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早すぎる成長


 テオドール団長について歩いていると、すれ違う騎士達が立ち止まり敬礼をする。規律正しい世界だ。

 レトルコメルス出身の騎士達も多く、オリバーへの挨拶で中々目的地に到着出来ない。


 目的の部屋に着くと、皆が一斉に敬礼を向けた。


「ユリアン、ロナルド、クララ、ペドロ、こちらへ来てくれるか」


 呼ばれた四人は返事をし、緊張の面持ちでこちらへ来るが、ユーゴやオリバー達の顔を見てホッとした様子だ。


「おい、ロン……お前昇化したのか……?」

「ユリアンも……君達、確かにとんでもない事をやってのけたな……」


 ロンとユリアンの眼が緑色になっている。二人はまだ17歳だ。

 トーマスは19歳で昇化したが、それでも例が無いほどに早かったらしい。ただトーマスは出生が特殊で、魔力気力共に人族の平均を大きく超えていたため比較対象にはならないだろう。


「騎士団学校在学中に、しかも17歳で昇化するなんて前代未聞だ。末恐ろしいよホント……」


 三年振りに会うロンは、ユーゴと変わらないくらいに背が伸び、しなやかな筋肉がついている。


「ロン……お前、かなり頑張ったんだな……」

「うん、ユリアンに負けない様にかなり修練を詰んだからね」

「こっちのセリフだ。お前が昇化した時は本気で嫉妬したよ、僕が昇化できたのは確実にロンのお陰だね」


 いいライバル関係にあるようだ。

 他の二人もそれに負けじと切磋琢磨したようだ。三年前とはまるで違う。


「あと、試験の時にユーゴさんに手も足も出なかったのが良かったと思います。僕は自意識過剰だった、そこらの大人より強くて調子に乗っていた。ユーゴさんに背後を取られて目が覚めましたよ」

「いや、ユリアンの強さにはオレも少し本気になった。突き殺される訳にはいかなかったからな」


 これは本音だ、眼の力まで使ってしまった程だ。

 二人の昇化者を出すほどに皆が修練し、基礎能力も高い。ロン達の代はかなり期待されているようだ。

 

「四人とも良く頑張ったね。こちらも自信を持って送り出したが、予想以上だよ。前も言ったが、この国は実力主義だ。更なる努力を期待してるよ」

『はいっ!』


 四人の力強い返事にユーゴも気が引き締まる。大戦はもうすぐそこまで迫ってきている。



「テオドールさん、騎士達を食事に誘ったりしてもいいんですか?」

「あぁ、彼らはもう学生じゃない、立派な騎士だ。基本的には執務時間以外は何をしても構わない、急な呼び出しも稀にあるけど飲酒に関しても制限していないよ。夜勤でなければどうぞ連れ出してくれ」

「そうですか、分かりました」


 夜にはロンと食事をしよう。エミリーとトーマス、ジュリアも誘ってみよう。

 ロンに待ち合わせ場所を伝え、騎士団詰所を後にした。


 

 ◇◇◇



 今回もオーベルジュ城にお世話になっている。三年も経つとメイド達も入れ替わっているようだ。リナは違う所に配属されたらしい。ここにいればまた会うこともあるかもしれない。


 四人で門を出て、東の繁華街シャンガルド通りに向かう。王国一の繁華街は今日も賑わっている。

 待ち合わせの定番、ブロンズの騎士像前でロンが手を振っている。

 

「待たせたか?」

「いや、さっき来たとこだよ!」

「ロン、背が伸びたな! アタシよりも大きくなってる」


 ジュリアがロンに近づいて背比べしている。美しい顔が近づいてウブなロンは顔を赤らめた。


「本当に立派になったねロン。もうお酒も飲むんでしょ?」

「うん、嗜む程度にはね」


 立ち話もそこそこに目当ての店に向かった。

 前にサンディに連れていってもらった魔族料理の店だ。


「ここのステーキの味が忘れられないんだよな。フライドポテトは無限に食べられるし」

「へぇ、初めてだ! 楽しみだね」



 まずは料理をオーダーし、運ばれてきたビールで乾杯だ。


「ロン、夢を叶えたな、本当におめでとう。出会いはかなり特殊だったけど、あの時に真上を飛んでて本当に良かった。その年で昇化するなんて相当な努力をしたはずだ、オレはお前を尊敬する。ただ、騎士としてはまだ駆け出しだ、今からさらに精進して……」

「話が長ぁーい!! 泡が無くなっちゃうじゃん! カンパーイ!」


 ――エミリーに取られた……うん、飲みながら話そう……。



 テーブルに並ぶダイナミックな料理に皆がかぶりついている。ジュリアもエミリーも初めてだったらしく、気に入ったようだ。


「ずっと気になってたんだけど、Peach(パーチ)は変わりない?」

「あぁ、お前が育てた黒服たちが小遣い稼ぎにギルドの依頼をこなしてるくらいだ」


 蛇神の王(ナーガラージャ)を女二人で返り討ちにしたという噂は、レトルコメルス中を尾ひれをつけて駆け巡り、ほとんど手を出しに来る者がいなくなった。


「SSランクの冒険者が三人もいる店だ、手を出すにも相当な覚悟がいるだろうな」

「なら良かった……あと……」


 ロンがモジモジしながら言いにくそうに口を開いた。


「……ニナさんは彼氏出来たりしてない……?」


 皆がいきなり何を聞いてきたんだというような顔をしている。そしてエミリーが察した。


「あぁ! ロンはニナが好きなんだね!」

「エミリーさん! 声が大きい!!」


 ロンは更に顔を赤らめて言葉を続けた。


「俺、この想いをいつか伝えたいんだ。ニナさんからしたら俺なんてまだまだ子供だと思う。でも、俺ももうすぐ18だ。男として見てもらえる年になったと思ってる」

「三年離れても変わらない想いだ、伝えるべきだと思うぞ。オレは応援する」


 三人も笑顔で頷いている。


「でも……20歳になってからにしようかな……」

「ニナはPerchの人気者だよ? 取られちゃうよ?」

「そうだよね……正直今までの関係が崩れるのが怖いんだ……」

「まぁ、とりあえず報告がてら帰って会えばいいんじゃないか? その時お前がどう思うかだ」

「うん……そうだね……」


 王都からレトルコメルスへの移動に野営は必要ない。長期休暇でなくとも行くことは可能だ。

 おそらく今は長期休暇は降りない、二日ほどの休みなら付き合ってやろう。


 立派に成長したロンと初めて酒を酌み交わした。見た目と称号は立派になったが、中身はさほど変わらない弟子に少しホッとした。


 ほろ酔いでオーベルジュ城の門前まで戻り、ロンの背中を見送った。

 

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