差し出すのなら、今後一切の干渉はしない事。

 その二つだけだった。


「宝玉を渡せとな……奴らに四つの宝玉が渡ると言う事は天界との道が通ずると言う事だ。断じて渡す訳にはいかぬと儂は考えるが」

「我も同じだ、それこそこの世が滅びかねん」


 平和的解決なら宝玉を渡すのがいい。

 ただ、それは天界二種族との戦闘を意味する。それこそ被害が計り知れない。


「うん、論外だね。兵の数でもウチが大幅に勝ってるんだもん、強気に出ても良いょ」


 皆静かに頷いている、考えは同じだ。


「一週間以内に北の二つの砦に兵を収容する。国に残った仙族と龍族に兵の移動を要請しよう」

「分かった、通信機を借りようかの」


 仙族軍三万、龍族軍二万、王国軍五万を近日中に砦に収容し、魔鬼連合軍に対して更なる厳戒態勢を敷く。

 ここ最近の軍の動きは慌ただしく、騎士であるロンは休みなく働いている。レトルコメルスへの報告はまだまだ先になりそうだ。



 ◇◇◇



 一週間後北の砦に全ての兵が収容された。


「しかし改めて見ても凄い施設だな……」

「確かに……一つの砦に五万人収容されてるんだ。ゴルドホークの人口より多いからね」


 ユーゴ達は新しく建てられた東の砦にいる。砦とは言っても五万人が普通に生活できるように作られている。一つの町と言っていい。

 この砦にいるほぼ全ての者が戦闘員だ。魔物を狩って食料の調達をしたり、それを野営技術で捌く事も調理する事も皆が叩き込まれている。なんの問題も無く皆が生活していける。


「へぇ、商業施設もあるんだな。王都の企業が出張してるって事か」

「あっ! 冒険野郎もあるよ!」

「ホントだ……さすが各地に展開してるだけあるな」


 敵の動きは仙王の千里眼で筒抜けだ。向こうが動いても体制を整える時間はたっぷりある。その為、皆がいつも通りの生活を与えられている。



 二つの砦はそこまで離れている訳ではない。軍で訓練を受けている者ならすぐに移動できる。

 仙族と王国の幹部は西の砦にいる。以前の大戦中からしっかり手入れされて使い続けられている守りの要だ、本部は西の砦に設置されている。


「客人に移動を強いるのは心苦しいが、龍族全てを収容するのは東の砦でなければならんかった。許せ龍王よ」

「これしきの移動など散歩と変わらぬ。客人などと言うな、我々は同じ軍であろう」

「そう言ってもらえると有難い。では軍議にうつろう」


 軍の幹部が円卓に着き、軍議が始まった。仙王が敵の動向について話し始める。


「敵軍の総数の詳細は分からんが、我が軍が優位なのは間違いない。ただ気になる事は、以前魔神ルシフェルが放った魔術というものを扱える者が多くいる様だ。仙族であるアレクサンドも魔術を習得している。昇化した人族までもがな」

「奴らの仲間に人族がいましたね。ダークブラウンの髪は珍しいからよく覚えてます」


 それを聞いてレオナード王が組んでいた腕を解いた。


「ダークブラウンの髪の人族(ゾクジン)がいたのか? それジョカルドのパク一族だよ」

「ほぉ、有名な一族なのか?」


「うん、パク一族は何故か生まれながらにして昇化してるんだょ。しかも、昇化してるにも関わらず生殖能力が落ちないんだ。色々調べたけど原因は分からない、突然変異の類いって結論づけたょ」


 奴らと行動を共にしていたシュエンが口を開いた。


「そいつはサラン・パークと名乗ってたな、確かに戦闘のセンスはかなりのものだった。そして彼女は医者の家系の出らしく、回復術師としてもかなり優れていた」

 

「……なるほどな、ただ人族はそれだけでは無い。他にも数十人いるな」


 王国に流れてきている魔族や鬼族も少なくない。向こうに行く人族がいるのはおかしい話ではない。

 人族は寿命が短いが子を多く産む。昇化すると寿命が伸びるが生殖能力が格段に落ちる。それが無い特殊な一族か。


「今後の話に移るが、主戦場はここから真北のパラメオント山脈最北端と東のモーンブロン山の間の平地になるだろう。昔の大戦と同じくな」


 

 戦争を経験している者の方が圧倒的に少ない。が、それは敵も同じ事だ。


 魔鬼連合軍が動き出したのは二日後の事だった。

 

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