表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/241

模擬戦


 一人目は『ミゲル・シルバ』だ。

 ユーゴと同い年の22歳。色黒の大柄な男で、武器は両手大剣を持っている。

 気は抜けない、お互い正面に構える。


 ミゲルの剣戟を守護術で防ぐ。

 パワータイプの弱点が全面に出ている。大振りな剣戟で攻撃後の隙が大きく、避ける度に反撃が可能だ。こちらからの攻撃にも反応できていない。

 ある程度受けた後に、後ろに周り大きく開いた脇腹に峰打ちを入れた。そもそも模造刀だ、峰で打たなくても良いのだが。

 しかし、本気で振れば刃が無くとも斬れてしまう。ミゲルはそのままうずくまった。


「パワーがあってスピードも遅くない。けど、攻撃後の隙が大きすぎます。気力と補助術の精度を更に高めれば剣の精度も増し、その隙も自ずと埋まるはずですよ」

「はい、ありがとうございました……」


 脇腹を押さえて引いていくミゲルと入れ違いに女性が前に出る。

 二人目は『ミリアム・グレコ』19歳。

 色白の小柄な女性だ。小さい身体でスピード重視の双剣使いだ。


 二本の剣がユーゴに襲いかかる。

 やはり速い。ただ、それだけだ。無数の剣戟を浴びせられるが、剣が軽い。何と言えば良いだろうか、教科書通りの剣といった感じだ。

 反撃し、飛んで伏せた彼女の眉間辺りに切っ先を向け動きを止めた。


「速いですね。ただ攻撃が一辺倒で読みやすい、避けるのが容易だという事です。もっと動きにバリエーションを持たせた方がいい。ミリアムさんはサポートで動く事が多いでしょう。騎士団はチームだ、読まれる様な動きはまずい」

「はい……分かりました」


 ――んー、厳し過ぎるかな……。


 毎年五人程しか受からない試験だ、優しすぎるのも良くない。


 さて、最後はユリアンだ。オーソドックスな両手剣を持っている。

 最初は騎士でもないユーゴに懐疑的な目を向けていたが、二回の模擬戦で認めたようだ。やる気に溢れている。


「よろしくお願いします」

「あぁ、いつでもいいよ」


 彼はさっきの二人以上に龍眼で警戒しないといけないだろう。守護術と強化術を張り直し、動きを視る。


 ――正面から来る……って速っ!

 

 模造剣が重なり金属音が鳴り響く。龍眼で動きは分かるが、変則的な動きで惑わされる。眼前で伸びてくる様なイメージだ、アレクサンドと剣を合わせた時に似ている。

 速いうえに重い、そして技が多彩だ。ユーゴの攻撃にも瞬時に反応する。ユリアンは埒が明かないと思ったのか、バックステップで少し離れた。


『剣技 刺突剣(ソードストライク)


 バックステップからの流れるような剣突。


 ――ヤッバ……止まれっ!


 ユーゴは瞬時に後ろに移動し、ユリアンの背後から首元に模造刀をつけた。ユリアンは両手を上げ降参する。

 本気で攻撃ができないとはいえ、思わず神眼で時を止めてしまった。

 ユリアンの聯気(れんき)の精度はかなりのものだ。おそらく早い段階で自然エネルギーの体内増幅が出来ていたのだろう。


「一本入れるつもりで攻撃したんですけどね。目の前で消えるほどのスピードで避けられるなんて……手も足も出なかった」


 ――いや、殺すつもりで来ただろ……。


 驚きを隠しながら平常心を装う。


「オレもかなり修練を積んできたからね、まだ一本取られる訳にはいかない」


 見ていた二人はあんぐりと口を開けて放心状態だ。それほどまでに15歳のユリアンは凄かった。ユーゴの対人戦の未熟さが浮き彫りになった。


 ――気付かせてくれてありがとう、模擬戦を増やそう……。



 ◇◇◇



 全ての試験が終わり、試験官六人で話し合い合格者を決めた。

 整列した受験者18人の前にオリバーが立つ。


「皆、本来の力は出せたかな? 早速だが合格者を発表しよう」


 皆の緊張が伝わってくる。


「ユリアン・ネール、クララ・ロバーツ」


 ユリアンは軽く拳を握ったが表情には出さない。クララはホッとした表情だ。


「ロナルド・ポートマ……」

「ぃよぉ――っし!」


 ロンが発表を遮る様に、両手を上げ大声で喜びを爆発させた。


「あっ……すみません……」

「コホン……では最後に、ペドロ・オーランド」

 

 ペドロ・オーランド。

 基礎能力試験ではパッとしなかったが、模擬戦で力を発揮したようだ。盾役としての適正と高い攻撃能力で試験官から一本取ったらしい。


「今回の合格者は以上四名。君達はまだ騎士になった訳じゃない、騎士団学校に入学する権利を得ただけだ。まだスタートラインにも立っていないことを忘れないように」

『はいっ!』

 

「王都の騎士団学校に向け出発するのは二週間後だ、詳細は後ほど伝えよう」

『はいっ!』




 大して心配はしてなかったが、ロンが無事に合格した。オリバーの言う通りまだ始まってすらいない、これからが本番だ。



 夜はクラブPerchを臨時休業にして、ロンの壮行会が開かれた。


「皆さん、前の店から三年間お世話になりました。俺は夢への一歩を踏み出すことが出来ました、二週間後には王都に向かいます……」


 ロンは涙を浮かべ言葉を詰まらせた。エマ達は笑顔でいるが、目には光るものがある。


「本当にお世話になりました!」


 皆の拍手で宴会が始まった。


「ロンおめでとう!」

「ありがとう! ユーゴさんに一番お礼を言わなきゃいけない。本当にありがとう」

「いやいや、まずはハオさんだろ。頑張れよ」

「うん、ハオさんの所にも行ってくるよ」


 二度と会えない訳ではない、皆がロンの門出を心から祝っているのが分かる。



 騎士団学校は三年間、三年後には魔族達が動き出す可能性が高い。順当に行けばロンも前線に立たなければならないだろう。

 騎士はロンの夢だ、ユーゴがとやかく言うことではない。それは分かっているのだが。


 今は夢を追うロンを応援するだけだ。

 


【第五章 四種族対立編 完】

 

【作者からのお願い】


『続きが気になる』と思っていただけたら是非ブックマークに追加していただけると嬉しいです。

↓の☆☆☆☆☆の数で応援して頂けると励みになります!

贅沢は言いません、☆一つからでもお願いします<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ